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15年の遠回り

15年くらい前、僕は確かにそのステージで歌った。

ロフトへ行けばすぐに思い出すだろうと思っていたけど、本当に当時の記憶からごっそり抜け落ちていて、ちょっと自分という記憶装置に疑いを持つほどだった。

地下への階段を降りても、入り口の扉を開けても、小さな楽屋も、低いトイレのドア枠に頭をぶつけても(2度ぶつけて今も痛い)、ステージで歌を歌い始めても、全然思い出せなかった。

それが2日経ってようやく「そう言えば、そうだ!」と、思えるほどになった。

ステージの後に誰かに言われた一言とか、当時住んでいた街や、交友関係も一つずつ繋がってくる。ちょっとした前世を思い出すかのよう。

多分、僕はあと何度かそういう経験をすると思う。

ライブが終わって、トーベンさんの車の助手席に乗って帰ることになった。僕はその坂を降りるといつも右へ曲がるのだけど、トーベンさんは左に曲がった。そして、もう一度左に曲がると、あっという間に僕がいつも通る道へ出た。

下北沢に来るようになって15年、僕はその道を知らなかった。というより、知っていたけど、その繋がりを理解していなかったのだ。

ステージ横で見ていた先人達の姿や、様々なことにも同じような理解の形を想像した。

15年の遠回り。それはそれで面白い道もあった。

うん、面白かった。








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