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窓越しの世界・総集編 2019年4月の世界
4/1【今日の海には】
晴天だった。
海へ出ると、急に風が強くて、寄りかかれそうなくらいだった。
僕は、優しくされると、優しくしたくなる。
傷つけられると、傷つけ返したくなる。
悲しい時、もたれかかれそうな思い出が、今日の海にはある気がした。
4/2【ギリギリの表現】
僕という人間を知ってもらう必要がある気がした。
僕の作る歌の背景を知ってほしい。単純にそう思った。
結果として誰かを傷つけたとしても、それは愛だと、そう思えることがキリギリの表現だと思った。
4/3【刺激のある日々】
春風に乗って、隣の町まで自電車を走らせた。
喫茶店でナポリタンを食べていた時、僕は幸せだった。
タバスコの中身は、多分タバスコではなくて、もっと辛い別の何かだった。
ヒーヒー言いながらも美味しかった。
僕の日々も、まったく似たようなものだ。
4/4【コツコツ、ゴツゴツ】
これまで胸に秘めていたことを、少しずつ吐き出している。
言う必要のないと思っていた事柄だった。書き出しても取り留めのないものになってしまいそうだった。
短い言葉だけど、こんな風に毎日を綴ることで、そんな思い達に自然と言葉が続くようになった。
コツコツなんてリズミカルではなく、ゴツゴツした岩場を少しずつ進む心地の方が近いかもしれない。
4/5【秘めていた能力】
目の前で話をする人の言葉が、聞こえているけれど、全く入ってこない。
僕はその人と向き合っているのだけれど、まるで何も聞こえていないかのように。
僕はきっとその話を必要としていなくて、その話を受け入れてしまえば、僕の中にある大切な何かが、押し出されて、消えてゆくのを、無意識的に防衛しているようだった。
僕は自分の能力に驚いていた。
4/6【ウミネコとトト】
海岸をトトと散歩した。
ウミネコが雄叫びをあげて、トトが震えていた。
「ほら、ウミネコさんが何かを教えてくれているよ」
一斉に飛び立つ群は、小さな弧を描き、また砂浜へ帰ってきた。
なんのために飛び立ったのか。決して知ることはできないだろうと思った。
僕はすこし泣きそうになった。
4/7【守られている】
僕は今、できる限りを尽くしているから、何も恐れることはなかった。
その気持ちを支えてくれているのは、これまで出会った人たちに他ならず、僕は一人でステージに立っている気はしなかった。
ステージに立つこと自体、守られている。
本当に、守られているんだ。
4/8【瞳】
心は瞳に現れる。
瞳を覗き込めば、わかる気がする。
人の目を見つめるのが怖いのは、その人を知るのが怖いからだ。
目をそらして、自分が傷つくことから逃れるためだ。
そして、自分を知られるのが怖いからだ。
きっと、瞳を覗き込むことのできる人は、無防備で、綺麗な目をしている。
優しくて、無垢で、強くて、儚く、弱い、綺麗な目を、僕は知っている。
4/9【寒波の後は】
外食をしようと思ったけれど、やめた。
スーパーで野菜を買い込んで、炒めて食べた。
外へ出ると、まさかと思うくらい寒くて、どうやら寒波が来るという。
季節は一歩も二歩も逆戻りしてから、10歩くらい一気に進むだろう。
寒波が去ると、一気に初夏の陽気とか、ありえそう。
4/10【知らされすぎる世界】
冷たくて粒の大きい雨。
0時ギリギリに滑り込んだスーパーマーケットでワインを買う。
やっぱり、知ることと、気がつくことの、境界線が気にかかっている。
知らなければ気がつく事は出来ないけど、知りすぎても気がつくことから離れてしまう。
知りすぎる世界。
知らされすぎる世界。
4/11【歌が生まれる時】
何かを叫ぶとき 僕らは旅に出る
短い旅だけど 確かに旅に出る
自然と口をついて、言葉とメロディーが同化する瞬間がある。
突発的で、瞬発的。
そんな瞬間に、これまで何度も立ち会っているけど、やっぱりいいもんだ。
4/12【富士宮の匂い】
曇り空だけど、もう冬の冷たさは無く、今朝までの雨に湿った桜の花びらと鈍色の空とが、春の中で居心地が悪そうだった。
よく晴れた春らしい春を待ち望んでいる僕の気持ちが、そんなふうに景色に感情を持たせる。
広い庭に出ると、「あぁ、富士宮の匂いだ」
そう思った。
4/13【犬走りの花壇】
犬走りの脇のわずかな土に、所狭しと育つ植物たち。
いつも手をかけて、成長を慈しむその眼差しを、僕は誇らしく思った。
大輪の牡丹と、成長がわずかに遅れている蕾と、母の手を、僕は一生忘れないだろう。
4/14【輪郭の付け方】
自分でもよくわからないことが、人に伝わるはずがないのだが、どうにかして、伝えようとするうちに、よくわからなかったことに輪郭が生まれ始める。
そうやって、すこしずつ、築き上げている。
今夜もまた、すこしだけ縁取られるような気がした。
4/15【今だからこそ】
肩の荷物が、少しずつ降りているのを感じた。
心地よい重さになったからか、自然に笑えている自分にすこし驚いた。
シンプルに、必要なことだけを求めていられる今だからこそ、気を確かに持たなければいけない。
軽くなればなるほど、飛ばされやすくなる。
心には、すこし負荷があるくらいが丁度いい。
4/16【生き方が音になるから】
1日置きくらいに、今の自分がダサくて隠れたくなる。
裏の姿を公開して、頑張ってますっていうアピールみたいでいたたまれなくなる。
どこかの誰かの冷ややかな視線を、自分の中にも感じてしまう。
でも、グラミーレベルを目指す!って思うと、すべて吹き飛ぶ。
歌声紀行のおかげで、すこしずつ自分の歌声が好きになってくる。
シンガーソングライターとは、「生き方」だと思う。
生き方が音になるから、聴く人たちにも、音の背景にも、僕は正直でいなければいけない。
4/17【本当の強さ】
感覚が、言葉にできるようになると、ちょっと怖くなる。
手品のタネを明かされたような爽快さの後で、魔法が解けたみたいに、身ぐるみを剥がされたみたいに、怖くなる。
ただ、そこからが本当のこと。
本当のことを知るのは、怖いけれど、そこを知らないと、本当の強さとは出会えない。
4/18【お日様の匂いのトト】
僕はいつもトトより先に起きる。
先に起きて、モーニングコーヒーをして、ギターを弾くかPCに向かうかどちらかだ。
朝食は適当で、とる時もあるし、とらない時もある。
昼近くになると、のそのそトトが起き上がってきて、ニャー、と、ひと泣きする。
午後になると光が差し込むベランダで、太陽をいっぱい浴びたトトは、お日様に当てた布団みたいにいい匂い。
4/19【知ることは】
西武線に揺られていた。
春めき過ぎている陽気で、眠くて、このまま入間市で下車せずに、とにかく眠りたいと思った。
夜になって、馴染みのダイナーへ入った時、懐かしさがこみ上げてきて、僕はもうこの街の住人じゃ無いんだと、いつの間にか時代が一つ動いていることに気がついて、少し寂しくなった。
夜道を駅へ向かい歩くと、いつかの僕と何度もすれ違った。
今よりずっと書き留めることは多かった。
その分、知らないことも多かった。
一つ知るたびに、書き留める思いも、一つ減り、二つ、そして三つと減っていった気がする。
知ることは、黙ることだった。
4/20【いろいろな僕】
君の知っているはずの僕は、どんな僕だろうか。
君に見せない僕も、僕に違いないのだけれど、
僕の知らない僕も、僕に違いないのだ。
僕もいろいろだ。
4/21【それだけで幸せ】
ここのところ、気持ちが良すぎる。
気持ちが良すぎて、それだけで幸せになる。
夕方になると、ビールが飲みたくなって、夜風が気持ちよくて。
それだけで幸せ。
4/22【昔のメロディー】
コードを鳴らすと、歌いたい音が聞こえて、それに従う。
ふと、ずっと昔の中にいるような気がして、でもそれは一瞬だった。
そのあとに続いたメロディーは、随分、本当に随分昔のメロディーだった。
身を乗り出して はしゃいでいる
まだ白すぎる肌が やけに眩しい
振り向かない 裸足の風景がある
2004年くらいのメロディーと、今が溶け合う午後。
4/23【ほっとして】
目の前で歌う人がいる。
僕は素直に、いいなって思う。
自分のことについては、ごちゃごちゃ考えるけれど、それとこれとは別でいられて、
そういう感覚がなくならない限り、僕は大丈夫だって思う。
ほっとして、音楽がもっと好きになる。
4/24【体に優しく、保存のきいて、携帯性の良い、何かを】
疲労と空腹がマッチすると、カロリーが欲しくなる。
ラーメン屋のあかりに吸い寄せられて、体には決してよくないであろう油と炭水化物を取り入れる。
僕の空腹は満たされて、すこしばかりの後悔と、今日のようなこんな時、持っておくべき対処法についてこれから考える必要があると思った。
体に優しく、保存のきいて、携帯性の良い、何かを。
4/25【情けない】
今夜の空腹は、疲労と、ちょっとした苛立ちを運んできた。
お腹が満たされると、疲労は眠気に変わり、苛立ちはどこかへ退いてくれた。
僕は今、少し心持ちが良くないのかもしれない。
空腹ぐらいで苛立って、情けない。
気を引き締め直さなければ。
4/26【古いコーヒーハウス】
ほんのり温められているバウムクーヘンを食べるのは初めてかも知れなかった。
古いコーヒーハウスで人を待つ束の間、僕はパソコンを開く。
目の前の席で、こちらに背を向けた外国人の長い足が小さな席からはみ出ている。
制服の学生が一人で来たり、閉店間際で入店を断られる人、カウンター席でくだを巻くお爺さん。
トイレに立つと、お会計と間違えられたり、押し続けないと水が出ない水栓で片方ずつしか手が洗えなかったり。
そして何よりも、禁煙。
4/27【模様替えと作曲】
たまに模様替えをする。
重たい家具を引きずり、配置。また動かして、配置。
そこへ置いてみて初めて見えてくる空間がある。
模様替えは曲作りと似ている。
4/28【与えられたもので】
子供の頃から、たまに美術館へ行く。
僕は決まって連れられて行く。
そこで、感動して、感謝する。
僕は昔から、ずっと、与えられている。
僕は、与えられたものでできている。
今日もたくさん、与えられた。
4/29【ムード】
ムードを感じる。
連休のムード。
元号末のムード。
人々の心が同じ方を向いてムードが漂う。
ムードは「見えない電波のような人々の意識」だと思う。
4/30【真理の時代が来る】
平成が終わる日に、僕は新しいギターの練習をはじめた。
平成が終わる日に、僕の歌はまた少し変わった。
平成が終わるとき、僕は家族と肩を寄せ合い、食卓でテレビをみていた。
令和が始まる。
僕は、真理の時代が来ると、そう思っている。