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彼らはなぜ独立を選んだのか~佐渡島庸平さん・武田双雲さん~

いよいよ今週末(10/17, 18)に迫ったWEIN STUDENT SUMMITのプレイベント最終回が、先日10/9(金)に開催されました。今回は、株式会社コルク代表取締役会長CEOの佐渡島庸平さん(以下、佐渡島さん)、書道家の武田双雲さん(以下、武田さん)をお招きし、「大企業勤めだった2人が独立を選んだワケ~人生を切り開く鍵とは~」というテーマでお話していただきました。

佐渡島さんは、出版業界で不況が嘆かれていた2000年代、講談社で「バガボンド」「ドラゴン桜」「宇宙兄弟」「働きマン」といった大ヒット漫画を担当されていた凄腕の編集者です。大企業で働く中で、時代の空気に直接触れることが大切だと感じた佐渡島さんは講談社を退社して独立、現在は編集者としても活動しつつ、「作家のエージェント業」を行う会社、株式会社コルクの経営もされています。

武田さんは、新卒でNTTに入社。みんなを楽しませようとして社内用のメモで筆と和紙を使うことが噂になっていたある日、「自分の名前を書いてほしい」という依頼に応えたところ、依頼者の女性社員が泣いて喜んでくれたことから「世界中の人を喜ばせたい」と強く感じてNTTを退社し、書道家としてのキャリアをスタートします。現在はアメリカ・カリフォルニアを拠点に活動されています。

さて、お二人は共に「大企業を辞め、独立」という人生を辿られています。なぜ独立したのか、仕事や創作に対する哲学、そして今なお挑戦を続ける原動力。1時間を超えるトークセッションで熱く語っていただいたことを振り返っていきましょう。

独立のきっかけ

佐渡島さん
「最初は定年まで講談社で働くつもりで、独立を視野に入れて入社したわけではありません。講談社はとても自由な空気で、基本的に自分のやりたいことができたのですが、『作りたいものだけを作る』という感じの自由が欲しい、という気持ちがありました。」

武田さん
「自分はADHDというのもあって、決意の前に体が動くタイプでした。学生の時は本当にアホで、みんなの就活が終わった後に就活の存在を知ったくらい(笑)。教授の推薦で、特別枠でNTTに入ってみて、会社のメンバーがしかめっ面してるのを不思議に思いました。だから、みんなを笑わせようとして、メモを筆で書いて上司に渡していたんですよね。そしたらそれが噂になって、ある日女性社員に手紙を書いてくれって頼まれたんです。それでその人の名前を書いたらボロボロ泣いて『今まで自分の名前が嫌いだったけど、その(武田さんが書いた)字を見たら許されているような気がした』って言ってくれて、それが本当に嬉しくて、『これだ!』と思ってその場で辞表を書いちゃいました。」

仕事―作品をつくること―の哲学

佐渡島さん
「(僕が働いてた2000年代から)出版業界は段々儲からなくなってきたんです。昔の雑誌は、連載しているマンガが売れなくても良かったのですが、最近はそれが許されませんよね。作品を作りながらお金儲けもする、みたいな感じになっていると思います。もちろんお金儲けは大事だけど、それを目的にやっているわけではありません。本気で作品を作ったらお金が儲かるだけなのに、なんだか順番が逆になっている気がします。あくまでお金は、いかに本気でものを作ったかの結果に過ぎないはずですよね。」

武田さん
「それは本質だよね。『売るために作る』ってのは最悪のモチベーション。それでもいいのかも知れないけど、僕はそれだとモチベーションが下がるかな。最近のトップアーティストたちが苦しんでいるのを見ていて、とてもびっくりしてる。『楽しくないのに何してんの?』って思っちゃう。」

佐渡島さん
「宇宙兄弟の作者さんは『バナナ理論』が大事って言うんだよね。バナナ理論っていうのは、『死ぬときにリンゴかじってたらカッコいいけど、バナナかじってたらカッコ悪い』ってことなんだけど、作者さん曰くリンゴじゃなくてバナナを持っているような、どこか笑えるものを書きたいらしいんだよね。(最後に)笑ってると馬鹿っぽく思えるかもしれないけど、本当は馬鹿っぽいところに真髄があると思っていて、人生はそっちの方がいいとも思います。」

武田さん
「確かに。僕は楽しむために会社を飛び出した。」

佐渡島さん
「一生懸命やっていて、苦しさを感じたら方向を間違えている気がするんだよね。」

武田さん
「そう。成功って凄くややこしくて、苦しくても成功はできるんですよね。具体的に言えば、血反吐吐きながらでも上場企業作ったりできるし、苦しみながらヒット作を出すこともできるんです。でも、成功と幸せは全くリンクしてないと思います。ヒット作を楽しみながら作ることだってできるわけです。」

佐渡島さん
「パートナーと笑い合って仕事ができたら、結果が出なくてもOKになると思います。お金の意味でのプラスは代替可能なんだけど、誰かと笑い合って仕事することは代替不可能。武田さんと笑い合って仕事するのと、別の人と笑い合って仕事するのは交換できないですよね。だから、笑い合って作る仕事は貴重だと思います。もちろん仕事してたら言い合いになることもあるけど、それも楽しみながらできたらいいよね。やっぱり、苦労することと苦しむことは別だと思う。」
「創業者がその会社にいるかどうかも違うと思います。ビジネスを始める人って、楽しみながら仕事をしていると思うんです。だから、創業者がいる会社は楽しみながら仕事していて、いない会社は我慢しながら仕事をしているって違いがあるんじゃないかって。」

変化の大きい世界の中でどうするか

武田さん
「僕は書道をやっているけど、毎日筆を動かせばそれでいいのかって言うと、そうじゃないんですよね。コンピュータの方が絶対字が上手いわけですし。みんなが挑戦していくためには努力が必要だけど、具体的にはどうすればいいんだろうって考えてみたんです。例えば、今は単に歌が上手い人とか、写真みたいな絵を描ける人はたくさんいて、作品のクオリティが高いだけの人の価値は下がってきていると思うんです。つまり、今は技術がコモディティ化しているわけです。じゃあ何が重要かって言うと、少し昭和っぽいかもしれませんが、人間力だと思うんですよね。僕らが思う成功っていうのは、エネルギーの大きさを反映していて、そのエネルギーを物質化する力が人間力なんです。言い換えれば、ビジョンの違いがそこに現れるということです。『作家になって本を出したい』と言う人と、『100万部売りたい』と言う人と、『本を出して革命を起こしたい』と言う人、みたいに色々なビジョンの人がいると思うけど、やっぱり、ただ本を出したい人はエネルギー小さいよね。」

佐渡島さん
「『本を出したい』って言うのはあくまで一人サイズの器であって、決して二人サイズじゃないんですよね。要は自分のビジョンがどれくらいのサイズかって話で。例えば僕は講談社に入った時、『ヒット作を出したい』みたいな小さいビジョン、それこそ一人でもできる夢を持っていたんです。でも今は時代がインターネットになって、変化しているわけです。すべての物が変化していく中で、固定された仕組みの中にいると一人の狭い範囲の世界で終わってしまうと思います。(武田さんが言った通り)技術が最終的にコモディティ化していくわけだから、いかにその作品が人間的に面白いかで人気が決まると思うんです。つまり、コンテンツそのものの楽しみ方やあり方が今後変わっていくのではないでしょうか。面白いコンテンツを作ることが最強の職業だと思うけど、その雰囲気があまりないのはなんでだろうね。」

武田さん
「独立してすぐは上手くいかない事もあったと思うのですが、どうでしたか?」

佐渡島さん
「当時(2012年)はSNSとかKindleとかない状態で、個人がコンテンツで勝負するのが難しい時代でした。当時は編集者でTwitterやってるのが僕だけ、みたいな感じでしたね。それくらい個人が弱かった。でも今は全く状況が違いますよね。今はもうYouTubeはテレビより強くて、最強みたいになっている。これだけ変化の激しい時代で、編集者として作者の世界観がどうやったら世の中に受け入れられるかを考察して、作家と一緒に物語を創り上げるということをしているわけです。」

武田さん
「新しい時代の波に乗るためには、新しい船が必要だよね。」

今なお挑戦を続ける原動力
そして目指す先とは

佐渡島さん
「今に集中しているだけで、あまり未来考えてないんだよね。会社のミッションとして『物語の力で一人一人の世界を変える』って掲げているように、ぼんやりとは決めているけど、なるようになると思ってます。」

武田さん
「佐渡島さんが言う挑戦と、みんなが言う挑戦って少し違うような感じするよね。佐渡島さんの挑戦って今に近いところで、今この瞬間に近いものにエネルギー注いでるから、次の未来が生まれている感じがする。」

佐渡島さん
「次の未来が生まれるくらい、今に完全に集中しています。みんなは未来のために計画するけど、もっと今に集中するべき。」

武田さん
「今目の前にある物事に集中できないから、現代人は苦しんでいるんじゃないかと思います。」

佐渡島さん
「人間の会話って『自分かわいそう』『あいつが悪い』『今からどうするか』の三種類しかなくって、ほとんどの人は最初の2つばかり。だから自分は『今からどうするか』だけを考えるようにしました。」

モデレーター
『お二人の話を聞いて、今を生きることも挑戦の形だと思いました。そのうえで、怯んでしまったり、ストッパーがかかってしまうことはありますか?』

佐渡島さん
「ストッパーがかかるのは、今できないことを夢想しているからじゃないかな。自分に都合よく未来を想像するから、挑戦できなくなると思います。」

武田さん
「僕は今できることからやっているから何も怖くない。できないことを考えていると怖くてしょうがないです。自分はビビりだから危ない事はしないです。これからは、勇気を振り絞って怖い事をするって意味での挑戦は時代の流れに会わないかもしれませんね。目の前にあることを精一杯やるのがベストではないでしょうか。」

佐渡島さん
「やっぱり、自分のやりたい事を見つけてそれに集中するのが一番かなって思います。」

武田さん
「所属とか身分は関係なくて、どういった形で『自分のこと』に関わっているかですよね。毎日本気で楽しんだら人生上手くいくと思います。孔子も言ってたけど、人生において大事な3つのことが『知・好・楽』で、『楽』が一番大事なんだってね。これは本質だと思います。」

佐渡島さん
「漫画とかも、学べるところたくさんありますよね。ドラゴン桜なんかは、サクセスの本質が描かれているからもう一度見てほしいね。」

以上がトークセッションの内容となります。時間の都合上、お話いただけなかった部分もたくさんあります。いよいよ2日後に迫ったWEIN STUDENT SUMMITでお二人は登壇されます。今回お聞きできなかった話も是非、聞きたいと思います。

セッションを振り返って

お二人のお話を聞いて思うのは『ビジョンをもって、今を楽しんで集中する』ということです。今を楽しみ、目の前のやるべき事・やりたい事に集中し、大きなビジョンを持ちつつ、できることからやっていく。どこかで聞いたことのある話かもしれないが、どこでも話されているからこそ、ある意味で本質ではないのかと思います。悩むことは考えている風でカッコよく見えるかもしれませんが、まずは目の前のことに集中する、というアクションを起こしましょう。

WEIN STUDENTS SUMMITは、10/17,18の2日間だけのサミットでは終わりません。今後も、日本最大規模のコミュニティとしてたくさんのことに挑戦していきます。WEINでは、FaceBook やSlack、Messengerを通じて、WEINに参加している自身の大学や他大学の学生たちとの交流ができるクローズドコミュニティを提供していて、このコロナ禍で他大学とのつながりを持てないなか、このようなコミュニティが手に入ることは、多くの学生にとって嬉しい事だと思います。。読者の方々にはぜひWEINに参加して交流の輪を広げつつ、登壇者の方々のみならず他の学生メンバーの話を聞く中で自分の夢や目標を定めていって欲しいと思います。

               WEIN東京大学支部 平野秀大

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