高速バースト体験記
「やったー! 初稿終わったー!」
わざわざ締切を前倒しにして迎えたその日、全ては順調だった。
初稿も無事終わり、今日から二泊三日の旅行。
メインの行先は名古屋だが、ゆっくりまったりを心がけていたため、一日目は岐阜のホテルまで二時間かけて車で行って、一泊する予定だった。
名古屋では水族館とプラネタリウムに行って、あとはホテルでだらだらしようと考えていた。
暑い時間の移動は勘弁だったので、出発は夕方、日が落ちる前。
本当に、なにもかもが順調だったのだ。
なのに私はこの日、岐阜のホテルには行けずに金沢に帰ってきた。
車が高速道路でバーストして走れる状態じゃなかったからだ。
バーストした瞬間
そもそも私は、旅行は電車派だ。
煽り運転や逆走がもしあったら……と考えると怖いし、長時間電車に乗るのが苦痛じゃないからだ。
けれどもこの日は車で旅行に行くことになっていた。
車は六月に買ったばかりの新車で、普通に町中を走っただけの、なんの問題もないものだった。
高速に乗り、順調に走っていく。
しか岐阜の看板を目にし、トンネルに入った瞬間、異変は起きた。
ガタガタガタガタガタガタ!
突然、車体が大きく揺れた。例えるなら、かなり険しい山道で舗装されていない道路を走った時のような感覚。
「なにこの道路、ガタガタでやばいね?」
初めは呑気にこんなことを話していた。笑顔もあった。トンネル内の道路に問題があると思っていたのだ。
だが、徐々に「なにかがおかしい」ことに気づき始める。
ハンドルがとられ、80キロ以上で走れる感じではなくなった。仕方なく60キロ前後で走行。
後ろからパッシングされ、焦る。前を走る車はどんどん遠くへ行く。
なんでうちの車だけ? おかしいのは道路ではないのではないか。そんな不安が渦巻いてくる。
そのうち煙の臭い匂いがたちこめて、やっとそこで車がおかしいことに気づいた。
窓からそっと前方タイヤをのぞけば、なにかが剥がれたようなものが見える。
タイヤだ! タイヤがおかしい!
そうとなれば、早く車を停めなくてはいけない。しかしここはトンネル内で、片側一車線の道路。
たまに停めるような場所は現れるものの、狭く、そこに停めるのは不安しかなかったので引き続き走行していた。
ハザードで後続車に知らせつつ、ゆっくりゆっくり走行する。その間も煙たい匂いがして、気持ちばかりが焦る。車が燃えたらどうしよう。どこかにぶつかったらどうしよう。
やっとトンネルを抜けたと思ったら、幸運なことに出口すぐにわりと広めの停めれる場所が現れた。
無事そこに停め、ひとまず事故らずに済んだことにホッとした。
JAFに連絡するまで
車を停めたあと、一旦外に出て車の様子を確認した。
すると、タイヤが「え……なにこれ、タイヤ?」な状態に仕上がっていた。
これである。
いや、よくこれで走ったな……。
そんなことを考えている場合ではなく、とにかくどこかに連絡しなくては。
私は、JAFに入っていたので、車内でJAFのアプリから電話をかける。(アプリがあって便利! 入っていてよかったJAF!)
JAFにはわりとすぐに繋がって、「とにかく早く車外に避難してください!」とのことだった。
避難といっても……。きょろきょろ辺りを見回して、後方にSOS電話が置かれている、ガードレールに囲まれた場所を見つけた。そこだ!
必要なものだけ持って、気をつけながらそこまで移動した。
ガードレールに囲まれているとはいえ、すぐ横をびゅんびゅん車が通り過ぎるため、とても怖い。
しかもちょうどこの場所というのが、橋? のような場所で、数十メートル下に道路が見える状態で、向こう側にはダムが見えていた。完全なる山である。
時刻は六時半。月が山から顔を出し、辺りは暗くなりつつあった。
JAFの人は七時に来てくれるという。三十分もこの場所にいなければいけないのか……と一瞬絶望する。
けれどそんな弱音を吐いている場合ではない。私がしっかりしなくては、と気力を奮い起こして、JAFを待つことになった。
JAFが来るまで
JAF……七時になっても来ない。
来る言うたやんけ! 不安は募るばかりだ。
JAFから電話が来て、あと二十分はかかるという。に、二十分……。再び絶望した瞬間だった。
もう、わりと暗い。山ということもあり、なんだかよくわからない虫が飛び交っている。ガードレールにも蜘蛛がたくさんいる。
JAFは来ないは、JAFの人から「車はレッカーできるけど人は運べない」と言われるは(じゃあどうやって移動すればいいの!?)、なんだか散々だった。
この待っているときが一番不安だった。
その時、トンネルからチカチカ赤く光るものが見えた。え、JAF!? ……と思ったが、違った。
NEXCO中日本のパトロール車だったのだ。
「どうされましたか?」
NEXCO中日本の人に事情を説明する。(ちなみに、NEXCO中日本の人はJAFからの連絡を受けて来てくれたらしい)
すると、NEXCO中日本の人は「事故」みたいな文字がピカピカ光る看板を車の背中から伸ばしてくれて、交通誘導もしてくれた。(そして水をくれた)
これには本当に救われた。不安で仕方なかったので、誰かが来てくれたという事実だけでもとても心強かったのだ。
そうしてしばらくしたら、JAFが来てくれて、ようやく助かるんだ……という気持ちでいっぱいになった。
もう辺りは真っ暗だった。
家に帰るまで
JAFの人はとても優しそうな人だった。
「私たちはどうしたらいいんですか」と相談したら、家までごにょごにょ。
もうちょっと先に飛騨高山があるので、そこで民宿を探すしかないか……と思っていたところだったので、とても助かった。
すぐさま高速道路で家へと戻る。時刻は九時半。そういえば夜ご飯をなにも食べていなかった。
家に到着したのは十時半。家に入った瞬間、「無事に帰って来れたんだ」という思いで泣きそうになった。
しばらく興奮状態で眠れなかったが、十二時すぎ、ベッドに入る。
こうして慌ただしい一日は終わった。
原因
さて、今回の原因はなんだったのか。
バーストというのは、空気圧が低いときに起こるらしい。つまり、空気が漏れていた、と。
しかし高速中になにかを踏んだ覚えは全くない。なにかにぶつかった記憶もない。
となると、考えられることは二つ。
①初期不良②普段使いの時にタイヤを傷つけた
のどちらかなのだそう。
普段使いの時もいたって普通に使っていたし、タイヤを擦ったりパンクしたりしていないのだけど。
ただ、仮に初期不良だとしても、それを証明するのは難しい。結局、原因はわからないのだ。
バーストを防ぐためには、高速に乗る前に空気圧をしっかり測るほか方法はない。
私はこれを怠っていた。新車だから、ということと、みんなしてないよね、という気持ちがあったからだ。つまり、気が緩んでいた。
たくさんの幸運
今回、「高速でバーストした」と報告した時「無事でよかった」とたくさんの人に言われた。
たしかに今思えば、「しんでてもおかしくなかった」と思う。
基本的にバーストというのは瞬間的なものらしく、いきなり「バンッ」と爆発音がしてハンドルがそっちにとられて事故になるらしい。
今回のバーストは瞬間的なものではなく、徐々に空気が抜けて、耐えきれなくなってタイヤが壊れたのではないか、とのことだった。
そのため、急にハンドルがとられることもなく(もちろんずっと不安定ではあったけど)、トンネルを抜けることができた。
もしあの時、トンネルの壁にぶつかっていたら、後続車が追突していたら、対向車線にはみ出していたら……そう思うと震えが止まらない。
さらに、バーストが起こった場所もよかった。トンネルに入って二分くらいの走行で済んだし、トンネルを抜けてすぐに避難場所があったからだ。
一個前のトンネルは実に九キロの長さだったので、もしそのトンネル内でバーストしていたら……と思うと恐ろしい。
トンネル内で、しかもガードレールで守られることなく一時間以上待つなんて、無理だ。
そして時間帯もよかったと思う。夕方だったので気温も高くなく、しかも曇り気味で山だったので、「暑いな」と感じることはなかった。
でももし昼間に出発していたら……熱中症になっていたかもしれない。
いろんな幸運によって、私は帰ってこれたのだな、と思う。
旅行は残念だったけど、また行けばいいや。今度は電車で行くことになりそうだけど。
少し大袈裟かもしれないが、生きているだけでいいんだと感じた。
今回、NEXCO中日本やJAFの人たちが優しく、とても心強かった。感謝の気持ちでいっぱいだ。
JAFは継続する。
(ちなみに、ネットの保険のロードサービスでもレッカーはあるが、高速の場合は断然JAFがいいらしい。ディーラーの人が言っていた)
ちなみに、修理代は……普通車車検代の1.5回分くらいだった。
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