【書評】サッカー戦術本「サッカーとは何か」の解説と所感 Vol.3
浦和レッズ分析担当コーチ・林舞輝さんのサッカーの本質を問う書籍「サッカーとは何か」
Vol.1では、根本的な概念を解説
Vol.2では、トレーニングにおける原則を4つ解説してきた
そして本記事では、 トレーニングにおける法則の中でも難しい「カオス&フラクタルの法則」を解説していく
カオス理論
ここで言うカオスとは、世間で最も頻繁に使われる「混沌」と言う意味ではなく、数学に属する「カオス理論」のことを指す
カオス理論:初期値の微小なズレが拡大していき、最終的に無視出来ない影響を与え、結果が全く異なるものになってしまうという理論
例)ボーリング
狙ったところに狙った軌道で狙い通りに投げられるはずのプロでも、毎回ストライクを出すことは出来ない
風の発生しない室内、全く同じピンの配置と距離、全く同じ大きさと重さのボールという「整った」環境でプレーしているのにも関わらずである
それは、室内でのほんのわずかな温度や湿度の差、腕や手首の微妙な疲れ具合、レーンのオイルのすり減り、オーディエンスの反応、そういったほんの小さな要素の違いにより、ボールの軌道やピンの倒れ方が変わってきてしまう
サッカーで表すと、キックオフからの最初のボールが1センチズレただけでも、その後の展開は同じものにはならない
これまで無数の試合が世界中で行われてきたが、同じ試合内容になったことは一度もない
気温、湿度、風向き、芝生の長さ、スパイクのすり減り方、そういった些細な現象が、様々な要因と連鎖的に絡み合い、大きな結果の違いに繋がるのだ
フラクタルという概念
フラクタルとは数学者が提唱した幾何学の概念である
フラクタル:ある図形の部分が全体の自己相似になっているものを指すこと
例)雪の結晶
顕微鏡でどんどん拡大してみても、全体の構造とそれを構成する構造が変わらない
ある全体の構造がその構造を形成する細部の構造と同じ形を持つことをフラクタルと呼ぶ
サッカーで表すと、1vs1は3vs3の構成要素であり、3vs3は5vs5の構成要素であり、5vs5は8vs8の構成要素であり、8vs8は11vs11の構成要素であり、それぞれが等しく「サッカー」であるということだ
同じように、相手、味方、ボール、ゴール、スペース、時間があり、ドリブルとパスとシュートがあり、攻撃・攻から守・守備・守から攻の場面がある
サッカーにおける「カオス」と「フラクタル」
サッカーとは多くの要素からなり、全体が部分に影響し、部分が全体に影響し、それらが複雑に絡み合う系ということだ
つまり、サッカーという系が複雑系である限り、すべての要素は切り離して考えることはできず、絶えず変化し、細かい要素と全体が互いに影響し合っている
そして「カオス」は「フラクタル」な構造を持っている
要するに、前述の「カオス」な状態は、3vs3でも5vs5でも8vs8でも起こり得るのだ
従って、選手を鍛える為には「カオス」であり「フラクタル」であるトレーニングが必要であるのだ
続いてVol.4では残りの2つの法則を解説していく