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窓越しの世界・総集編 2018年12月の世界
12/1【寒い日々のはじまり】
夕焼けが刻々と姿を変える。上の空がまだ青空に近い色だということに、撮った写真を見て気がつく。
見えているはずなのに見えていないもの。
一番身近な天体ショーは、そんなことを教えてくれた。
突然強い風がびゅーびゅーと音を立てはじめて、今夜はきっと寒くなる、そう思った。
薄暗い部屋に気がついて電気をつける。街の明かりもそれに続く。
やっぱり夜は冷え込んで、自転車を走らせると耳が痛い。
12/2【僕という人間】
東京ベイエリア独特の空気を感じると、否応無しに記憶が反応してしまう。
くすぶっていた時代の自分を思い出して、なんとも言えない気持ちになる。
あまり長居してしまうと、良い思い出の裏に隠れた複雑な気持ちに出会うこともある。
そんな時の僕は、まるであの頃のまま。
目を閉じてみると、過去と未来の境目が曖昧で切なく、苦しかったり悔しかったりする。
僕自身にも説明がつかないほど、僕という人間は散乱している。
12/3【僕が伝わる手段】
渋谷の夜は驚くほど暖かく、まるでこの時期のイルミネーションとミスマッチ。
どこで、何をしていても、本当のことは変わらない。
僕が今夜のラジヲに出ても出なくても、僕の本当のことは何一つ揺るがない。
それは真実として揺るがない。
ただ、僕を外に出すのであれば、僕が伝わる手段を、もっと考えなければいけない。
12/4【ほどほどに】
10時間もスタジオに入っているのに、不安でいっぱいだった。
スタジオを片付けて、コンビニでビールを買った。
半分くらい飲むと、急に疲れを感じて体が重くなる。
不安がかき消されるくらい疲れれば、ゆっくり眠れるけれど、
ほどほどにしないと、壊れてしまう。
休む事も勇気。
12/5【ミッションインポッシブル】
ここまでやったのだから。
そう思えなければ、この不安は拭えない。
だから今日もスタジオに入る。
やればやるほど入らなくなるサーブのように、どんどん的外れな方向へいく音。
ラケットが握れなくなるまでやることが正解だとは思わないから、少し息を抜こうと、映画を見る。
僕とは違うミッションの映画を。
12/6【切断】
不意に携帯電話が使えなくなった。
電波の入らない携帯を持っている僕は、なんだかこの世と切断されたような気持ちになる。
震災のときと似た、不思議な時間が流れた。
何事もなく流れる景色が、なんだか少し怖くて、そんな風に感じる自分に驚いた。
12/7【その方が幸せ】
あのマンションには僕の家族が待っている。
この時間だからもう消えていてもおかしくない明かりが灯っているのを見ると、とても安らかな気持ちになった。
眠い目のトトのお迎え。疲れた僕を労った即席ラーメンと、数日分の朝ドラ。
人は弱い方がいい。
その方が幸せかもしれない。
12/8【そればかりでは無い事も確かな事】
僕はなんであんなに笑っていたんだろうか。
見えなくなるまで笑顔で手を振って、何を求めていたんだろうか。
笑っていれば、守られる。笑っていれば、大丈夫。
とにかく自分の身を守るためだったのかもしれない。
そんな風に思うと悲しくなるけれど、そればかりでは無い事も確かな事。
12/9【感謝に似た気持ち】
スタジオを出るとひんやりとした夜風が心地いい。
今日という日がなければ、、今日の気づきがなければ。
そんな風に思うことがたまにある。今夜の時間もそうだった。
鏡に映る自分が、なんだか少し生まれ変わったような気がして、
それはなんというか、感謝に似た気持ち。
12/10【冬の始まりの朝】
くっきりと見えた富士山にハッとして、昨日までとは違う寒さの質に気がつく。
冷えた空気が優秀なレンズになっていく程に冬が深まり、春が近づく。
土の中の暖かさを感じるのは、僕もまた芽吹きを待つ心境だからだろう。
去年の灯油がまだ少し残っているのを確認。
今年も長い冬が始まる。
12/11【この声が、嬉しい】
それはまるでパソコンのショートカットキーのように作用する。
或いは、自分の利き腕をこれまで間違えていたことに気がついたみたいな驚きなんかにも例えられそうだ。
何かを手放さなければ手に入れられないものがある。
そんな言葉がよぎるようになった。
久しぶりの強い雨に濡れながら、手放してきたことと引き換えに得たこの声が、嬉しい。
12/12【疑わしい】
僕は僕のことを忘れていく。
毎日書き留めることさえも、まるで何事もなかったかのように忘れていくのを目の当たりにすると、その儚さに、途方もない絶望と楽観が入り乱れる。
自分を見れば見るほど、空っぽで、僕だと思っていたものが、疑わしい。
12/13【始まったばかり】
スタジオを出ると雨上がりで、スエード製の自転車のサドルは水をいっぱい含んでいる。仕方なくの立ち漕ぎもしばらくすると疲れ、コンビニでビールを買い、そのビニール袋でサドルを覆った。
今日も今日なりの収穫を得て、今日という日の実りに胸を撫で下ろす。
誰かの評価ではなく、自分が目指すものになる道のりは、始まったばかりだ。
一粒の種に水をあげるように、芽吹くまで、じっと水を与え続ける作業は続く。
今夜の風は、冷たすぎる。
12/14【揺らせばいい】
結論を急ぐ必要はない。
気持ちというのは揺れるから、たくさん揺らせればいい。
あっちこっちへ転がって、たくさんぶつかって、たんこぶや傷をつけてみるといい。
12/15【今の僕には】
試みは、うまくいったりそうでなかったりを繰り返す。
本番を経て、それは顕著に見えてくる。
帰り道の車で聞き返す自分の歌声には、マルとバツが入り乱れた。
深夜の関越自動車道を南下するのは、何年ぶりだろうか。
都心に近づくと、オレンジのハイウェイ灯が多くなる。
川越を過ぎた辺りで僕が帰る町はもう入間ではないという実感がこみ上げても寂しい気持ちにはならないのは、僕にはもう、ちゃんと帰る場所があるからだと思えた。
そしてこんな風に歌と向き合って暮らすことが、今の僕には丁度いい。
12/16【今夜集まる人々へ】
昼間のライブが終わってから、少しドライブに出た。歌声の修正をしなければと思い、guzuriの近所をぐるっと人周りする。
珈琲館に立ち寄って、2部の構成と、もう一度声の出し方をメモ。
今日3杯目の珈琲。
今夜集まる人々に、今の僕に歌える最高の歌を。
12/17【僕を感じること】
スタジオから帰る自転車を漕ぎながら、僕はこの街が好きだと思った。
よく行くロイヤルホストと、この街の空気は似ていて居心地がいい。
田舎の風景や、人気(ひとけ)の無い場所も好きだけれど、今の僕には人気が必要なのだと思った。
人の気配を感じると、僕は僕を感じることができる。
12/18【人生そのもの】
夜明け前。
昨日よりも積雪を増して、すっかり冬化粧の富士山がくっきりと見える。
西の空の雲がほんのりオレンジに染まる刹那、まだほの暗かった街がパッとスポットライトを浴びたみたいに浮かび上がった。
シャワーを浴びてから、寒い部屋にストーブを点ける。
新幹線の時刻を確認して、身支度。
トトにキスをして部屋を後にする。
家を出てすぐ、久しぶりに履いたスニーカーのぎこちなさに靴紐を結び直したり、
普段その通りからは見えていないはずの富士山が目に飛び込んで来たりして、なんとなく旅立ちにふさわしい気がした。
満員電車で東京駅へ向かい、今は新幹線に揺られている。
車窓から徐々に大きくなる富士山を眺めているうちに、本当は今朝のあの通りからは、
いつもこの山が見えていたのではいかという妙な気分になって、そんな毎日の曖昧なものが、人生そのもののような気がした。
12/19【何よりの幸せ】
スタジオに篭って3時間。数時間後には開演だというのに、新しい歌い方にトライしている。
何かが違うという違和感は、そのまま道しるべになって、僕を導いてくれる。
導くというよりも突き動かすと言ったほうがいい。
突き動かされるというのはこういう場合、何よりの幸せ。
12/20【まだすこし旅先】
あと10日で今年も終わりですね、なんて自分で言っておきながら驚く。
わりと暖かい気候に恵まれた旅の最後の夜。寒い。
テレビの中で若き日のトムクルーズが奮闘している。
スタントを自らこなすという彼の気持ちがなんとなく分かる気がしたのは、僕も他の誰かに歌ってもらおうとは思わないから。
赤信号の向こうで、大きな月が遠くの山に沈みそうだった。
入間に戻って来てもまだすこし旅先のような気がする、2018年の師走。
12/21【有意義】
数日間の旅を終えて帰宅後、すぐにスタジオに向かう。
旅の最中というのは、極端に練習の時間が減る。
ライブが続くほど、調整の機会は減る。
案の定、乱れているフォーム。
しかし、立て直す作業というのは現状維持をするよりも有意義。
意外と前よりも良くなったりする。
12/22【御茶ノ水】
縁というのは確実にあって、なぜかまたその街へ行くことになったり、
気がつけば、そのエリアでばかり行動をしていたりする。
こんなにたくさんの選択肢の中で、無意識に、意図的に繰り返す縁。
今夜の御茶ノ水という街も、その一つ。
12/23【耳が痛い】
夜風に耳が痛い。
新しくピックアップを積んだギター。髪を切った僕。
オルソンには今の髪型の方が合うかもしれない、とか、
髪を結った時とあまり変わらないか、とか、
こんなに短くするつもりではなかったけれど、まあ、しょうがない。
とにかく、自転車で切る夜風に耳が痛い。
12/24【遠い日の僕から】
涙がこみ上げて来て、歌えなくなった。
遠い日の僕が、まるで今の僕のために書いたかのような曲があった。
今年のクリスマスプレゼントは、遠い日の僕からの贈り物だった。
12/25【スタジオへ通う日々】
今日がゆくと、いよいよ今年も終わりだという雰囲気が高まる。
スタジオを後にして街へ出ると、思っていたよりも静かで落ち着いている。
クリスマス商戦が作り出したムードはあっけなく、いつもの平日の夜に戻っている。
久しぶりに買い物をして、食事をすませる。
家路につこうとしたけれど、やっぱりもう一度スタジオへ戻る。
いよいよスタジオの人たちの対応も、僕になんとなく優しい。
12/26【明日という今日】
古いサッシの僅かな隙間に吹き込む風の音がうるさくて目がさめると、体の不調に気がつく。
寝付けない長い夜が始まって、寝ているのだか起きているのだか定かではない時間がゆくと、空が白みだした。
ようやく深い眠りについた矢先、目覚ましに呼び戻され、
昨日が終わりを告げないまま、明日という今日が始まる。
12/27【いつかまたこんな日が来ても】
色々な音が耳障りで、頭を気まぐれな痛みが駆け抜ける。
小さな地震、もしくは建物が揺れているのではないかと疑ったけれど、きっと僕がグラグラしているのだった。
喉は大丈夫。
いつかまたこんな日が来ても乗り越えられるように。
そんな風に思うことにして、黙って点滴が落ちるのを眺める。
あと30分もしたら僕は歌い始めるのだった。
12/28【愛しさ】
詩が生まれる瞬間というのは唐突で、出会い頭に会いたい人にばったり出会えた時みたいだ。
予想のできないそれは、偶然だから嬉しくって運命的に思える。
今日の午後の光が美しかったこと。guzuri珈琲店の気配。冬枯れた山桜の幹。冷たい風。
運命とか直感とかが導いてくれる愛しさ。
12/29【本当の僕は歌の中にある】
本当の僕は歌の中にある。
12/30【選択肢のある不幸】
山肌に連なる町が、LAの郊外と重なる。知っている景色が何処かと繋がって先入観から解き放たれると、故郷の街並みが西日で輝いて眩しかった。
ここで生活をする選択肢がうっすらと脳裏をかすめて、またどこかへ消える。
今、この町を選ぶ必要のない選択肢があるという不幸も、うっすらと頭をよぎったりして。
12/31【眠りの中の年越し】
とにかく眠くて、眠る。
体が意識に反する時、僕は僕に服従する。
服従する幸せは、確かにあると思った。
明日は新年。
眠りの中の年越し。