若年層の棄権の性質とは-若年棄権層に関する考察⑥-
はじめに
若年層における棄権の背景には何があるのかについて、8回に渡り考察します。今回は6回目です。
1回目は、三春充希さんが唱えた2000年以降の国政選挙における投票率の長期低落傾向は1990年代のバブル崩壊時に20代であった層の政治不信、失望による棄権が年齢を重ねても続き、また、その後の世代にも継続しているとする説(ここでは「特定世代若年層棄権継続説」と称することとします)をご紹介しました。
2回目は、三春さんが1990年代の国政選挙における投票率の減少をどのように考察しているか、バブル崩壊前後の衆議院選挙、参議院選挙における投票率の推移を踏まえてご紹介しました。
3回目は、20代を中心に若年層の投票率について、バブル崩壊以前の中選挙区時代の衆議院選挙、2000年以降の現行の小選挙区比例代表制度の衆議院選挙の状況を踏まえて考察しました。
4回目は、20代を中心に若年層の投票率について、参議院選挙での状況を踏まえて考察しました。
5回目は、明るい選挙推進協会が作成した「第 47 回衆議院議員総選挙全国意識調査調査結果の概要」、「第 49回衆議院議員総選挙全国意識調査調査結果の概要」に対する三春さんへの見解、「特定世代若年層棄権継続説」について考察しました。
6回目は若年層の棄権率について、「特定世代若年層棄権継続説」以外の別の観点から考察します。
7回目、8回目は若年層の棄権について、どのように向かいあうべきかを考察します。
ポイントだけをお知りになりたい方は1回目、2回目の大項目「1990年代の投票率低下について」、5回目の大項目「「特定世代若年層棄権継続説」についての考察」、6回目をお読みいただけたらと思います。
以上、長丁場となりますが、よろしくお願い申し上げます。
若年層の棄権は年を重ねても継続するのか
若年棄権層はどういった層なのか
私は、「統一地方選挙に思うこと⑤-若年層は政治に無関心なのか-」において若年層の棄権は政治に接する機会、関心を持てない意味では政治不信というよりは、政治から遠ざけられてはいるもののそのことを問題視、意識できていないことにあるのではないかと述べた。したがって、私は、若年層の棄権の理由を政治不信によるものであるとする「特定世代若年層棄権継続説」には立っていない。
私は、この時点では、若年層の棄権層が年齢を重ねることで政治意識が変わるのかの是非までは考察していなかった。だが、今回の検証結果を踏まえて改めて考えてみると、若年層の棄権はバブル崩壊によって、政治への不信、失望が生じたことによるものであり、若年層の棄権は年齢を重ねた後も続くとしている「特定世代若年層棄権継続説」では、若年層の棄権を説明できない部分があると考えるに至った。
そこで、今回は、若年層がその後年を重ねることで投票率に変化が生じるのかどうかについて考察したい。具体的には、衆議院選挙、参議院選挙について約10年ごとに区切ることで、若年層が年齢を重ねたときの投票率がどのように変化するかを推察、検証したいと考えている。以下、述べて参りたい。
小選挙区比例代表制度における世代別投票率推移
1996年衆議院選挙で20代の投票率は36.42%であるが、30代となる2005年衆議院選挙では59.79%、40代となる2014年衆議院選挙では49.98%と変化する。30代の投票率については、1996年衆議院選挙で57.49%、40代となる2005年衆議院選挙で71.94%、50代となる2014年衆議院選挙で60.07%となっている。
2005年衆議院選挙から2014年衆議院選挙に至って投票率が下落をしているが、2005年衆議院選挙は郵政選挙であり、普段投票に足を運ばない層が足を運んでいる特殊な状況下にある。1996年衆議院選挙と2014年衆議院選挙で比較した際には20代、30代とも投票率は上がっており、1996年衆議院選挙時の20代の36.42%は2014年衆議院選挙時に49.98%と13.56%、30代は57.49%から60.07%と2.58%上昇している。
2000年衆議院選挙で20代の投票率は38.35%であるが、30代となる2009年衆議院選挙では63.87%、40代となる2017年衆議院選挙では53.52%、2021年衆議院選挙では55.56%と変化する。30代の投票率については、2000年衆議院選挙で56.82%、40代となる2009年衆議院選挙で72.63%、50代となる2017年衆議院選挙で63.32%、2021年衆議院選挙では62.96%となっている。
2009年衆議院選挙と2017年衆議院選挙、2021年衆議院選挙と比較すると、投票率が下落をしているが、2009年衆議院選挙は政権選択選挙であり、普段投票に足を運ばない層が足を運んでおり、2005年衆議院選挙の郵政選挙と同様の特殊な状況にある。2000年衆議院選挙と2017年衆議院選挙、2021年衆議院選挙で比較した際には20代、30代とも投票率は上がっており、2000年衆議院選挙時の20代の38.35%は2017年衆議院選挙時に53.52%、2021年衆議院選挙時で55.56%とそれぞれ15.17%、17.21%上昇している。30代についても56.82%から63.32%、62.96%とそれぞれ6.80%、6.44%上昇している。
2003年衆議院選挙で20代の投票率は35.62%であるが、30代となる2012年衆議院選挙では50.10%、40代となる2021年衆議院選挙では55.56%、と変化する。30代の投票率については、2003年衆議院選挙で50.72%、40代となる2009年衆議院選挙で59.38%、50代となる2021年衆議院選挙で62.96%となっている。
ここでは、各世代の投票率が年齢を重ねるごとに比例的に投票率が上昇をしていることがわかる。2003年衆議院選挙時の20代の投票率35.62%は、2021年衆議院選挙時には55.56%と19.94%上昇している。30代についても50.72%から62.96%と12.24%上昇している。
中選挙区制度における世代別投票率推移
1967年衆議院選挙で20代が66.69%、30代が77.88%に対し、1976年衆議院選挙では30代が77.41%、40代が82.29%、1986年衆議院選挙では40代が77.99%、50代が82.74%と上昇を続けた。1967年衆議院選挙時に20代だった世代の投票率を1986年衆議院選挙時と比較すると、11.30%上昇している。30代についても77.88%から82.74%と4.86%上昇している。
1969年衆議院選挙では20代が59.61%、30代が71.19%に対し、1979年衆議院選挙では30代が71.06%、40代が77.82%、1990年衆議院選挙では40代が81.44%、50代が84.45%と上昇を続けており、1969年衆議院選挙のケースと同様に若年棄権層が固定している状況にはない。1969年衆議院選挙時に20代だった世代の投票率を1990年衆議院選挙時を比較すると、21.83%上昇している。30代についても71.19%から84.85%と13.66%上昇している。
参議院選挙における世代別投票率推移
2001年参議院選挙当時20代、30代であった層の投票率は、2010年参議院選挙、2019年参議院選挙、2022年参議院選挙については、40代の2019年参議院選挙及び50代の2019年参議院選挙、2022年参議院選挙に2010年参議院選挙と比較した際に下落があるが、それ以外は投票率が上昇している。2001年参議院選挙時の20代の投票率について、2019年参議院選挙、2022年参議院選挙と比較すると、2001年参議院選挙34.35%から2019年参議院選挙45.99%、2022年参議院選挙50.76%とそれぞれ11.64%、16.41%上昇している。30代についても2001年参議院選挙49.68%から2019年参議院選挙55.43%、2022年参議院選挙57.33%とそれぞれ5.77%、7.65%の上昇となっている。
2004年参議院選挙、2013年参議院選挙、2022年参議院選挙、と2004年当時20代、30代であった層の投票率については、投票率推移は衆議院選挙と同様に年齢を重ねるごとに投票率が上がるという傾向が見られ、20代、30代の棄権層がそのまま棄権を継続しているとは言えない。2004年参議院選挙時に20代であった投票率について2022年参議院選挙時と比較すると、34.33%から50.76%と16.43%上昇している。30代についても47.36%から57.33%と9.97%上昇している。
また、「特定世代若年層棄権継続説」は選挙制度がほぼ原形を留めている参議院選挙では比較可能なので、1989年参議院選挙当時20代、30代であった世代について、1998年参議院選挙、2007年参議院選挙、2016年参議院選挙の投票率経緯を調べてみた。1998年参議院選挙において40代の投票率が64.44%と1989年参議院選挙時の65.29%と比較してやや減少したほか、2019年参議院選挙で2007年参議院選挙、2010年参議院選挙と比較してそれぞれの世代で投票率が減少したが、それ以外では世代を重ねるごとに投票率の上昇がみられる。
1989年参議院選挙時における20代の投票率についても2007年参議院選挙、2010年参議院選挙、2019年参議院選挙、2022年参議院選挙時と比較すると、2007年参議院選挙が13.26%、2010年参議院選挙が11.38%、2019年参議院選挙が15.83%、2022年参議院選挙が8.01%上昇している。30代については2007年参議院選挙が4.06%、2010年参議院選挙が2.52%、2019年参議院選挙が4.78%の上昇となった。唯一2022年参議院選挙については前述通り1.71% の下落となっている。
「若年棄権層政治意識変動説」
以上を踏まえると、1990年代のバブル崩壊以後の若年層の棄権傾向は若年層の政治不信によるものであり、年齢を重ねても続くとする「特定世代若年層棄権継続説」(以下「継続説」)というよりは、中選挙区時代と同様に若年層の棄権傾向は年齢を重ねることに伴い社会経験を積み、政治を自身の問題として意識することで選挙に関心を持つように変わる「若年棄権層政治意識変動説」(以下「変動説」)の要素の方が強いとみたほうが自然である。そして若年棄権層が年を重ねるごとに政治意識を持つことで投票するのは、バブル崩壊に関係のない現象であることもデータ上からわかる。
ここで提示したデータは、国政選挙でのデータであり、地方選挙におけるデータがないのでそちらのデータも本来は提示するべきであったが、データが見つからず、国政選挙だけになってしまったことが心残りである。また、今回紹介した継続説、変動説以外にも別のデータや根拠などから若年層の棄権に関する考察は当然あり得るものと考えている。社会自体が複雑な要因で成り立っている以上は要因を一つに求めるべきではないことは言うまでもない。継続説、変動説がそれぞれ複雑に絡み合っている可能性も否定できないし、あるいはまったく別の要因が絡み合ったり、継続説、変動説のいずれでもない可能性が新たなデータ、根拠などで示される可能性を否定するものではない。
加えて、今回の一連のnote記事では1990年代のバブル崩壊以後の若年層だった世代及びその後の世代のみが特別に投票率が下落した状況にあるのではないこと、若年層がそのまま棄権層に留まっているわけではないことは示せたが、1990年代以降に全体の投票率が下落し、その後も下落が継続していることの理由は説明できていない。1990年代以降における現象が2000年代以降もそのまま継続し続けているから起きているのか、それともまったく別の要因があるのか、投票率下落に伴って棄権となった票がどのような票なのかを検証することが必要だろう。
また、データからは、若年棄権層は政治意識の変化によって変わりうる可能性が高いことが示せたが、このことは、若年棄権層はいずれ政治に関心を持つことが予想されるので、若年層の棄権はそのまま放置しても問題ないとみなしてもいいのかという問題がある。次回からは、若年層の棄権について私たちはどのように向かい合い、またどのように対処すべきなのかについて、2回に渡って皆さんと一緒に考察して参りたい。
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