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政治に対する雑感11-第50回(2024年)衆議院議員選挙の結果について考えること-


ハング・パーラメント

自公過半数割れの背景

 10月27日に行われた第50回衆議院選挙は自民党が191議席、公明党が24議席と与党が惨敗する結果となった(※1)。無所属での出馬を余儀なくされた自民党系議員6人は衆議院の自民党会派に入ることになったが(※2)、それでも197議席であり、公明党と併せて221議席と、過半数の233議席には12議席足りない。

 私は当初、自民党は公認では単独過半数を割るものの、追加公認で単独過半数を上回る2000年の第1次森内閣で行われた第42回衆議院選挙と同じような結果になると想定していた(※3)。なので、自民党の追加公認を含めた単独過半数割れはもちろん、連立与党が過半数割れとなり、野党勢力も過半数を確保できないハング・パーラメントの事態になることはまったく想定していなかった。現行の小選挙区制度中心の制度では、与党に対する業績投票、信任投票の結果が、逆風によると与党に大きなダメージとなることをうかがわせるものとなった。

ハングパーラメントにおける政治の動き

 自民党総裁の石破茂は選挙後の記者会見での政権運営の枠組みについて問われた際に、連立を想定しているわけではないとしながらも「議席を大きく伸ばされた党がある。やはりそういう党が選挙において、どのようなご主張をしたのか、どのようなご主張に対して国民が共感し共鳴をされたかということは、よくよく私どもとして認識をしていかなければならない。私どもとして、これから先、そのようなそれぞれの党のご主張に対して寄せられた国民のご理解、共感、そういうものを謙虚に受け止め、取り入れるべきは取り入れるということに躊躇(ちゅうちょ)があってはならないと考えている。」(※4)と述べている。野党の中から受け入れ可能な政策を採り入れ、野党から政権運営に関する協力を取り付けることで、ハング・パーラメントにおける不安定な政権運営をできるだけ回避することを狙った発言であろう。

 石破の野党に政権運営への協力を求める動きに対し、国民民主党代表の玉木雄一郎は、10月27日のNHKに出演した際に、与野党を問わず政策が一致する党と協力するとすると述べた。(※5)また、10月31日には自民党、国民民主党の幹事長会談が開かれ、法案、税制の案件ごとに両党間で協議をすることで合意がなされた。(※6)

 国民民主党側は、自民党との政策協議について、政策ごとに個別の政策を実現していく、いわゆる部分連合とは異なるとしている。(※7)ただ、自民党をはじめとした与党サイドの野党に対する公での接し方は、現時点では、国民民主党と国民民主党以外の野党などとは異なる。もし、与党サイドが個別に政策案件を協議するというのであれば、国民民主党だけではなく、立憲民主党、日本維新の会、日本共産党など他の野党にも働きかけるのが自然である。その意味では、自民党と国民民主党の一連の動きは、立法府における個別具体的な政策を政党間で幅広く協議をするという本来の趣旨とは異なると考える。

投票率の低さ

政治棄権層とは

 今回の衆議院選挙では、与党の過半数割れという状況が強調されがちだが、投票率が53.85%と戦後3番目の低さとなっていることにもっと多くの関心を寄せるべきだろう。2012年の第46回衆議院選挙以後、投票率は60%を超えることはなく、政治に対する無関心の度合いが高くなっていると言える。

 先日私が記した「第50回(2024年)衆議院選挙主要政党政策集に関する考察(後編)」でも、コメント欄において、(自称)競馬予報士佐久間さんより、政治家は選挙のときだけ頭を下げて選挙後に態度を変えるというイメージがあるとしたうえで、「一般市民がして欲しい事自分の住む町で変えて欲しい事そういう意見や要望を形にしてく。そんな人が立候補するなら投票率なんかも上がるんでしょうね。なので今回の選挙には行かないです。」(句読点は筆者が追加)とのご意見をいただいた。このコメントを読むと、棄権をしている人が必ずしも軽い気持ちで棄権をしているとは限らず、むしろ政治に対して真摯に考えている場合もあるのだということがわかる。政治と有権者との間に距離があること、日常の生活においていかに政治を語るという環境が整っておらず、政治家自身が環境整備をする気がないために、政治に真摯に向き合おうとするも愛想をつかしている有権者については真摯な対応で向き合うべきだろう。

 棄権の多さに対する考察については、過去何度か記事にしており(※8)、有権者と政治家との間の対話を密にすること、そのための対話の場を設けることが、棄権の多さをできるだけ解消する方向につながると考えている。また、政治家と有権者との間における誤解や価値観のズレを解消する意味や、政治の信頼を取り戻す意味でも、有権者と政治家の対話の場は必要だとも考える。

 私は棄権は基本的には白紙委任の要素があり、現状追認という意味があると考えている。現時点では以上のスタンスを変えるつもりはない。ただ、政治不信層、政治倦怠層の存在を否定するつもりはないし、政治無関心層も含め、なぜ棄権が起きるのか、その問題を解消するためにどうするべきなのかの考察、検証は必要であろう。

選挙制度上の問題

 低投票率の問題について、埼玉大学名誉教授の松本正生は東京新聞のインタビューで、今回の衆議院選挙の日程が解散から近接し過ぎているとして、せめて3か月前に解散を明らかにするべきではないかと述べている。(※10)選挙運動について述べれば、私は松本の主張に加え、選挙期間中の日程が12日間と短いこと、公職選挙法における禁止事項が多すぎることも問題であると考える。

 選挙期間については、最低でも3週間から4週間程度は必要であるし、また、少なくとも本人による戸別訪問を解禁すべきであると考える。今回の衆議院選挙では地元自治会の紹介という形で、候補者の親族が私の家に戸別訪問に来た。本人による戸別訪問の禁止は有権者への買収防止という名目で行われているが、親族の戸別訪問が禁止されていない状況では無意味であると考える。むしろ、候補者本人が戸別訪問において、有権者と候補者との間の政治に関する対話を行うことは、有権者の政治、政策に対する関心を深める意味で重要であろう。

 投票率が低いこと、棄権をする行為に対し、選挙は国民の義務、これだけ政治がおかしいのになぜ投票に行かないのかといった倫理、嘆きを強調する意見が散見される。だが、政治に対する関心がなぜ低いのかという本質的な問題をきちんと見極めることなくして、低投票率の問題は解消されない。棄権をする人の声に耳を傾け、どのようにすれば政治を自分の問題として考える環境を整えらえるのかを、私たち一人ひとりが主体的に議論、対話などを通じて構築していくことが求められている。 

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 【議席確定】衆議院選挙 自民党・公明党 過半数割る 自民は追加公認も検討 立憲民主党と国民民主党は大幅増 | NHK | 衆議院選挙

(※2) 自民 衆議院 197人で活動へ 会派に無所属で当選の6人追加 | NHK | 国会

(※3) 政治に対する雑感10-自民党総裁選・立憲民主党代表選に想うこと(前編)|コメント 2024年10月9日06:00の私のコメントを参照のこと

(※4) 【石破首相の会見詳報】「党内論理優先が厳しい結果に…」 大敗受け連立枠組みは? パーシャル連合は?:東京新聞 TOKYO Web

(※5) 国民民主党・玉木雄一郎代表「政策一致なら与野党問わず協力」 - 日本経済新聞

(※6) 自民とは案件ごとに協議、9日以降に党首会談=榛葉国民民主幹事長 | ロイター

(※7) 国民民主・玉木代表 部分連合「定義がわからない」 連立入りは否定 | 毎日新聞

(※8) 統一地方選挙に思うこと⑤-若年層は政治に無関心なのか-|宴は終わったが

若年層の棄権傾向にどう向かい合うべきなのか(前編)-若年棄権層に関する考察⑦-|宴は終わったが

若年層の棄権傾向にどう向かい合うべきなのか(後編)-若年棄権層に関する考察⑧-|宴は終わったが

(※10) 2024年10月29日 東京新聞 朝刊 P25

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