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窓越しの世界・総集編 2019年5月の世界
5/1【始める】
とにかく、やる。
それしかないだろう。それ以外に何があるのだろうか。
やらないという選択肢は無い。
偉大なギタリストが、13歳の夏休みでやっていたことを、38歳の僕が始める。
いつ始めるかではない。
始めるのか、始めないのか、それだけだ。
5/2【裏付け】
今日みたいな光の日は、どの街だって、いい街に見えてしまう。
今日の光が美しのは、昨日の雨のおかげだろう。
なぜ?には裏付けがある。
僕の追っている声の響にも、その訳があって、それは無数にある。
今朝、その謎の一つがまた解けた。
5/3【もっと知ろう、もっと見よう】
知らないほど、批判的な気持ちになる。
見えないほどに、恐れる。
知れば、理解できる。
見えると、安心する。
もっと知ろう、もっと見よう。
5/4【日々の一コマ】
集中が切れて、少し外へ出た。
スーパーマーケットと自宅との往復だけの外出。
ワイルドレタスと刺身用の鯛、オリーブオイル、ニンニクの芽。
全部合わせたサラダを作ろうと思った。
オリーブオイルでにんにくの芽を炒めて、塩と酢で味付けした鯛とレタスに豪快にかける。
ずべてをよく混ぜる。
集中力を取り戻すために映画を見ながら、ギターを弾く。
ビールから、ワインへ、そして、ウイスキー。
指が少し痛いけれど、ギターを始めた頃の激痛を思えば、痒いくらいかな。
あの頃みたいな、時間の濃密さを、何度も繰り返す必要がある。
明日も早起きをしようと思う。
5/5【心一つ】
逃れることのできない檻の中にいる。
檻を作るのは、僕自身だ。
見方を変えると、その檻に守られてもいる。
その檻の形は、いつも僕の心一つ。
5/6【湧く言葉】
何もないところから、ふと言葉が湧く。
湧き水の様に湧く。
木の実をもぎとる様な言葉や、花を詰む様な言葉とも違う、湧く言葉。
湧く言葉が一番好きだけれど、とてもうぶで、強そうで、儚い。
無防備なその言葉を守れるかどうかは、メロディーや僕という人間に委ねられる。
5/7【どこかへ来ているのだというのに】
新緑のアーチを走り抜けると、クリアな空気のガラスに映るピカピカな空。
連休明けの観光地には、どこか安堵と、まだ少しの寂しさとが混沌とした気配を漂わせていた。
男体山が少し遠くに見えた時 「あぁ、どこかへ行きたいな」と思った。
今だって、どこかへ来ているのだというのに。
5/8【サイン】
昨日からギターの弾きすぎで腱鞘炎気味な手首。
やりすぎということもあるが、ちからの入れ方が悪いのだろう。
声の方は、痛まないから、間違ってはいないはず。
ある程度の負荷は仕方ないと思うけれど、
痛みとかは、方向が違うサイン。
シグナルが赤く点滅する前に、軌道修正。
5/9【自分の心だけが】
気候が良すぎて、気持ちが緩む。
寒い日が続けば、自然と体の本能で、注意力も自ずと付いてくるのだけれど、
こんなにも暖かくて、幸せに浸れる午後にこそ、落とし穴がある。
気を引き締めてくれるのは自分の心だけだ。
5/10【ロイヤルコペンハーゲン】
ロイヤルコペンハーゲンに口をつけると、いつかの時代を確かに感じる。
幾つかの時系列の中で、今の僕の心境とリンクした時代が浮かび上がる。
小さな持ち手は少しの緊張感を必要としていて、口へ運ぶまでの僅かな所作に、危うさを補う気品を携えてくれる。
その鋭利な口当たりに、僕は、いつかの誰かに、そっと口づけをしているような、そんな気にさせられてしまう。
ネルドリップを通った滑らかな舌触りの一杯の珈琲に宿るたくさんの時間がある。
5/11【根気】
怒りとか、悲しさは、一度、留めておくといい。
喜びとか、嬉しさも、一度、留めておくといい。
じっくり、気持ちと向き合う、そんな根気の持てる人間になりたい。
5/12【大きな家に】
父との会話も随分と増えた。
まるで短距離走が始まったみたいに、これまでゆっくりだった時間がどんどん進む。
大きな家に住みたいなって思った。
そうすれば、父は今日僕の家に泊まれただろうし、もっと持て成すことができたと思う。
大きな家に住んで、母も、姉も、みんなで、快適に、それぞれの時間が守られる、そんな場所を僕は持ちたいなって、そう思った。
5/13【届いてなんぼ】
トトと二人きりの夜。
僕はこれからちょっと出かける。
トトは僕の方を向いて、じっと見つめている。
何かを言っている。トトはいつも何かを伝えようと一生懸命だ。
共通言語を持たないからこそ、その眼差しが突き刺さる。
伝えようとする気持ち、知ろうとする気持ち。
伝えたい1/10も伝わらないんだろうけれど、ほんの僅かでも、届けば、
言葉がわかることよりも何十倍も嬉しい。
伝えることより、届くこと。
そう、届いてなんぼ。
5/14【温度差】
肌寒い夜。家に帰るのを諦めて、深夜2時の晩御飯。
ビールの後は焼酎のお湯割にした。梅干しも投入。
寒い方が暖かい。暑い方が冷たい。
寂しい方が賑やかだし、悲しい方が嬉しい。
温度差は染みる。
5/15【積み重ねたものだけが】
信頼を積み重ねたものだけが、信用される。
目の前で丁寧にギターを仕上げて行く姿に、僕は心を預けることができた。
僕の歌や演奏、立ち振る舞いも、そんな風に、ゆっくりと積み上げていこうと思った。
5/16【いつかの僕】
久しぶりに公園をゆっくりと歩いた。新緑が傾きかけた太陽の光をいっぱいに浴びて眩しい。
まだまだ明るいけれど、どこからともなく晩御飯の匂いが漂ってくるから、いつの間にか随分と陽が伸びたのだった。
公園の池を半周した時、不意にベンチに腰掛けてカメラを構えるおじいさんの姿に、なぜだか目頭が熱くなった。
飛び立つ鳥を追うぎこちなさや、レンズから外れた世界とは無縁なところにいるお爺さんの気持ちがなんとなく分かった気がした。
僕はそっと話しかけた。
どんな人生でしかたか?
思い残したことはありませんか?
奥様はお元気ですか?
そっと、心の中で話かけた。
あれは、いつかの僕だった。
5/17【ご自由にお持ちください】
住宅街を歩いていると、たまに「ご自由にお持ちください」というメッセージと出会う。
いつだかは、ラジカセをいただいたが、たまに家具なんかもデーンと置かれている。
昨日の散歩で見かけた小さな植木鉢にもそんなメッセージが添えられていた。
大きさのまちまちなものが10個ほど。
買えば5千円くらいだろうか。
自転車のハンドルにビニール袋に入れた重たい鉢をぶら下げて、五月晴れの木陰を走った。
自宅のささやかな家庭菜園に追加されたのは、パクチーと大葉。
5/18【再発見のススメ】
相変わらずに、忘れる。
新しい発見のたびに、過去の発見を忘れる。
はたと、過去の発見が新しい発見として再発見される。
再発見した時、それが少し自分の物になる。
微々たる地力が生まれる。それを繰り返すだけ。
5/19【明日からの天気】
明日から天気が崩れるらしい。
久しぶりにテレビをつけて、明日の天気も久しぶりに知った。
季節がまた進むなと思った。
雨が降って、一度すこし冷え込むだろう。
次に晴れた時はきっと、初夏を感じるような日差しになるのかな。
若葉も少し色を濃くして、今よりくっきりとした影を落とすのだろう。
テレビで報道されていることにも久しぶりに触れた。
どこかの街のコーラスグループの公演が数十秒放送されたり、アメリカの大統領の発言とかが矢継ぎ早に過ぎていった。
外へ出ると、ほんのり湿った風が吹いていた。
雲というか、霞がかった夜空に月がぼやけて輝いていた。
5/20【じっくり】
朝の7時からギターを弾いて、歌を研究してを延々と繰り返す毎日。
午後になって、溜まったレシートを整理したり、未開封の封筒を開けたり。
雨はまだ降りそうに無いから自転車で郵便局や銀行へ行く。
トトとたまに遊んで、また歌と向き合う。
真相には近づいている。
今の僕は、もしかしたら良いパフォーマンスができないかもしれない。
投球フォームを変える時のピッチャーみたいに、じっくり、時間が必要。
書き込んだノートに、一つ、また一つ、初めて見るような、何度も見たような、
そんな言葉たちが並ぶ。
5/21【それでも消えない僕】
ギターを弾いていると、自然とメロディーが浮かぶ。
完成させるかどうかは置いておいて、歌詞をつけて記録しておく。
最近、そんな朝が増えた。
ネットで調べ物をしていると、不意にいい言葉に出会う。
「すごさに感染して行動する。感染抜きにして、その活力はありえない。」
僕はかつて、Neil YoungにJamesTaylorに大瀧詠一に感染した。
今の僕はその感染によって生まれた。
いまだにJamesTaylorに感染しているけれど、その感染なしに、今は無い。
すごさに出会う、完膚無きまでのすごさを感じて、憧れて、
それでも消えない僕自身がいる。
僕自身は消えない。
5/22【コートが違う】
夜。
気がついた歌声を試したくてスタジオへ自転車を走らせた。
久しぶりにマイクに声を通して、部屋とは違う環境に少し戸惑う。
だんだん慣れてくる。ライブも近いし、明日も来ようって思う。
テニスで例えると、コートが違う感じ。
自宅は土のコート、スタジオはハードコート。さらに言えば、ライブは芝のコート。
それくらい違う。
5/24【僕の夢】
二日前かな、外に出るとふと富士宮の匂いがした気がした。
遠くにうっすら富士山が霞んでいて、
今日は実家に帰ろうかなって思ったけど、思っただけにした。
そのあとスタジオに入って、自分の状態をチェックしたら、
とても実家に帰っている場合じゃないなって。
僕は長生きするのかな。
父にも母にも100くらいまで生きていてほしい。
その時僕は、70くらいだ。
僕がしたい親孝行ができるまで、きっと時間がかかってしまうから、自分勝手にそう思ってしまう。
大きな大きな家を建てたい。
僕の家族は、それぞれにやることがあってスペースが必要だから、
その全員が心地いい暮らしのできる家に、みんなで住むんだ。
僕の夢だ。
5/25【心の隙間】
藤野の山道を走ると、昔この辺りに家を探していたことを思い出す。
田舎に来ると、やっぱり田舎はいいなと思うけれど、僕の思うそれは、都会とつながりを持ったままの「いいな」であり、
どっぷりと田舎での暮らしをするには、「生活」というものに身を捧げる覚悟も必要だということが、今の僕には少しハードルが高く感じられる。
今の僕に、生活を豊かにしようという心の隙間は無い。
5/26【純度】
透明な川の水で顔を洗うと、やっとその森の本当の豊かさに気がつくことができた気がする。
純度の高いものでしか伝わらないものがある。
僕の中にあるものもまた同じく。
まだまだ純度が足りないから、もっともっと研ぎ澄ます必要を感じる。
5/27【疑問と必要】
本当を見つめて、それを問えるのは、自分自身だけだ。
誰かの知っている僕を守ることも、この世界では必要だけれど、
それをやりすぎると、ずっと先になって、空っぽな自分に出会うだろう。
自分に正直にいることを、周りに見せることに疑問はある。
疑問はあるけれど、必要があると感じる。
5/28【固定概念】
フライパンでカレーを作る。
フライパンでもカレーは作れる。
かつての僕は、カレーは鍋で作るものだと思い込んでいた。
同じような固定概念は、きっとまだまだ転がっている。
5/29【あの雲のように】
ほろ酔いでスタジオに戻った僕は、雨宿りも兼ねて1時間だけマイクに向かって歌った。
23時を回る頃には雨は上がり、ひんやりした夜道に自転車を漕ぎ出した。
なかなか一足飛びに成長しない自分がもどかしい。
空を見上げると、低い雲が街の明かりを照り返しながら、ゆっくりと東の方に移動している。
ぱっと見ただけでは、動いているかどうかもわからないけれど、確実に動いている。
僕も、あの雲のように、ゆっくりだけど、確実に進んでいると信じよう。
5/30【ひらめき】
ふと、ひらめく。
そのひらめきは、いったいどこから現れたのか。自分でもよくわからない。
よくわからないけれど、体の中の記憶が、細胞が呼び起こした一つのひらめきを確かに感じた。
ひらめきとは、たくさんの闇を積み重ねて生まれる、一筋の光だ。
5/31【恐ろしい】
疲れが溜まっている。
根を詰めすぎているのはわかっているけど、不安が後押ししてくる。
今夜出かける寸前までスタジオにこもって調整をするけれど、歌唱の方法がなかなか定まらない。
明日の本番が恐ろしい。