統一地方選挙に思うこと⑤-若年層は政治に無関心なのか-
はじめに
よく、若年層の政治的無関心を嘆く声を耳にします。しかし、なぜ若年層が政治的に関心がないと思われるのでしょうか。若年層を政治から疎外しているということはないでしょうか。「統一地方選挙に思うこと」。最終回の今回はかつて私が持っていた偏見の誤りへの反省を込めて、若年層の政治的関心の向上に向けた動きについて、今回の統一地方選挙でどのような動きがあったのかを考察して参りたいと思います。
若年層の政治参加の事例
国分寺市投票率を1位にプロジェクト
「国分寺市投票率を1位にプロジェクト」(以下「同プロジェクト」は、投票率を全国で1位にすることを目標に、各選挙の候補者へのインタビューを行っているほか、2022年参議院選挙ではコーヒーを飲みながら政治談議を行うための屋台を設置するなどを通して、全国で投票率1位を目指しているという。(※1)同プロジェクトの発起人鈴木弘樹は東京新聞の取材に次のように語っている。
今回の国分寺市議選挙においては、高濃度の有機フッ素化合物(PFAS)が水道水に使われる井戸水から検出された問題を掲げた候補11人中9人が当選をしており、PFAS問題が一つの争点であった。(※3)ただ、鈴木の主張からは選挙における争点を同プロジェクトが提示することが、議題設定につながることを望ましくないと考えていることが伺える。同プロジェクトは選挙での判断材料を有権者に提示することに徹し、選挙の争点については個々の有権者が選挙への関心を通して主体的に判断するべきというスタンスに立っているものと言えるだろう。
同プロジェクトの発起人である鈴木は24歳と若年層にあたる。鈴木は自身が地方自治体の選挙で投票することを忘れた経験を踏まえ、若年層は子育て、高齢者福祉、教育などの施策と接点が少ないことが地方自治体の選挙に対する関心の低さにあるとの見解を示す。同プロジェクトは、各市議に市議選とのメッセージの依頼及び同メッセージのホームーページ上での掲載、国分寺市議会での各議員の一般質問を議員別にまとめたデータベースを同じくホームページ上に掲載している。(※4)
有権者が市議会議員の政策を見極めるのに必要な情報提供を目指す姿勢からは、同プロジェクトが単なるイベントとしてのみで投票率1位を目指しているわけではないことがうかがえる。同プロジェクトの一連の活動は、投票率1位を目指すというイベントを通じて、各々の有権者が政治に対する関心、争点は何かを自覚することで政治に積極的に取り組む参加型民主主義や、政治家の側に政治の活発化を促すことにつながる可能性を秘めている意味で注目に値すると言えよう。
参考:国分寺の投票率を1位にプロジェクト
国分寺の投票率を1位にプロジェクトの2023年3月のノート|note
国分寺の投票率を1位にプロジェクト (studio.site)
民主主義ユースフェスティバル2023
今年の3月25日、26日に東京下北沢の「下北線路街 空き地」において、「民主主義ユースフェスティバル2023」が開かれた。会場では主要政党の対話ブースが設けられ、主要政党の政治家と会場に集う有権者とで、政治や政策に関する質問に答えるた対話の場を設けたほか、政治家などによるパネルディスカッションも催された。
東京新聞の記事には、会場に集った若年層の参加者が政党によって若者向けの政策に積極的な党とそうではない党の違いがわかったとの意見があったほか、参加した政治家からも街頭演説での一方通行になりがちなので、フラットな目線で話をし、意見を聞けた意味で様々なところでこのようなイベントが行われてほしいとの意見があった。(※5)
同フェスティバルは北欧諸国で行われている「選挙小屋」と呼ばれる主要駅前や大通りで各党がテント小屋などを建てて、有権者や選挙権がない若年層も気軽に立ち寄ることができる慣習をモデルにしたものだという。(※6)北欧の選挙小屋ではジュース、お菓子などのちょっとした軽食類や文具類などが提供されるが日本の公職選挙法のような規制はない。また、小中学生も学校の宿題のために選挙小屋を訪れるとのことであり、政治家と民衆との距離は日本のように遠くないと言えよう。
ノルウェー在住のジャーナリスト鐙麻樹は東京新聞の取材に対して次のように語る。
政治から疎外される若年層
以上、若年層の政治参加への取り組みについて2つの事例を取り上げた。こうしてみると、若年層は政治に対して関心が低いというのは正確には政治に参加する、意見表明をするという機会を意識できない状況にあるという側面があるかもしれない。政治の側や私たちは若年層はそもそも本質的に政治に参加することはないという前提で政治を語っていないだろうか。また、政治は子どもが関わるべきではないことという意識があるため、自分たちの身の回りの問題を政治としてとらえることを若年層が意識できない状況に置いていないだろうか。
本シリーズ「統一地方選挙に思うこと」の1回目では、栃木県塩原町の事例を挙げ、ネットを通じた町民参加型オンライン会議である「塩谷町民全員会議」において、中学生が町の問題を自身の問題として交通の便の問題を率直に語り、その意見を町の側もきちんと受け止め交通の便を改善するように努めたことに触れた。(※8)「塩谷町民全員会議」においては若年層と政治の側がきちんとコミュニケーションをとることで、政治の活性化がなされていることがわかる。若年層が政治を語る、政治に要求するための場、機会をどのような形で提供するかが若年層が政治に参加するために求められていることではないだろうか。
私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※1)
国分寺の投票率を1位にプロジェクト (studio.site)
2023年3月26日 東京新聞 朝刊 1面
(※2) 2023年3月26日 東京新聞 朝刊 1面
(※3) 2023年4月27日 東京新聞 朝刊 23面
(※4)
【国分寺市議選】立候補者データベース|国分寺の投票率を1位にプロジェクト|note
上記HPにはPFAS問題を掲げた候補者のインタビューや選挙公報なども掲載されている。
(※5) 2023年3月26日 東京新聞 21面
民主主義ユースフェスティバル | Do Democrac (democracyyouthfestival.com)
(※6) 2023年3月24日 東京新聞 1面,25面
(※7) 2023年3月24日 東京新聞 25面
(※8)
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