
窓越しの世界・総集編 2019年8月の世界
8/1【爽快】
炎天下に大粒の雨が落ちてきた。
冷たい風がどこかに吸い寄せられるように吹いて、あっという間に嵐になった。
ただただ待つしかない。
じっと。何もできない。
太刀打ちできないという爽快。
8/2【ルール】
ルールがある。
ルールは、その国、その町、その店、その家族、その人、それぞれにある。
ルールの枠から出る時、それは他のルールの中に入る時。
パソコンが開けない店にて。
8/3【また寄ってみよう】
古いレストランにはお婆さんのウェイトレスがいて、笑顔だった。
厨房のおじさんは仏頂面をしているけれど、ウェイトレスのお婆さんがホールの雰囲気を作っていた。
美味しいスパゲティーグラタンも、クリームソーダも、仏頂面のおじさんが作っているけれど、笑顔のお婆さんが持ってきてくれる。
また寄ってみようと思った。
8/4【その違いに気がつく?】
その違いに気がつく?
いつもより磨かれた床?
洗い立てのテーブルクロスの白さ?
それとも水を変えて炊いたご飯?
その違いに気がつく?
8/5【導】
導かれたいのか、導きたいのか?
導くのが先か、導かれるのが先か?
導き、導かれたらいい。
8/6【毅然としている】
音は自然界のものだ。
感じているけれど、理解できないもの。
そこには科学がある。
数式が存在して、毅然としている。
8/7【判断の繰り返しが】
今は待つ時か?
それとも待たない時なのか?
その判断の繰り返しが、人生を決定して行く。
待つか、待てるか、待たないか。
8/8【真っ白なゴーヤ】
夜風が心地よくてベランダに置いたソファーから月を眺めた。
思う通りに行くことと、そうではないことが、心の中で綱引きをしている。
ピンと張った綱。どちらに軍配が上がるのだろうか。
真っ白なゴーヤがすくすくと育っている。
夜空に浮かぶ真っ白なゴーヤ。
何も言わずに、すくすくと育っている。
ゴーヤよ、僕も黙っていられたら。
8/9【乗り方】
歩き方を覚えた時のことは忘れてしまったけれど、自転車に乗れるようになった時の感覚は覚えている。
僕は今、乗れたり、転んだりする時期だ。
乗れるようになってしまうと、何故乗れているのかがわからなくなる。
でも、何故乗れているのかを知っていなければ、乗り方を伝えることは難しい。
8/10【何もかもが繋がる】
お金がもたらしてくれるものがある。
お金より大切な価値を見つける時、それすらもほとんど、お金がもたらしてくれている。
お金という価値が、それ以外の価値を生み出すのだということに気がつくと、何もかもが繋がる。
8/11【伝えた方が良かったのか?】
お母さんと子供が歩いている。
そのゆく先に大雨があることを僕は知っている。
びしょ濡れの自動車で乾いたアスファルトを走る僕は、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
伝えた方が良かったのだろうか?と。
8/12【伝えたいこと】
僕の伝えたいことが、君の知りたいことではないのならば、
僕の伝えたいことが、君の中の何なのかを知って、
知ったところで、僕の伝えたいことが伝わるとは限らない。
伝えたいことは、言葉ではないけれど、
言葉も駆使しなければいけない。
8/13【伝える喜びにたどり着くには】
空がめまぐるしい。
雨と晴れの境目がくっきりとしていて、僕の心みたいだ。
いっそのこと、全部から隠れたい。
知る喜び、探求する喜びを経てからでなければ、伝える喜びにたどり着けないだろう。
8/14【答えのないこと】
けたたましくとも心地よい蝉のシャワーが耳に痛くない不思議。
雨上がりの公園を掛けていく長い髪の女の子が見えた。
僕はコカコーラを飲みながら、あの頃と何も変わらない夏と、跡形もない僕を感じた。
何も告げないで駆け出した君の、その理由を僕はずっと考えている。
きっと答えは無いのだろう。
そう、答えが無いことがあるから、僕たちは生きて行こうと思うのだ。
8/15【肩の荷】
大きな虹がかかっていた。
その喜びを誰にも伝えたいとは思わなかった。
本当の喜びや感動は、誰にも伝わらない。
そのことに気がつくと、肩の荷が降りるのだった。
8/16【飛ばされなかった物】
過ぎて行った出来事が吹き返す。
思いのほとぼりが冷める頃、もう一度心を吹き抜ける風は、まだ生暖かい。
吹き飛ばされなかった物だけが残り、傷ついている。
再生にかける時間を繰り返して、季節は進む。
8/17【どこまで辿るのか】
僕らば結局、あるものの中から選ぶだけのことしかできない。
衣食住、選んで構築することはできても、すでに出来上がったものを組みたてるだけだ。
この世界に至っては、選ぶ自由はあっても、選ばないという自由はない。
どこまで逃げても無いのだ。
それぞれに何か興味のある分野があるのであれば、その本質から考える。
たどって、たどってみると、今が浮き彫りになる。
どこまで辿るかは、何をしたいかによるだろう。
8/18【巡る】
人はきっと、どこまで内へ向かっても外側を目指している。
内に向かうほどにいつの間にか外へ向かっているということに気がつく。
また、外へ向かったとしても、それもまた内へ向かうのだろう。
何かを求めるということは「巡る」ということと同じなのかもしれない。
8/19【船】
伝えようとすればするほど、どれだけのことを自分が知っているのかが浮き彫りになる。
100年以上も前に、僕の疑問を説く人たちがいたことに感激をしている。
この世界の発展は、学者と呼ばれる人たちの功績だ。
進化していく者たちは、今この瞬間もとことん進化している。
世界という名の船はどんどん大きくなる。
船を作るものと船に乗る者の隔たりもまた、大きくなっていくのだ。
8/20【夜になると】
エアコンの工事ができなかった。
暑さ20センチ以上のコンクリートを貫くには、相当の装備が必要だという。
諦めてエアコンの返金手続きのため家電量販店へ向かった。
夜になると、その日から秋っぽい少し涼しい風が吹いた。
8/21【つくる】
ホームセンターへ行くと、いつかの僕とすれ違う。
つくるという言葉の持つ性質が、あの頃とは違うけれど、
同じ言葉の中にある沢山の景色を重ねて行くこともまた、つくるという言葉の醍醐味だろう。
8/22【人生で二度目】
ここ数日酒を飲んでいない。
アルコールの入った頭では到底追いつけない論文のような本を読んでいるからで、
アルコールがもたらすリラックスよりも、知的好奇心の方が優っている。
君と一緒の時は、酒はいらないんだ。
できるだけクリアな頭で、君と過ごしたいから。
そう思うのは人生で二度目だ。
8/23【生きること】
好奇心のある学びに出会えた人は幸せだろう。
それはなんというか、生きることを意味するのかもしれない。
8/24【空の向こうに】
蝉が空高く舞い上がる。
どこまで上昇するのか気になってその行方を追う。
途中からなにか不思議な現象を目撃している気持ちになり、そのうち蝉は空に吸い込まれていった。
青い空の向こうに、君の目指すものは無いと思うけれど、
それでも行くと言うのなら、一度行ってみればいいと思う。
8/25【完成品の理由】
納得しなければ次に進むことはできない。
次に進むくらいなら辞めてしまった方がいい?
描きかけの絵、作りかけのプラモデル。
今はここまで、、という完成品を作るには理由が必要だ。
理由がなければ、未完成のままやり続けるか辞めてしまうかだろう。
8/26【夏休みの感覚】
アルコール断ちをして一週間。
朝目覚めると、すこし冷たい風が頬を撫でる。
この懐かしい感覚はなんだろう。
夏休みの感覚がみなぎっている。
8/27【夢の中の僕】
多摩丘陵を越える時に見えた関東平野の夜景に胸が締め付けられたのはなぜだろうか。
斜面に所狭しと並ぶ住宅に囲まれていると、涙が溢れそうになる。
オレンジ色のライトが延々と続くパイパスの景色は、子供の頃によく見た夢の景色のようだった。
その夢のあとはいつも、寂しくて、怖くなった。
夢の中の僕は、迷子になって泣いていた。
8/28【負けを愛せるほど】
そうか、、僕はアスリートだ。
当たり前といえば当たり前のこと。
針の穴を通すような感覚など、、身も心も捧げなければ得られないのだ。
一球が勝敗を分けるような、ギリギリの戦いみたいなことをしている。
その勝敗を知れるのは僕だけかもしれないし、勝ち続けるのは無理だろう。
せめて、その負け方にも哲学を、そして負けも愛せるようになれるまで。
8/29【西新宿の寂しさ】
西新宿独特の寂しさの正体はなんなのだろうか。
誰もが通りすがり、ここでは無いどこかへ向かう心が行き交う。
高3の冬、この街を訪れた。
建築学科への進学が決まり、右も左もわからず、建物といえばビル街、、
インスタントカメラを持って、ただただシャッターを切った。
あの日の僕の行為は何かの役にたったのだろうか。
この街はいつもそっけない。
8/30【まだ危うい】
中華料理店でさえもビールに手が伸びないとは自分でも驚くべきことで、
この清々しい感覚が失われることへの拒否反応とも思える。
それはある種、恐れのようなもの。
積み重ねたものは、まだまだ危ういということ。
8/31【音だけが】
午後9時ころだろうか、花火の音がしてベランダに出ると、遠くの方に地面すれすれで弾ける花火が見えた。
8月最後の日の花火大会だった。
最後の輪が消えてしばらくしてから、音だけが届いた。
僕が消えてしまっても、同じように音だけは残るのだろう。