本を読むこと5-図書館から本が消える危機(前編)-
図書館の本、文献について子どもを保護するという名の下に保守・右翼団体を中心とした禁書、閲覧制限を求める運動の事例、問題について考察する記事です。前編の今回はアメリカにおける図書館での文献、本の禁書を求める動きに関する記事です。
アメリカにおける禁書への動き
英語学習の一環としてニューヨークタイムズ海外版を読んでいたら、"A Surge in Book Bans at School Libraries"(宴意訳「学校図書館で禁止される本相次ぐ」)という記事があったことに気づいた。記事には、純粋な子どもたちを守るためと称して保守団体が、不適切、ポルノ性があるとされる本、文献に反対するとして、黒人、同性愛などに関する内容を記述した本を学校図書館から撤去することなどを求める運動が相次いでいるとあった(※1)。また、これらの動きに合わせる形で政治家が同調し、保守団体が不適切とみなす本、文献の撤去を後押ししており、禁書を求める動きがテキサス州の一部、ユタ州といった福音主義的なキリスト教保守・右翼やモルモン教など保守色が強く、反動的な体質の地域で起きているという。
テキサス州の主要都市ダラスの近くにあるケラー独立教育学区(The Keller Independent School District)では、性志向の多様性、流動的変化の概念である「性的流動性」(gender fluidity)(※2)に関する内容を含んだ本、文献を当該独立教育学区の学校図書館で禁止する新たな規則を決めたと記事には記されていた。(※3)背景として、保守・右翼的傾向の企業パトリオット・モバイル(Patriot Mobile)(※4)からの支援があった3人の教育委員が、昨年5月に選出されたことを指摘している。
ユタ州では議会に保守団体が不適切とみなす本を禁止するように陳情し、実際にいくつかの本が学校図書館での閲覧を禁止された。具体的には"All Boys Aren't Blue"が同著に出てくる黒人の成長過程におけるいかがわしい性暴力を含んだ内容があるとして、"Gender Queer"がノンバイナリー(nonbinary)(※5)の露骨な性描写を含んでいるとして問題視したとのことであった。(※6)
同記事では、学校図書館で何が適切な本かは、問題の本があると懸念する保護者と図書館員ないしは図書館管理者との間での話し合いによって決まるのがアメリカでの慣例であるにもかかわらず、保護者の権利を守るという名の下に保守団体の統制力の下で、学校図書館からの「悪書」追放の動きを加速させたとある。こうした禁書を求める動きに対し、テキサス州の司書団体は図書館員に本を制限する動きに対抗するガイドラインを示したほか、フロリダ州では禁書を巡る動きに反対する保護者が対抗組織を創設することで禁書への動きに対抗しているという。
LGBTに関する本・文献禁止圧力の背景
日本でもLGBTといった言葉を耳にするため、性志向に関する問題を知っている人は多いだろう。ただ、アメリカのLGBTを巡る問題はキリスト教福音主義による保守・右翼イデオロギーと対立する概念という意味を持っており、日本で考える以上に性を巡る事態は深刻である。また、LGBTの問題は(※6)で引用した文章にもある通り人種問題との絡みがある。白人至上主義的で家族の価値観を重んじるアメリカの保守・右翼が、自身のアイデンティティにかかわる問題として、LGBTをとらえられていることをうかがい知ることができる。(※7)
禁書を巡る動きはアメリカだけのものか
以上のアメリカにおける禁書を巡る緊張、葛藤からは、レイ・ブラッドベリのSF小説「華氏451度」をイメージした人もおられるかと思う。ただ、子どもを守るという名の下に図書館の本を規制しようとする動きはアメリカだけに留まるものではなく、日本にもある動きである。次回後編では「はだしのゲン」が学校図書館での閲覧制限という名による禁書の危機にさらされている動きについて考察したい。
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いかがだったでしょうか。後編もお読みいただけたらと思います。
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(※1) 原文は以下の通り
(※2) 以下の記事を参照のこと
(※3) 原文は以下の通り
(※4)
Patriot Mobile 🇺🇸(@PatriotMobile)さん / Twitter
(※5) ノンバイナリー。男性、女性どちらの性も自認しない性概念を指す用語。
(※6) 原文は以下の通り
(※7) アメリカの保守における反動性は深南部(ディープ・サウス)において顕著である。その一例は、ジョンソン政権において成立した公民権法の採決時における政治家の姿勢に顕著に表れている。アラバマ、アーカンソー、フロリダ、ジョージア、ルイジアナ、ミシシッピ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、テネシー、テキサス、バージニアの上院議員は、テキサス州選出で南部民主党には珍しいリベラル派のラルフ・ヤーボローを除き共和党でテキサス州選出のジョン・ダワーを含め全員が反対している。