買ったけど着ないグラフィックTシャツたち
イントロ
先日自分のお店のオリジナルのTシャツを作りました。コンセプトは、ロジックツリーが生い茂る公園管理局のユニフォーム(店名がLOGICだから)。バックプリントのみでフロントは無地、というグラフィック配置です。
ボディはもちろん、グラフィックも配置も完璧なものにできました。手に入れてくれた方々が、この夏たくさん着てくれていると嬉しいです。
服屋をはじめるにあたって、家の中に在庫置き場を作るためにクローゼットにある自分の服を処分しました。驚いたのが、買ったのに一度も着てない/ほぼ着てないTシャツが結構たくさんあったこと。ブラウザや店舗で見た時はいいな〜と思って買ったはずなのに家で着てみるとなんか違う、っていうのは誰しも経験したことあると思いますが、私のクローゼットにはそういうTシャツが特に多かった。
そもそも気に入って買ったはずの服なのに、一度も着ないなんていうことがどうして起きてしまうのか。
実際に、着なかったTシャツの購買プロセスを振り返ってみると、
という感じ。服が欲しいというよりはG-EAZYファンを示せる何かが欲しいって感じですね。インチ表記をセンチに変換して確認することを怠っていたり、Tシャツが欲しいのかG-EAZYグッズが欲しいのかが曖昧だったりと、Tシャツ購入をナメてる感じがします。そのへんがキープロセスになって着用時にバイブスが急激に低下してしまったようです。
一方で、長く着続けたTシャツの購買プロセスはというと、
という感じ。曖昧な消費欲求ではなくTシャツを買おうとして買っているマインドセットや、店舗で試着している点など、Tシャツ購入と向き合っている様子が伺えます。お店側がいいサイジング&デザインのTシャツを選定してくれていたということもあり、購入後も袖を通すたびに機嫌がよくなり6年間も同じTシャツを着続けられたのでしょう。最後は左脇が盛大に裂けてしまったため惜しみながら廃棄しました。
この事例に鑑みると"着つづける"ためには感情のピークをどこにもってくるのかがキーになっているようです。買うがピークになると着ないTシャツがクローゼットに積み上がり続けてしまいそうなので、着るをピークにすることが重要そう。
着るをピークにするためにはどんな条件が必要なのか。これ以上クローゼットに着ないTシャツを置く余裕はないし、なにより自分の店には5年くらい着てもらえるTシャツを揃えたいので、この辺の条件について考えてみたいと思います。
方針
先ほどの購買プロセスを元に、考えていく方向を決めたいと思います。
改めて、キープロセスと思われるものは2点。
一つは、興味プロセス。これは"どんな目的でTシャツを購入すると長く着続けられるのか"という切り口でもう少し深掘りして考えられそうです。
もう一つは、
購買(〜実践)プロセス。こっちは"どんなシルエットなら長く着続けられるのか"という切り口で考えていくのがよさそうです。
このあたりをとっかかりに、長く着続けられるグラフィックTシャツについて考えていきたいと思います。
また、グラフィックTシャツについて考える上で、上述のファクトだけだとちょっと心許ないので、もう少しファクトを増やしたいと思います。
ただ、過去の他ドキュメントと同じように、あくまでも私の主観、N=原(私の苗字です)、自分で自分でユーザーリサーチする、みたいなスタンスは崩したくないので、参照するのはあくまでも私が過去に購入/着用したグラフィックTシャツを中心にします。そのため私が思い出せる限りのグラフィックTシャツが参照できるファクトの上限です。がんばってたくさん思い出します。
マーケット観点での網羅性はありませんが、私と嗜好性が近い人にはめちゃくちゃ参考になるドキュメントになるはずです(なってくれ〜)。そのくらいの期待値で読み進めてもらえるとちょうどいいかなと思います。そんな感じでよろしく!
ということでグラフィックTシャツ研究の方針をまとめるとこんな感じ。
では早速いってみましょう。
リサーチ
まずは自分がこれまでに着てきたものを振り返ります。
思い出されるのはこんな感じ。写真が用意できないものもあるので、並べて見やすいように全部手描きにします。ちなみにサイズはすべてXLor2XLです。
こんなところが限界ですかね。そこそこたくさん思い出せたと思います。
相棒のようによく着てたんだけど細かいデザインがどうしても思い出せない...というTシャツもいくつかありますが、心を鬼にしてオミットします。
合計10種類のTシャツたち。これらの中で着用期間が長いグラフィックTシャツに"長く着続ける”ヒントがあるはずなので、購入したタイミング&レギュラー落ちしたタイミング、それぞれの動機と理由を整理してみます。
するとこんな感じ。
最短0.5年(半年)〜最長6.5年というレンジ。
ではこのファクトを元に思考を進めてみます。
考1)どんな目的で購入すると長く着続けられるのか
分析
着用年数短い群
着用年数の短い/長いでソートして動機を比較してみたいと思います。
まずは短い方。
気になるポイントをみていきます。
まずはこの3点(イエロー)。
純粋にTシャツが欲しいというよりは、目立ちたいとか、自分のスタンスをアピールしたいという目的です。Tシャツはたまたま選択した手段の一つという感じ。冒頭で記述したG-EAZYのマーチと構造は似ています。
3点とも目的に合致したグラフィックだったように見えますが、結果的にはそのアピりに特化したグラフィックが原因で早めにレギュラー落ちしてしまったようです。
残りの2点で気になるポイントはこの辺(グリーン)。
Tシャツが欲しい/デザインが気に入った、という理想的な購入動機。しかし気に入っていたグラフィックの意味を後々知り、気恥ずかしくなってレギュラー落ちしてしまいました。
着用年数長い群
着用年数が長い方も同じようにみてみます。
長く着続けているだけあってどれも理想的な購入動機だなと思いますが、そんな中でも気になるポイントを1つだけ。
この2点(グリーン)。"文脈”という概念が登場しています。
これは抽象的に捉えれば、着用年数短い群で出てきた"アピりたい"と近しい動機のような気もします。短い群の事例だと、そういう動機で購入したグラフィックTシャツは、だいたい気恥ずかしくなって数年で着なくなっていましたが、こっちは真逆の結果(どちらも6年以上)に。
グラフィックのモチーフや意図がわかりやすく出ている(出すぎている)場合は着用年数が短いけど、自分しかわからないようなグラフィックであれば、グラフィックが原因でレギュラー落ちはしない(むしろ長続きする)ということでしょうか。それとも、グラフィックの配置が問題なのでしょうか(フロント全面は長続きしないetc.)。
このあたりもう少し考察してみます。
考察
長い/短いの双方を分析してみて、どういうグラフィックだと長く着られそうかというギミックは少しわかったてきたものの、一番重要なのはグラフィックではない気がします。もう少しメタ的な視点で捉えた方が説明しやすそう。
例えば、、
長く着るために一番重要なのは"自分がグラフィックTシャツに求めていること”と"グラフィックTシャツが提供できる価値"が一致していること、などと言えないでしょうか。
振り返ってみると、私が半年で着なくなったTシャツも、私が自分の欲求に気づけていなかったことが原因だと感じます。おそらく私は性格的に"自分の好きなものをアピることの手段"としてTシャツを使うのは相性が悪いのでしょう。逆に"アピれないTシャツだと長く着続けられない"という性格の人もいるでしょう。
重要なのは自分の欲求が何で、その欲求を満たしてくれるもの(ここではTシャツ)はどんなものかを知ること。
ということで、ここまでの分析で出てきた気付きを参考にしながら、"グラフィックTシャツに求めること”を四象限マップでまとめてみます。
軸はこんな感じ。
縦軸が文脈(コンテクスト)軸。文脈を理解したい⇔どうでもいいという対比。横軸がビジュアル軸。不用意に目立ちたくない⇔率先して目立ちたいという対比です。
これに今回のグラフィックTシャツたちをプロットしていくと、
こんな感じ。右側にプロットされたTシャツたちが着用年数短い群、左側が長い群、という感じでキレイに分かれました。
私の場合は、自分の欲求が左側(不用意に目立ちたくない)寄り。
インスタントな目立ちたい/アピりたい欲求が突発的に発生して、それを満たすために右側セグメントのTシャツを購入してしまうと、本来の欲求(左側)と提供価値(グラフィックとその配置)の不一致が起きて長く着られない、という構造のようです。
まとめ
という感じで、十分思考は深められたかなと思うので、そろそろまとめたいと思います。
まとめやすいように各象限の欲求を端的に言い表すと、こんな感じかな?
上記のマップをベースに、どんな目的で購入すると長く着続けられるのかという問いに対する答えは、
マップ左側の"わかっている自分でありたい"、"普遍的な美しさを持つグラフィックTシャツを見つけたい"のどちらか。これを目的にグラフィックTシャツを購入すると、着用年数の長いTシャツが購入体験できると言えそうです。
また、完全には相関していなさそうですが、その(=左側の)目的を満たしてくれるグラフィックの配置は、
こんな感じ。このあたりにグラフィックが配置されているTシャツはマップ左側の欲求と相性がよいと言えるでしょう。フロント全面に配置されたグラフィックとはめちゃくちゃ相性悪そうですね。
考2)どんなシルエットなら長く着続けられるのか
分析
理想のシルエット
続いてシルエットについて。シルエットが悪かったら、どれだけデザインがよくても着たくない。そのくらい個人的にはシルエットがとても重要。シルエットが違うだけでまったく違う雰囲気になってしまう。
というのは実際に見てもらうのが早いと思うんだけど、例えば、同じセスローゲンでも着ているTシャツのシルエットが違うだけで
こんだけ違う。
例えば、同じジョナヒルでも、
こんだけ違う。どっちがいい悪いとかではなく"シルエットが違うだけでビジュアルが発する情報/トンマナが結構変わっちゃう”という話ね。
そんな私が理想とするシルエットはこれ。
この不健康さとさわやかさがギリギリの均衡で共存してる雰囲気。こういうシルエットでTシャツを着たい。
特に重要なのがココ。
このグリーンとパープルで追記した部分。肩から肘に向かうアウトラインをこういう感じで出せるのが理想。
このアウトラインを綺麗に出すために必要な条件は何か考えていきます。
"肩から肘へのアウトライン”の分析
"肩から肘へのアウトライン”をチェックする指標として、わかりやすいのは表記サイズ。だけど同じXLでもブランドや個体によって全然寸法が違う。ユーズド/ビンテージとなると、前のオーナーがどういう着方/管理をしてたのかによって個体差が大きいので表記サイズがあまりあてになりません。
じゃあ試着すれば解決かというと、まあ解決する。ただ、たまに試着してもミスることもある。それは"良すぎる店舗"で買い物をするとき。
完成された世界観と内装でブランディングされた尽くした店舗でTシャツを選んでいると、たまに「(ちょっとサイズは小さいけど)まあこの店で買ったこと自体を話題にできるし、多少のサイズ誤差は許容するか。何も買わずに出るのもなんか気まずいし。」みたいなマインドになってしまう。
Tシャツが欲しいのか、それともこのお店で何か買えればいいだけなのか。そのあたりの目的が曖昧になってしまう状況。少なからず私はある。
ではどうすればいいのか。
ここで解決したい問いを改めて整理すると"主観ではなく客観的に自分に似合うシルエットを判断できるものは何か"ということ。
答えは寸法。
理想のシルエットに向き合うためには、自分が求めるシルエットを構成する部位の寸法をコツコツ見ていくしかないのです。ここをさぼらないことで、感情のピークを買うではなく着るに置き続けられるはず。
考察〜まとめ
"肩から肘へのアウトライン”を構成する各部位を抽象的に定義してみると、
肩幅+袖丈(グリーン)
肩が落ちていて、且つ、肘にかかるくらいの袖丈。二の腕は常に隠れている状態。直立してる時は肘にかかるが、コーヒーを飲んだりキーボードを打つ時は肘が出る。みたいな感じの丈感が最高。肘が完全に隠れてしまうととパジャマ感が出てしまうので注意したい。
腕幅(パープル)
ドレープ(たわみ)ができるくらいの腕幅。イメージは二の腕を2本入れて少し余裕があるくらいの太さ。直立したときに袖と袖口の余りで角ができるとよい。
という感じ。
それぞれ具体的な寸法にすると、
上記のそれぞれグリーン/パープルで色付けしたところ。この寸法の範囲が私の考えるシルエットのフェアウェイです。
肩幅+袖丈については80-89cmがフェアウェイ。なかでも最高な丈は84-86cm。腕幅については21-30cmがフェアウェイ。なかでも26-28cmが一番よい太さ。
グレーアウトしているところは基本的には避けた方がベターです。
まとめ
ということでまとめます。
私にとって"買ったあと着つづける”Tシャツは、
1)目的
"わかっている自分でありたい"もしくは"普遍的な美しさを持つグラフィックTシャツを見つけたい"という目的でお店に行き、
2)グラフィック配置
下記の位置にグラフィックが配置されていて、
3)シルエット
肩幅+袖丈は80-89cm(特に84-86cm)、腕幅は24-30cm(特に26-28cm)、の寸法
のTシャツを買うこと。
上記が条件と言えそうです。この3点に注意すれば、グラフィックTシャツを買ったけど着ずにクローゼットにしまってしまうことは無くなるでしょう。
長くなったけど、スッキリした〜。私と同じ嗜好性の人、参考になったかな。私だけでなく、これを読んでくれた何人かがスッキリしてくれていることを祈ってます。ここまで読んでくれた方、、感謝。
*補足
とはいえ(まだ続くのか)、今だにこのフェアウェイから外れたTシャツを買うこともあります。というか全然ある。
2017-18シーズン頃からNBAを見出して、それによって徐々にNCAA(男子バスケ)にもハマってしまったため、それ関連のグラフィックTシャツで面白いデザインのものがあると脊髄反射で欲しくなってしまいます。この欲求に"気づいて欲しい(右上)"が含まれていないかというと、おそらく含まれてるでしょう。それでも今のところ機嫌良く着続けています。
過去にLOGICで仕入れた商品だとこの辺とか。
この辺とか、見つけた時めちゃくちゃアガりました。
どちらも、上述のデザイン配置のフェアウェイからはやや外れていますが、普遍的な美しさを感じたのでLOGICの商品として扱いました。購入いただいたお二方の夏のコーディネートに頻出してくれていると嬉しいです。クローゼットの奥に格納されていたらごめんなさい(もっとがんばります…)。
また、今年はカーメロアンソニーが引退したこともあり(私と同世代)、これカーメロが優勝した年のマーチマッドネスのFINAL FOURのTシャツじゃん!と先日反射的に買いました。ジャマールマレー優勝おめでとう記念にケンタッキー大学のTシャツも買いました。これらもデザイン位置は微妙に上述のフェアウェイから外れてますが、どちらも普遍的な美しさを感じます。
という感じで、定義してみたものの解脱するのはまだまだ先になりそうです。でも矛盾への寛容こそが人間らしさだって言うし、LOGICも長く続けたいと思ってるので、このフェアウェイをたたき台にして無地Tシャツを超える普遍的な美しさを研究し続けたいと思います。物好きなご同輩の方々は引き続き付き合っていただけると幸いです。
今後もたくさんTシャツ買って/着て、誠実にクルクル手のひら返していきつつ、私もみなさんもなるべく長く着られるTシャツにたくさん出会えることを祈って。合掌。
アウトロ
セレクトショップや古着屋などの"仕入れて売るアパレル小売業”の存在理由は何なのかたまに考えます。答えはお店の数だけあると思いますが、私は"取捨選択の代行”だと思います。
好きなDJが「人間は"選ぶ”ことにかなりパワーを消費する。そもそも人生で取捨選択できる数には限り(≒リミット)がある。仕事や家庭で日々意思決定に迫られている人の中には、音楽が好きだけど自分の選択リミットを音楽で消費したくない人もいる。そういう人のためにDJをやっている。」みたいなことを言っており、これを聞いてそのDJのことをより好きになりました。
服についても同じことが言えるような気がします。
今回のドキュメントに共感してくれた方には、LOGICを"アパレルにおける意思決定の代替"として価値を感じていただけると思うので、細々した理屈は私に任せて、感性を開放してリンクをタップしてみてください。
普段みなさんがお店のハンガーを何百回とスライドさせて見つけている好みのシルエット、且つ、好みのデザイン配置のグラフィックTシャツがたくさん置いてあるはずです。LOGICで服を買う時だけは、理屈はお休みして、安心して感情に任せてピンときたものを選んでください。
でも試着しないと結局シルエットなんかわかんないよと思った方。JPEGと数字だけじゃあ味気ないよと思った方。そんなあなたのために1日だけですがPOPUPストアをやらせていただきます。
会場は下記。
〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷1-17-9 パークハイム202(📍google map)
渋谷区富ヶ谷エリア。渋谷駅からも歩けますが、代々木八幡駅(小田急線)/代々木公園駅(千代田線)が最寄り。子どもにも犬にも優しい街です。近くにフグレンやキャメルバックもあるので、奥渋クルージングがてらぜひ遊びにきてね。
POPUPに向けて、オリジナルノベルティとか新作リメイクアイテムとかも仕込んでますので、そのあたりも楽しみにしていてください。進捗情報はIGが一番早く発信できると思うので、IGもぜひフォローしてね。
ということで、今回も長いテキストを読んでくれてありがとうございました。感謝です。
POPUPに来れそうな方、お会いできることを楽しみにしてます。お住まいの場所や諸般の事情で来られない方も、SNSなどで引き続きよろしくです。商品について確認したいことあれば、いつでもDM待ってます。
Appendix
POPUPストアで扱うTシャツですが、肩幅+袖丈は80-89cm以外のものご用意ございます。
80cm以下のものはdiplo XL、
90cm以上のものはactionbronson XL、
としてラックを分けておきますので、気分(今は肘まで隠れるのが欲しい、ワンピースみたいに着たい、二の腕を隠さず出したいetc.)に合わせてピックしてくださいませ。
試着だけでももちろん大歓迎です。それでは9月9日(土)まってます!