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2024年を振り返る


能登半島地震について

 2024年を振り返る際に考えさせられるのは、1月1日に能登半島で大地震が起きたことでしょう。お正月のしかも年の始めというときに大規模な自然災害が起きた翌日1月2日には救援に向かう海上保安庁の飛行機が民間機と激突し、海上保安庁の乗員5名が亡くなりました。そんな状況を踏まえ、1月は能登半島の大地震に関する記事を3本書かせていただきました。(※1)

 大災害に対する復興では、復興に便乗した経済活動が優先される傾向にありますが、最優先にすべきは、現に災害を受けた人々の生活基盤の回復であるべきでしょう。ただ、残念ながら9月には能登半島豪雨による土砂災害、仮設住宅への被害と同じ年に別の自然災害が起こり、復興がなかなか進まない状況があります。(※2)ただ、こういう状況であるからこそ、なおさら災害対策のあり方、被災を受けられた人々に対して政治が何をするべきなのかが求められるのだと思います。

 9月に首相に就任した石破首相は防災庁の設置を掲げ、防災対策に対して一定の提言を発してはいます。また、立憲民主党の意向を踏まえ、補正予算において予備費から1,000億円を能登半島への支援に充てました。(※3)ただ、具体的な現場の人々の求めるニーズにどう応えるべきかがより大切だと考えます。例えば、地震保険が民間保険にありますが、日本が地震大国であることを考慮すれば、地震保険は公的な社会保険とし、地震による家屋の倒壊、人身事故に対する補償をカバーできるような仕組みを設けるなどといったことが議論されてもいいのではないでしょうか。震災被災者の生活基盤の回復が最優先されるのであれば、被害それ自体に対する補償の確立こそが求められるべきです。

 また、能登半島地震で被害を受けた志賀原発の変圧器の復旧には最低でも2年はかかる見通しとのことです。(※4)女川原発、島根原発の再稼働、国民民主党の玉木代表が原発の新増設を石破首相を提言するなど、(※5)福島原子力発電所の爆発事故の問題を軽視するような状況になりつつあります。しかし、志賀原発の変圧器の故障事故は、冷却のための外部電源を受けることができない可能性を示唆したものであり、最悪の場合には福島原発に続く爆発事故となっていたことを認識するべきです。地震国日本において原発を稼働することのリスクが問われています。

政治のあり方は変わったか

 今年の後半は政治中心の半年でもありました。9月には自民党総裁選、立憲民主党代表選が行われ、そのことを記事にさせていただきました。(※6)その後すぐに解散総選挙が行われ、選挙における各党の公約比較、(※7)総選挙後の与党過半数割れの状況に関する考察を記事にさせていただきました。(※8)

 「政治に対する雑感11」でも書かせていただいたのですが、与党過半数割れの状況は、従来の国対政治による馴れ合い、儀式的な様相を呈した国会での論争を改め、各党がそれぞれ政策を議論し、有権者がその状況を理解し、あるべき政策を考えるという本来の議会のあり方を取り戻す絶好の機会でした。しかし、現実には基礎控除、給与所得控除を併せた103万円からの所得税、住民税が課税される、いわゆる「103万円の壁」の控除額引き上げを主張する国民民主党に対し、与党が政権運営を優先する立場から譲歩をするという衆議院での数合わせをどうするかという国会運営がなされています。また、国民民主党がダメなら教育無償化を主張する日本維新の会に譲歩すればいいという行き当たりばったりの国会運営もなされています。国民民主党、日本維新の会以外の野党は野党で、議論をきちんと国会で行うためにどう世論に訴えるか、という意識に欠いていることもこうした状況を許す要因となっていると言えるでしょう。

 私たちの側も税負担の控除とを無条件に喜ぶばかりで、財源のあり方や税制のあり方をどうするかという問題について考えている状況にあるとは言えません。また、先に触れた地震をはじめとした被災への生活基盤保障のあり方、年金、医療、介護といった現行の社会保障制度のほか、少子化対策の様相を呈する学費のあり方、片親の家庭による貧困問題などの青少年に対する社会保障のあり方など、税制以外の暮らしにまつわる制度設計のあり方にきちんと関心を向けている状況にはありません。

袴田巌さんの市民権回復・死刑の無執行

 見通しの暗さばかりが目立ちましたが、そんな中でのうれしい出来事としては、袴田巌さんの再審無罪確定による袴田巌さんの市民権回復ということでしょう。(※9)ただ、市民権を回復されたとは言え、死の恐怖に怯え続けた半世紀近くの時間は取り戻せず、また、拘禁症による苦しみはいまだに続いている状況には変わりません。最高検、警察が12月26日に公表した袴田事件の検証については、証拠の捏造を認めていないとの指摘が袴田弁護団の弁護士、日弁連からあり、(※10)真相の追及には程遠い状況です。

 袴田巌さんのお姉さんである秀子さんは、今年の10月26日にカトリック清瀬教会で行われた講演において、巌さんが長生きをして、せめて拘置所に入れられた時間よりも長く生きていてほしいと語っておられました。また、2014年に東京拘置所から出た後に医療機関で検査をした際に、身体に異常が見つかっており、もし拘置所から出られなかったら生きていられなかったかもしれないとも話されました。秀子さんのこの想いを私たちはどのように受け止めるべきか、またこのような状況を防ぐためにどうするべきか、司法の問題点に向き合うことが求められます。

 このほかのうれしいニュースとしては、2024年12月27日をもって日本における2024年の死刑執行がゼロとなる事がほぼ確実となったことがあります。(※11)死刑については、日弁連が11月に有識者懇談会による死刑に関する提言を出しておりますが、(※12)今年死刑の執行がなかった背景としては袴田事件の問題点が指摘されたことも大きいかもしれません。

よいお年をお迎えください。

 本文中でもお伝えした通り、今年は1月1日に能登半島地震という大災害に遭いました。今年も残り後4日ですが、せめて、残りの4日は何事もなく平穏無事であってほしいものです。

 読者の皆さんは、2024年の残りの日々をいかが過ごされる予定でしょうか。私は大掃除とまではいかないものの、普段よりもていねいな部屋の掃除をするほかは、渋谷のグラン・パレで開催されている「永遠のミュシャ」展を見学する予定です。(※13)ミュシャ展には何度か行っており、2017年に新国立博物館で開催されたミュシャ展では「スラブ叙事詩」を見学したことが印象に残っています。大衆芸術ということもあり、グラン・パレ以外では横浜そごうでもミュシャ展が現在開催中であり、(※14)関東近隣の方で興味のある人は足を運ばれるのもいいかもしれません。

 それでは、よいお年をお迎えください。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1)

(※2)

(※3)

(※4)

(※5)

(※6)

(※7)

(※8)

(※9)

(※10) 東京新聞 2024年12月27日 P1 P3 P6

最高検察庁 袴田巌さん無罪確定受け 検証結果公表“袴田さんを犯人だと決めつけたかのように自白求めた” | NHK | 静岡県

(※11)

2024年の死刑執行ゼロ 2年連続 約50人が再審請求 | 毎日新聞

(※12)

報告書 - 日本の死刑制度について考える懇話会

(※13)

(※14)


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