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政治に対する雑感12-選挙制度神話2-

 選挙制度について、前回記事(政治に対する雑感5-選挙制度神話-)
では、選挙制度を変えれば政党制が二大政党になるのではなく、民意が変わらない限り政党制が変わることはないという観点から現行の選挙制度成立の背景及びその後の経緯について考察しました。
 今回は、昨年10月に行われた第50回衆議院議員総選挙での政治資金収支報告書が不記載だったいわゆる「裏金議員」の当落状況、政治「改革」が議論された1990年代当時、朝日新聞編集委員であった石川真澄氏による選挙制度「改革」批判の観点を中心に選挙制度神話について別の視点から考察したいと思います。


1990年代政治「改革」の問題が議論されない状況

 自民・公明の与党は、過半数割れとなったことを受けてか、政策活動費の見直し、政治資金を監視する第三者機関設置を検討しているという。(※1)政権が維持できなくなるかもしれないという危機感がないと、建前だけでも本当の意味での政治改革を提言できないのだと感じさせられるニュースである。

 現行の小選挙区比例代表並立制度は、リクルート事件(※2)などの汚職問題に発した1990年代初頭に政治「改革」の一環として導入されたことについては何度かnote記事に書いてきた。(※3)ただ、政治「改革」によって導入された現行の小選挙区比例代表並立制をどう評価するかについての議論はあまり聞こえてこない。

 今回の総選挙で政治資金収支報告書に不記載があった、いわゆる「裏金」候補者46人のうち、当選は18人、落選は28人となった。「裏金」候補者46人は自民党の公認を得られないないし比例での重複立候補を認められず、小選挙区制度一本で選挙に臨んでおり、小選挙区での勝率は39.13%となった。(※4)この結果について、小選挙区での激変のプラス面がある程度は働いたと解釈するのか、候補者の当落は小選挙区制度以外でも有権者が当落を判断するとみるかは解釈が分かれるところであろう。

 私は、業績投票の結果が強くでやすい小選挙区を中心とした選挙制度においては、与党において大きなダメージとなると考えており、(※5)ある程度は選挙制度の影響があったのではないかというスタンスである。ただ、選挙制度を変えることだけで「裏金」議員を許さない政治状況をつくるとまでは断言できる状況にはないと考えている。

国会の意義とは

石川真澄の選挙制度「改革」への批判的考察

 そもそも、あるべき選挙制度を考えるにあたって必要な視点とは何だったのであろうか。選挙制度「改革」が叫ばれた当時、朝日新聞編集委員の石川真澄は、第8次選挙制度審議会答申における選挙制度改革の提言で、政権交代の可能性や政権の安定性といった、政権の観点が強調されていることについて次のように批判する。

 (国会を)「政権」を第一義とするか、(国民の)「代表」を第一義とするかは、単なる見解あるいは立場の相違としかいいようのない問題であろうか。そうではない。(略)
 国政選挙は国権の最高機関である国会を組織するために行われるものである。結果的に内閣総理大臣の間接選挙のような機能を果たすとしても、直接には国会に国民の代表者を送り出すことが第一義である。そのような憲法の構造からみて、選挙制度に関して「代表」の性格を議論する以前に「政権」を論ずることは、はなはだしく本末を転倒するものであって、単なる見解の相違とするわけにはいかない問題である。(太いカッコは筆者補足)

石川 真澄「小選挙区制と政治改革」 P19~P20 岩波書店

 その上で、石川は憲法学者らの国会観を引用する形で民意の正確な反映のために、得票率と議席率の一致を問題にするのが国会の現代的代表観であるとしている。石川の得票率と議席率の一致のために必要な選挙制度は比例代表制のことを指すと思われ、現に石川は小選挙区制度と比較した際には比例代表制に軍配を挙げざるを得ないと述べている。(※6)

 石川の選挙制度の在り方に関する主張は、政権交代可能なシステムをどう構築するかという主張と一線を画し、民意のあり方をどう国会に反映させるかを最も重視する意味では、疎かにできないものがある。しばしば、国会は論戦が形骸化し、あるべき政策、法案のあり方が軽視されているという批判がなされてきた。これらの批判は政権の安定性ばかりが重視されたことによって、国会での論戦を軽視してきた結果として生じたものである。国会を本当の意味でいかにして民意を反映させるかという意味では、与党過半数割れになった現状においては、むしろ本来の国会のあるべき姿を再構築する絶好の機会となり得るはずである。以上の観点を踏まえると、石川が比例代表制を唱えた意義は、複数政党制による単なる政党間の多元的な意見を反映させるだけに留まらない重要な視点を持っていると言えよう。

参議院の選挙制度をどうするか

 そもそも、選挙制度「改革」の際に、参議院の選挙制度の在り方がなぜあまり注目されなかったのであろうか。第8次選挙制度審議会答申では、参議院議員の選出方法について、候補者推薦制のほか、広域ブロック単位の選挙制度などが議論されたものの、候補者推薦制は憲法上の制約から、その他の選挙制度は結論に至らず、現行制度の改善に留めるべきとの提言をしている。(※7)

 現行の都道府県単位を原則とした地方区は一票の格差が年々拡大し、最高裁は2013年参議院選挙について一票の格差について違憲状態の判決を出した。(※8)対処療法的に鳥取、島根と徳島、高知を合区として一つの選挙区にすることで一票の格差を是正するポーズをとってはいるが、現行の地域代表、職能代表の二本立ての選挙制度が維持できるか危うい状況にある。石川の指摘した民意をどう反映させるかという点からすれば、参議院の選挙制度の在り方こそ問われるのではないだろうか。

政権交代神話からの決別を

 石川は福岡政行との対談で、比例代表制の選挙結果によって、自民党が他の少数党と連立を組み、事実上の自民党中心の政権運営が続いたとしても、それは民意であると述べている。(※9)その上で、選挙の際に各党はどこの政党と連立を組むのかを事前に明白にすることが必要であるとしている。(※10)国会は民意の代表であるべきだという石川の選挙制度に対する姿勢がここからも感じられる。

 選挙制度については、首相の石破茂が年頭記者会見で選挙制度の検証について言及しているが(※11)、選挙制度の在り方を議論、求めるにあたっては、石川の指摘する民意のあり方をどう国会に反映させるかという観点から制度設計をするべきだろう。そのことが本来の意味での選挙制度改革になるのではないか。

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脚注

(※1)

(※2)

リクルート事件(りくるーとじけん)とは? 意味や使い方 - コトバンク

(※3)

(※4)

(※5)

(※6) 石川真澄「小選挙区制と政治改革」P10 岩波書店

(※7) 石川真澄「選挙制度」 P44~P46

(※8)

(※9) 石川 「小選挙区制と政治改革」 P58

(※10) 石川 「小選挙区制と政治改革」 P60

(※11) 2025年1月7日 東京新聞 朝刊 P2

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