統一地方選挙に思うこと④ -共同通信調査に関する考察-
市区町村議会でのなり手不足感
共同通信が全国の地方議会議長を対象に行ったアンケート調査によると、議員のなり手について、いないとの回答が全体では63%、1万人未満の市町村に限ると78%に上った。人口が少ない地方議会ほどなり手不足感がある傾向があることがわかる。また、無投票当選によって議員が選出された市区町村議会の割合は16%に上り、最多の長野県では41%となった。議員定数割れの議会も岐阜県飛騨市など19市町村に及んだ。(※1)
議員のなり手がいない状況への対策としての主たる回答としては、議員報酬の引き上げとの回答が77%、地方議員向けの厚生年金制度の創設との回答が55%となった。議会サイドとしては議員として活動するだけの制度的保障の強化を求める傾向が強いと言える。ただし、地方議員の兼業禁止の緩和との回答が47%、企業による立候補休暇制度、休職・復職制度の導入と回答した割合も35%を占め、(※2)市区町村議会において一般の市民が議員になりやすくするよう制度、要件のハードルを低くする必要性もある程度は理解していることはうかがえる。
本来、地方議会、とりわけ市区町村議会は一般の市民にとって最も身近な民意の反映たるべき機関である。市井の市民の声が多元的に反映されるための仕組みを整える意味で、議会側に議員活動への兼業禁止の緩和、立候補要件の緩和や立候補のためのハードルを下げることの必要についてあることを一定程度認識している点は評価できる。
ただ、被選挙権の年齢引き下げについては、必要が15%、不要が52%と若年層が地方議会に参入することには消極的な傾向が見られた。東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬の一都六県(以下「首都圏」)では、必要が48議会で15%に留まり、不要が172議会53%と全体と同様の消極的な傾向がうかがえる。(※3)東京都内に限定しても必要が7市区町村議会の11%、不要が34市区町村の55%(※4)であり、都市、地方での違いはあまりないことがわかる。
必要と回答した見解としては、「20歳は大人」(中野区)、「多様な世代の意見を反映させる必要がある」(立川市)、「若年層に近い年齢の候補者による投票率向上の一助」(多摩市)と若年層の意見を反映させることによる多様性を肯定した立場からのものがある。これに対し不要と回答した見解としては、「一定の社会経験が必要」(港区)、「年齢を下げても若者の議会参加にはつながらない」(大島町)など、若年層が未熟であるとの見解や効果がないというある種の諦めに近い傾向をうかがわせるほか、自身と異なる価値観や世代に対して後ろ向きな傾向が見られる。(※5)
女性議員比率の低さ
地方議会が後ろ向きなのは自身と異なる価値観、世代に限ったことではない。地方議会の議員における女性議員が占める割合は2022年11月1日時点で全国平均で15.4%であり、首都圏では21.2%、東京都でも30.1%であり、男性偏在傾向にある。(※6)また、女性議員がいない地方議会も全体の14.3%、首都圏では4.9%、東京都でも小笠原村など島しょ部の4村が女性議員ゼロであった。
地方議会における女性議員の少なさは、男女差別というフェミニズムの観点からの批判があるだろうが、背景としてはなり手不足との関連で一般の市民、生活者の議会に対するハードルの高さとも関係があると考える。地方議会において特定層のみが偏在することについてパリテ・アカデミー事務局長の西川有理子は東京新聞の取材に対し、「社会の多様な意見を反映すべき民主主義が実現できていない」(※7)との見解を示した。
中高年の男性中心で構成される傾向を持つ議会は特定層中心になるために議論、論争も低迷しがちであり、地域の活性化を妨げる主因になる。また、議会が特定層中心によって固定化することは、なり手不足が加速化することを意味し、多彩な人材が枯渇することも懸念される。
同一性、画一性が行き着く先
かつて外国人地方参政権の是非が議論されていた時期があったが、これについては、ナショナリストをはじめ地方が外国人に乗っ取られるのではないかとして反対の声が強く議論は立ち消えになった。武蔵野市が提言した外国人も含めた住民による住民投票条例案も外国人によって市の運命が左右されるとして反発する声が多く、議会で否決された。(※8)
共同通信が2023年2月23日時点での地方議会議長のアンケート調査で外国人住民が住民投票などを通じた地方行政に参加することについて尋ねたところ、議論を進めるべきが全国で16%、「進めるべきだとは思わない」が24%、「どちらともいえない」が56%との結果が出た。このアンケート結果からは賛否以前の問題として、そもそも議論それ自体をタブー視する状況があることがわかる。(※9)
外国人に対する反発の強さは昨今のナショナリスティックな状況や左右のイデオロギー上の対立で議論されがちだが、私は今回の共同通信のアンケート調査などからすると、そもそも外国人の政治参加以外でも、地方政治の活性化による多彩な人材を採り入れることについて、後ろ向きで消極的な姿勢の延長として表れている要素も強いのではないかと考えている。仮にこの仮説が正しければ、地域社会の低迷につながる点では極めて深刻である。
また、市区町村議会ではないが、昨年2022年2月の埼玉県川口市長選挙では投票率21.67%、おととし2021年1月の埼玉県川越市長選挙で22.05%と、5人に1人しか投票に足を運んでいない自治体の選挙もある。(※10)こうした状況が続くとそもそも地方自治それ自体の正当性が問われることにもなりかねない。
しかし、地方政治に携わる政治家の危機感は薄い。板橋一好(いたばし・かずよし)栃木県議は県議会の委員会で関心のない人が投票に行ってもろくな結果にならないとして投票率が上がらないほうがいいと発言した。同県議は東京新聞の取材に対して「付和雷同したりムードに流されたりして投票する人が増えると政治が不安定になる」などとして発言の修正、撤回をしないと回答した。(※11)県議の発言は、議会における発言の重さも、議論を尽くすことの大切さも何も理解をしていないことの表れだが、逆に私たちの側も政治、とりわけ地方政治に対する無関心、他人事ぶりがあることや、ポピュリズムに左右されやすい傾向があることを見透かされているとも言える。地方政治に向き合うことは何か、選挙公報、普段の地方議会の会誌、自治体広報などを読み比べるほか、普段の日常生活における社会、政治意識への関心のあり方について私たちの側も問われている。
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いかがだったでしょうか。次回は若年層の政治、とりわけ地方政治への関心の低さがどこにあるのか、また政治への関心向上の試みについて考察します。
お知らせ
次回は都合により4月30日(日)12時から15時の間の投稿予定とさせていただきます。よろしくお願いします。
私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※1) 2023年1月29日 東京新聞 朝刊1面
議員なり手不足感じる、63% 市区町村の16%が無投票選出:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
(※2) (※1)同
(※3) (※1)同
(※4) 2023年1月29日 東京新聞 朝刊22面
(※5) (※4)同
(※6) 2023年2月5日 東京新聞 朝刊1面,2面
首都圏地方議会の女性比率、「均等」になお遠く…最高でも東京の30% 北関東3県は全国平均下回る:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
(※7) 2023年2月5日 東京新聞 朝刊1面
(※8)
外国人の参加に揺れる街 住民投票条例案は…~東京・武蔵野市~ | NHK政治マガジン
(※9) 2023年2月26日 東京新聞 朝刊 20面
(※10)
市町村長選挙の結果(平成20年~令和4年) - 埼玉県 (saitama.lg.jp)
(※11) 2023年2月5日 東京新聞 朝刊 21面