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ラジオをしながら「普通」から離れる
スタジオでの時間は限りがある。何度でも録り直しが出来るわけではない。
多少の操作ミスならそのままもう進めてしまう。さすがに録音ボタンを押し忘れていたときは再度収録をしたものの(中間の楽曲を差し込むタイミングで気づいたこともある)、それ以外ならそのままおし進めた。私のラジオを以前から聞いてくださっている方なら知っているかもしれない。
時間を気にしつつ、マイクの音のボリューム、背景曲のバランス。録音出来ているかどうかもそうだし、実際の録音音量の調子も見る。マイクの入力感度を上げるとかすかな空気の流れもノイズとして入力してしまう。背景曲を大きくしたら、マイクの感度を下げる。どこまで下げる? どこまで上げる?
マイクがあると甘えてしまって全然声が前に出ない。マイクの位置はどこ? どこがベスト? ミキサー(音響機器)の調節はどうする?
なかなか大変なことだが、嫌だとか面倒だとかは思わなかった。
不思議なもので「やって当たり前」と思っていたし、苦に感じることもなかった。今振り返ってみてもよく続けられたと思う。
聞いている人がいるかどうかも分からない。私に知名度はない。
それでも辞めるなんて考えたこともなかった。
「え? ラジオ? 普通そんなことしない」
そんなことを言われたことがある。遠回しに「お前は普通じゃない」と言われたわけだ。
あの時に比べたら、もっと『普通』から離れてしまったことだろう。ミキサーの使い方を、少なくとも自分がラジオを録るだけの操作は出来る。
多分、もう少し経験を詰んだら他者のラジオ番組の進行もなんとかなるのではないだろうか。
声劇の収録、歌ってみたの収録。ラジオにこだわらず、「人の声を録る」なら出来そうだ。この非日常を誰かに提供することは、誰かの夢を叶えることに繋がるかもしれない。
世は自己発信の時代だ。しかし顔を出したくないという人はいるだろう。さすがに二次元のキャラクターを動かしてリアルタイムに、というのは無理だ。あくまで音を録るだけしか今は出来ない。
でも、そんなことが出来るといいかもなあ。
いつかは自分のミキサーを手に入れて、スタジオを整えて、そこでボイストレーニングや収録などの場を提供するのだ。
誰かの夢を応援するというのはなかなか悪くないアイデアなのではないか?
生活保護と自己破産をしておきながら、そんな悠長なことを思った。ほぼ貯蓄もないのに夢ばかりは大きい。
夢を見るだけなら誰にも迷惑をかけない。実行するとなるとちょっと考えないといけないが、それをするだけの時間はない。いまはただ夢をもくもくと膨らませるだけでいい。
いっそスタジオ兼自宅にしてはいいのでは? 打ち合わせを自宅のリビング……はちょっとないな。応接室的なところでやる。
ああ、いいなあ。それ。ぜったい楽しい。
でも変に自己顕示欲が強い人が来てくれても困っちゃうな。門戸は開けとくが、狭くした方がいいかもしれない。少ないお金で何でもできると思っている人がいるもんなあ。無料でセレブになれると思ってる人もいる。
どうしたらいいかなあ。ふふふ。
出来るかどうかもわからないのに、そんなことを考えていた。