村野藤吾「八幡市民会館」を巡って
上の写真は、北九州市にある「八幡市民会館」の2019年2月時点の姿です。2016年3月末に閉館されてからすでに3年。長く使われないままの建物は、荒廃が進んでいるように見えました。
「八幡市民会館」は、20世紀日本を代表する建築家のひとり、村野藤吾による1958年の作品です。自ら「八幡出身(生地は唐津)」と語った村野が故郷に遺した作品として、また、戦災で甚大な被害を被ったかつての「八幡市」の復興を象徴する建物として、郷土史的にも重要な建物です。
私が東京から北九州市に引っ越してきたのは2016年4月だったので、「八幡市民会館」を利用したことはありません。すでに閉鎖され、内部の見学もできませんでした。ですが、北九州市に来て「八幡市民会館」の存廃問題に接したことが、結果として、その後も村野や前川國男などの作品について学び、取材するきっかけになっています。ここでは、「八幡市民会館」を巡るこれまでの経緯と現状を、過去の取材記事を振り返りながらまとめます。最新情報が入れば、順次追加していくつもりです。
市民会館としての機能は停止、民間に委ねられた活用策
最初に「八幡市民会館」について書いたのは「LIFULL HOME'S PRESS」2017年4月4日公開の記事でした。村野の簡単な紹介や「八幡市民会館」の建築としての特徴にも触れているので、「村野って誰?」「八幡市民会館ってどんな建物?」と関心を持たれた方は、ぜひご一読ください。
記事に掲載している写真は、この問題について多くの示唆をくださった京都工芸繊維大学助教の笠原一人さんにお借りしたもので、現役の頃の「八幡市民会館」と、その隣にあった「八幡図書館」(同じく村野設計で1955年竣工、2016年解体)も含まれた、一帯の美しい風景が記録されています。
「八幡市民会館」と「八幡図書館」の存廃は、施設そのものの維持管理の問題と北九州市立八幡病院の移転新築の両面で議論されてきました。その経緯は「日経アーキテクチュア」2017年5月11日号で年表にまとめています。(Web版(下記)は有料記事)
はじめに書いたように、「八幡市民会館」は「八幡図書館」とともに2016年3月をもって閉館。図書館のほうは、その後ほどなく解体されました。その直前に撮ったのが下の写真です。すでに足場部材が搬入されています。
「八幡図書館」はレンガの外壁に三角や円の模様が施された愛らしい建物で、市民の人気も高かったと聞いています。
いっぽう、「八幡市民会館」のほうは、市民からの要望を受け「民間活力の活用を前提として」当面の解体は免れました。
有志によって設立された「八幡市民会館リボーン委員会」は、2016年6月に、大阪市立大学教授で宮本佳明建築設計事務所代表の宮本佳明さんによる現代美術館へのコンバージョン案を提案。ホールの空間に耐震要素を兼ねる鉄骨フレームを組み、複数の展示室を設置する大胆なアイデアは魅力的でしたが、市はすでに市立美術館があること、耐震改修費用を負担できないことを理由に却下しました。宮本さんの案は、宮本佳明建築設計事務所のHPで見ることができます。
民間が2回出した活用案は2回とも却下、市が自ら検討へ
市は最初の案を却下したものの、すぐに解体することなく、提案の期限を延長しました。
2017年4月、「リボーン委員会」は改めて、環境デザイン研究所代表の仙田満さんと九州工業大学大学院教授の佐久間治さんの新案「北九州 こども・まちミュージアム-HAWADO-」を提出します。屋内アスレチックのような遊び場と、職業体験施設、都市建築博物館で構成する複合施設の計画でした。
しかしこの案も、資金調達や事業計画の実現性が薄いとして却下されてしまいます。ここまでの経緯を「日経クロステック」2017年7月26日の記事に書きました(有料)。
もっとも、市も「リボーン委員会」の活動と熱意は評価し、建物は当面保存、以後、市自ら内部の活用方法を検討することになったのです。
建物の保存・改修決定、「埋蔵文化財センター」の移転先に
そして、2018年8月30日。「八幡市民会館の保存決定」のニュースが飛び込んできました。そのときの記事が下記の2018年9月10日「日経クロステック」(有料)です。
これは、「八幡市民会館」の外観をなるべく維持・補修しながら耐震補強したうえで、現在は小倉北区にある「市立埋蔵文化財センター」と、市内各地に点在する埋蔵文化財収蔵庫の移転先として活用するというもの。
ホールの座席の多くは解体し、展示室と収蔵庫を新設するという。いったいどんな内観になるのでしょうか....。
下のPDFは、昨年10月4日時点で市が作成した、現在までに公開されている最新の資料です。建物の活用イメージ図や、検討の経緯などがまとめられています。
おそらく今は、コンバージョンの基本計画・基本設計が進められている段階と思われます。市では、事業費を9〜13億円と見込んでおり、10億円以上なら基本設計段階で「公共事業評価」にかけられることになります。まだまだ、先行きは分かりません。今後の進展を注視してきたいと思います。
instagramで見付けた、かつての八幡市民会館の姿
最後に、instagramで見付けた、現役だった頃の「八幡市民会館」の姿を留めた素敵な写真をご紹介します。多くの人に「八幡市民会館」に関心を持っていただければ幸いです。