『作ろう!ボカロ楽曲』
(obscure voices vol.1 収録『作ろう!ボカロ楽曲』より)
著:Maqμin(https://x.com/imodanshaku252)
はじめに
導入
こんにちは、Maqμin と申します。Oimocraft というレーベルを運営し同人インスト音楽を制作する傍ら、たまに結月ゆかりさんと一緒にボカロ楽曲を制作しております。好きなボカロP はmillstones さんやtilt-six さん、一番好きな松屋のメニューはネギとろろ牛めし( 特盛) です。よろしくお願いします。
本記事の内容についてですが、楽曲のdig やバックグラウンドの文脈についての知識なんかは他のライターの皆様に勝てる余地がないので、ここでは私が実際に苦しみながらボカロ楽曲をゼロから一曲まるごと制作する様子をお届けいたします。
本記事に関連する資料は記事後ろの方のQRコードから飛べるGoogle Drive のページよりダウンロードできます。よろしければそちらも合わせてご覧ください。ついでにおまけとして今回制作した楽曲のステムデータも入っていま
す。
制作環境
PC:MacBook Pro(2021)
DAW:Logic Pro X
使用音源:VOCALOID ™ 4
結月ゆかり 純(AHS)、Serum(Xfer Records)、Kontakt 7(Native Instruments)、Hive(u-he) など
何を作るのか
昨年(2023 年) 夏のボカコレにて「ゆらり」という楽曲を発表したのですが( 注1)、シンプル怠惰によりリリース時期を逃してしまい長らく現状ストックされた状態になってしまっていました。なので今回そのカップリング曲を作り、2曲まとめてリリースすることにしました。有り体に言ってしまえばシングルのB 面の曲です。楽曲自体については、「ゆらり」のコンセプトが「日常に根付いた小さな幸せ」みたいな感じだったので、根底を保ったまま作詞、作曲ともに別ベクトルからのアプローチを考えてみることにしました。
・作編曲面:「ゆらり」があったか〜い感じのゆったりした四つ打ちの
シンセウェーブっぽい曲調だったので、今回はクールで
オシャンティなリキッドファンク( 注2) をやってみる。
・作詞面 :「ゆらり」が夕方〜夜ぐらいの時間帯がテーマだったので、
今回は真夜中を舞台にしてみる。
こんな感じで曲を作ってみることにします。それでは、実際の制作に移っていきましょう!
実際に作ってみる
制作フロー
今回は以下の流れで制作を進めていきます( 注3)。
軽くオケを作る
作詞
メロ付け・諸々の調整
完成
軽くオケを作る
当初のプラン通り、素直にリキッドファンクを書くことにしました。まずドラム隊を組んでコードを決めて、使いたい音色を軽く揃えて…ひとまず8小節ぐらいのピースを作っていきます。コードはGm キーで「Ⅳ M7 →Ⅱ m7 →Ⅳ M7 →Ⅱ m7 →Ⅲ7」となっています。かなりしっとりした質感ですね( 資料1)。
次に決まったコードを実際に曲中で使うピアノ音源で鳴らしてみたところ、特定の周波数帯が大きく突出したやや耳障りな音が鳴ってしまいました。厄介ですね。また曲想としてもあまり重苦しい雰囲気にはしたくなかったので、この2つの問題を解消するためコードはそのままに移調を検討することにしました。色々試してみた結果、最終的にGm → Dm に調を変更すると先ほどのミキシングにおける問題と空気感の問題が同時に解消されたので( 注4、資料2)、今回はここから本格的にオケを固めていきました。
楽曲のイメージが浮かび始めたので展開を作っていくのですが、リキッドファンク自体が割と淡々と展開していくジャンルで、なおかつコンセプト的にもダイナミックに展開させる予定はないので、今回は順当に元々8小節を延々と繰り返して、適宜ドラムを抜き差ししたり軽いドロップや間奏パートを挟んでいく形にしてみました。ここまででオケがざっくりと出来上がり、歌詞を乗せて細かいところを詰めていけばまあ曲として聴けるところまで出来上がりました( 資料3)。本格的にリキッドファンクを作ったことはなかったのですが、普段から好んで聴いているジャンルだったためかここまでは思ったよりスムーズに進められた印象があります。実働時間に換算して丸一日くらい?
作詞
さて、一番苦しいパートがやってまいりました。まずはシチュエーションと主体になるキャラクターを決め、そのあとひたすらブレインストーミングを行います。
歌詞における主点となるキャラクターは今回「ゆらり」を制作する際に制作した、独身一人暮らしのOL さん概念( 資料4) を流用します。シチュエーションは先述した通り時間帯的な舞台を真夜中とするのですが、これだけでは何も書きようがないので、もう少し的を絞ることにしました。結果、程よい日常感と幸福感があり、なおかつそこそこ私自身にも馴染み深い「深夜のお散歩」をテーマにすることにしました。ついでにここでタイトルも「高架下の水底」に決まりました。ちょっとシャバすぎるかな…
あとはひたすらテーマや曲想、キャラクターから連想される単語やフレーズをリストアップし、ある程度出揃ったらパズルのように組み合わせて…という作業を繰り返していきます。とんでもなく苦痛です。不可能なんじゃないか( 注5) ?
メロ付け・諸々の調整
そんなこんなで一番苦しい作業を終えることができたら、もうあとはひたすら手を動かしていくだけになります。ここでの踏ん張りが最終的なクオリティにダイレクトに影響するので、根気強く制作していきます。
まずはメロ付けです。いつもは適当な音色に仮メロを打ち込んだトラックが存在しているのですが、今回はゆかりさんに直接歌っていただいてメロを作っていきます。歌メロは本当に作るのが難しいので私もまだまだ試行錯誤する段階にいるのですが、まず一番意識しないといけないのは「詰め込みすぎないこと」な気がしています。歌モノって実は一生歌い続けている必要って無くて…あとはできるだけ大きなノートの動きを抑えるのもよいかもしれません。シンセフレーズや楽器でカッコいいフレーズと歌えるフレーズってまったく異なるものだと思うので、できたメロを一回ボカロに歌わせてみたり、自分で口ずさんだりしてみてまずいところがないかきちんとチェックしていきましょう。字数や響きの問題で歌詞を修正するといったことも今回たくさんやりました。
メインボーカルが出来上がったら、要所要所にハモリを足していったり必要に応じてコーラスを作成したりしていきましょう。これらはそれほど時間もかからず、比較的機械的にできる作業になります。心を無にして詰めていきましょう。
ここまで終われば本当にあと一息です。最終的に音源として仕上げるため、「ミキシング」「マスタリング」という工程( 注6) を進めていきます。といっても私の場合はそもそもの音作りの段階で元のオケに対してそこそこ馴染むように調整をすることが多いので、ミキシングで行うのはリファレンス( 技術的なお手本として参照する楽曲) の音源から極端に離れてしまっているところがないか、耳障りな音がないか、どこか寂しいところがないかなどをチェックするのが主軸になります。臨機応変に足したり引いたりしていきましょう。マスタリングは市販の音源に合わせて音圧や波形の形をラウドネスメーターやスペクトラムアナライザーを見ながら調整してあげるだけの作業になります。これが複数人の音源を収録するコンピレーションなんかになるとだいぶ話が変わってくるのですが、今回は自分の曲のみで、それも2曲だけのシングルリリースなのでそこまで神経を尖らせなくてもいいやという結論になりました。何事もある程度納得のいく段階まで詰めきれたらあとは多少気軽にリリースできる精神を持っていきましょう。
完成
やった~
まとめ
いかがでしたでしょうか。ボカロ楽曲に限らず音楽って理知的にやっている部分もあれば意外とパワーで解決している部分があったりするんだ、という一例を示すことができれば良かったかと思います。
今回制作した楽曲「高架下の水底」は弊サークル「Oimocraft」より、本誌と同日にデジタル・CD 両方にてリリースされます!後日ニコニコ動画とYouTube、各種ストリーミングサービスでの公開も予定しておりますので、本記事を読んだりステムデータをご覧になった上でご視聴いただけるとまた違ったベクトルで楽しんでいただけるかもしれません。
それではまたいつかの機会でお会いしましょう、Maqμin でした!
注釈・余談
注1:ニコ動で聴けます(sm42578893)。めっちゃ気に入ってるので聴いてくれ〜!
注2:ドラムンベースというクラブミュージックがあり、そのサブジャンルの一つです。
注3:いつもは歌メロを考えてから作詞に移るのですが、あらかじめ作ったメロに日本語を当てはめていくとやぼったい響きになったり、ゆかりさんが歌えない音域になっていることを見落としたりしがちなので、今回は詞を先に作ってみることにしました。
注4:ほんの少し音楽理論的なお話をすると、Dm キーはGm キーの7半音上( 完全五度上)、つまり属調にあたるキーになっています。今回のように元のキーから楽曲全体を±7半音( あるいは±5半音) 動かしてあげると、元の質感を大きく変えることなくいい感じに曲想を変化させることができる場合があります。ベースの周波数帯が高すぎるor 低すぎる場合などにも適用できるので、ぜひお試しあれ!
注5:私が作詞で苦しみもがく過程で作成したメモはそのままテキストファイルとしてまとめております。よろしければご参照ください (資料5)。
注6:ミキシングはそれぞれのトラックに対しての音量調整やエフェクターを使っての調整、マスタリングは全体に対しての音圧の調整やEQ、コンプなどを使った微調整ぐらいに認識していただければ問題ないです。
![](https://assets.st-note.com/img/1738816730-wl2mfDoB6ZMhs7WHYSt0LVPQ.png)
今回作曲した曲のURL:https://www.nicovideo.jp/watch/sm43799971