第50回(2024年)衆議院選挙主要政党政策集に関する考察(後編)
10月27日に行われる衆議院選挙(10月15日公示)に関する主要政党の政策集について、生活面を中心に政策比較をしています。前回は、社会保障のうち年金、子育て・教育について比較しました。後編の今回は農業、物価政策・賃金上昇について考察して参ります。
2.農業
農業において消費者の観点から考えた際、注目するところは、食料自給率をはじめとした食料の安定確保、後継者問題などで将来的に農業に従事する層が減少する中、どのような農業のあり方を提示しているかというところにあろう。農業政策で特徴的なのは、保守志向、社会・社民主義的志向、新自由主義志向がはっきりと分かれるところにあるだろう。
保守的志向、社会・社民主義的志向と新自由主義志向の違い
保守的志向としては、自民党の農政が代表的である。自民党は今回の衆議院選挙の政策パンフレットにおいて、「我が国の主食である米の安定供給に向け、需要に応じた生産・販売が行われるよう、水田活用のための予算は責任をもって恒久的に確保します。」(※1)とあり、米の需給について保守的な観点から水田を維持管理するための予算をつけるとしている。自民党の政策パンフレットは抽象的な文言が多い特徴があるが、この箇所について言えば水田活用の予算をつけるとあり、相対的に具体的である点に注目したい。
社会・社民主義的志向としては、日本共産党が挙げられる。日本共産党は、「米の市場まかせをやめ、需給と価格の安定に政府が責任を持ちます。ゆとりある需給計画のもとに、米の増産、備蓄をはかります。」(※2)と主張しており、米について統制経済的な観点での需給バランスをとるとしている。また、日本共産党のような統制経済的スタンスまではいかないまでも、立憲民主党は、農業者個別所得補償制度について農地に着目した直接支払制度を構築するとし、れいわ新選組は農林水産業の所得補償に言及している。これらの政策は個々の農業について、政府が助成金、補助を行うという点では農家への保護主義的観点が強い政策と言える。
以上の保護主義的なスタンスと対照的なのは新自由主義的傾向が強い日本維新の会による農業へのスタンスであろう。日本維新の会は、「株式会社をはじめとしたあらゆる主体による新規参入を促進することにより、農業の活性化を図」る(※3)としている。従来の保護主義的な農政を改め、資本主義の産業の一つとしての農業に転換する意味で特徴的である。
また、減反政策に対して否定的な立場を採り、「コメの生産力を失わせる水田の畑地化に反対します。コメの輸出を大幅に拡大し、それに従ってコメの生産量を拡大して、「国内需要に合わせたコメの生産」の段階的撤廃を目指」し、「コメ生産については、担い手や法人への農地の集積・集約・大区画化を進め、多収品種の導入などにより生産コストの大幅削減を目指」すとしている。(※4)55年体制において、農産物、とりわけ米については国内生産100%を目指す観点から保護主義的な姿勢から外国米の輸入の可否が争点となったことを考えると、日本維新の会の農業に対する政策は従来の農家保護の観点を否定するという要素が強いものであると言える。
食料自給率・食料確保
食料自給率、生産量については、自民、公明の与党以外は数値目標を掲げている。ただし、食料自給率の低さの一因として指摘がある肥料、飼料の供給体制に言及をしているほかは、具体的にどのような形で自給率を向上させるかについてまでは言及がない。
食料の確保については、農業生産力の向上とは別に、農林水産省が「不測時における食料安全保障に関する検討会」が昨年12月に報告書を取りまとめている。(※5)農業に関する点についてだけ述べると、報告書では、私たちの生活に必要な最低限度の食料確保について、生産転換のためには、休耕地の工作者確保の問題、荒廃農地の再生における時間、コストの問題といったことに対処することが必要性が言及されている。食料自給率の向上を議論する上では、食料自給率が低い状況で食料危機となったときどのような対処が求められるかという点もふまえた議論が求められるだろう。
3.物価政策・賃金上昇
選挙の際に関心のある項目として挙げられるのが、景気対策である。ただ、これは具体的には自分たちの生活にまつわる経済問題を意味するものであり、昨今の経済上の問題としては、物価の上昇と物価上昇に賃金が追い付かない状況にどう取り組むかが問われていると言える。各党とも物価対策、賃金の問題への言及はあるが、事業者を優先させるか、生活者を優先させるかで違いが出てくる。
自民党、公明党は事業者への助成など、経済活動を行う主体に対する支援を行うことを重視しており、経済活動の好転を狙うことを通して生活者の経済状況を改善させる方向性である。これに対して、立憲民主党、日本共産党、国民民主党、れいわ新選組は最低賃金の1500円以上の保障と賃金の上昇を図ることを強調しており、生活者の所得を拡大させることを重視する傾向にある。どの政党も最低賃金保障のための根拠などを提示している点は評価していいだろう。また、立憲民主党、日本共産党は労働時間のインターバル規制など過剰な労働の防止策も主張しており、労働者の労働環境改善の一環としても唱えていることが伺える。
方向性以外での各党の特徴としては、立憲民主党が物価上昇率の2%目標を0%以上とするなどインフレの抑制を打ち出していること、日本共産党が年金生活者、生活保護者への物価対策を提言していること、国民民主党が積極財政による景気の拡大を唱えることなどの点が注目に値する。物価上昇を抑制するか、それとも物価上昇を前提に生活者の所得をそれに合わせた形で底上げをするかという違いが表れていると言える。
さいごに 今回の選挙について
新聞、テレビなどでは、今回の選挙の争点が「政治とカネ」の問題を中心とした報道がトレンドとなっています。(※7)ただ、NHKの最新の世論調査によると、関心度が一番高いのは「景気・物価高対策」で34%、次いで「社会保障制度の見直し」(社会保障問題か?)が17%、その次に「『政治とカネ』の問題への取り組み」が13%となっております。(※8)
政治とカネの問題は軽視するべき問題ではありませんが、やはり生活に関わる経済、社会保障について各党の違いがどこにあるのかという政策のあり方はきちんと見極めておくことが必要になってくると考えています。また、政治とカネの問題も政治倫理の問題に留まるのではなく、よりよい政策論争、政策が反映されるために政治にどういうコストをかけるべきなのかということが議論されるべきでしょう。
明日は投票日です。皆様が各党の政策を比較考量し、どの政策を政治に反映させるべきかという視点から投票されることがより良い政治になることにつながるものと考えています。
参考資料
立憲民主党衆議院選挙公約(政権政策2024政治活動用)(リンク先にpdf有)
私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※3) 日本維新の会衆議院選挙公約
(※4) (※3) 同
(※5) (※3) 同
(※6) 不測時における食料安全保障に関する検討会 取りまとめ
(※7) 政治とカネに関する私の考察についてはこちらをご参照のこと。
政治に対する雑感6-政治とカネの問題に思うこと(前編)-|宴は終わったが (note.com)