困った頭部管
小学5年生の親御さんからご相談がありました。
現在はこの様な対応は行っていないのですが、最終的にお引き受けして良い結果となったので、何か参考になればと思い公開することにしました。
お問い合わせ
指導の先生から総銀製の楽器への提案もあり、ムラマツEXから某社の某モデルに替えたところ『高音が出しにくい、音があてにくい』などムラマツに比べて大変苦戦しているということでした。
メーカーとモデル名を見て何が起こっているのかほぼ予想がつきました。
指導の先生がどの様な意図で総銀の楽器をすすめたのか?
このお子さんはソロコンクールでも結果を残すようになったそうで、より高級な楽器に替えればもっと良い成果を収めることができるかもしれないと考えたのでしょう。
材質: 洋白 <銀 <金 = より良い楽器
価格: 安い < 高い = より良い楽器
と考えがちですが、必ずしもそのようにはなりません。
ムラマツEXは洋白に銀メッキという仕様ですが、頭部管は銀製で上位機種と基本的に同じ作りですので非常に高品質の楽器です。
私自身も同社の24K を除いてはEXで十分と感じています。
今回は総銀の楽器にアップグレードした筈が実際にはダウングレードになってしまったようです。
ですので
現在は歌口の修正及び調整といったことはお引き受けしていないこともあり、まだEXが手元にあるならばそちらを使うことをお勧めしました。
ただ、新しい楽器は中古ながらクリスマスプレゼントとして買ってあげたもので、大変喜んでいたそうです。
上記の提案に『もう少し新しい楽器で頑張ってみる』という本人のお返事だったので、このまま吹き続ければ良くない状態に陥ることは明白でした。
下手をすればフルートを吹くことが嫌いになりかねません。
ですので、取り敢えず状態を確認してみることにしました。
状態確認
まず音を出してみると、左手音域がダラ下がりになってしまいます。これは問題のある頭部管に共通して現れる現象です。音程というよりも音の性格が下向きで鳴りきらずに失速してしまう感じなのです。
特に中音の G・A・H が低くなるので正しい音程で吹くと上ずっただらしない音になります。逆にこのAの音をまともな吹き方でチューニングすると他の音が上ずってコントロールできなくなります。(場合によってはA=440に届かないことすらあります。)
歌口のつくりを見てみると案の定酷い状態でした。
タイトル画像はアンダーカットを鏡に映して見た画像ですが、粗いヤスリのキズがくっきりと残っています。
この状態を放って置くわけにもいかず、修正することにしました。
修正作業
アンダーカットはほぼ平滑に仕上がりました。
最後まで手古摺ったのが四隅に残る筋でした。
目で見て分からないところまで手を加えると穴が大きく広がってしまいます。前後左右の寸法が大きくならないように面の歪みを取りつつ、キズ状の窪みが滑らかになるよう少しずつ手を加えるのに半日ほど掛かりました。
吹いて音に影響が出なくなったと感じられたところで追い込むのを止めました。
仕上がり
当初の状態に比べて音程の問題も解消され、吹き易く密度の濃い音になりました。
これでようやくまともな楽器として材質や音色の評価ができる状態になったと言えます。つくり(仕上がり状態)の問題を無視してメーカーやモデルの違いや材質の特徴を語ることは無意味と思われます。
ご感想
おことわり
今回ご本人が楽器を選ばれたわけではなく、放置してしまうには忍びない状況だったのでお引き受けしました。結果的にも喜んでいただけて良かったと思います。
ただし、ご自身で選ばれて購入された楽器、或いはどなたかに勧められたり譲り受けた場合でもお引き受けいたしませんのでご了承ください。
問題を感じられた場合には関わった方、販売店やメーカーにお問い合わせください。