見出し画像

【すっぽんノベル】「桃太郎」第九話

writen:立花裕介

おいしい枝豆を食べたクローンの一体が立ち上がり、桃太郎に襲いかかった。
敵だったのか。その瞬間、レーザービームのように後ろから飛んで来た水を顔に受けたクローンが、仰向けに倒れた。
ふりかえると、水鉄砲を持ったバックスがそこには立っていた。

「何してくれてんだ!ぼっちゃん!」

次々と立ち上がるクローンを水鉄砲で撃ちながら、バックスは焦るジジイの元へ走っていく。

「ボス、ここは俺が!ボスは坊ちゃんを連れて、ふさえさんの所に!」
古爺「仕方ない…。」

僕はバックスの水鉄砲があんな威力を出すなんて知らなかった。もしあの頃、あんな勢いの水鉄砲で撃たれていたらと思うとゾッとする。
(なんだ?一体何が起こっているんだ?誰か、このおいしい枝豆をあげるから、何が起こっているのか教えてくれないか?ちょっと生暖かいけど…。)
そう思って、襲いかかってくる大勢の僕の中の一人に2つ目のおいしい枝豆を差し出そうとした。

しかしその瞬間、僕の身体はふわっと宙を浮いたかと思うと、目の前にあったはずの僕の顔がドンドン遠ざかっていく。僕は黒づくめの男達に担がれ、その場から運び出されようとしていた。視界の奥ではジジイも担がれてる。そしてその向こうでは、何処に潜んでいたのか、あっという間に数十人の黒づくめの男達が、僕のクローンに水鉄砲を向けている。
差し出そうとしたおいしい枝豆は空虚に宙を舞っている。
もう、何も考えられない…。
僕は担がれるまま、無数の僕が暴れるその部屋を後にするのだった。

ーーーーー

もう、ふさえには時間がない。黄金の文献に記されている事が本当だとすると、記憶を取り戻し始めたという事は、死期が迫っている。黄金のオーラは、その力を使えば使うほど、引き換えに記憶を失う。しかしその不幸を取り戻すかのように、いや嘲笑うかのように、死の間際、記憶が蘇るというのだ。
全てを話そう。桃太郎はきっと受け止め切れないだろう。今も目の前のふさえに必死でひしゃげた枝豆を食べさせようとしている。しかし、桃太郎が落ち着くのを待ってはいられない。私は決心した。

「ふさえ、桃太郎。お前達に話さなければいけない事がある。ワシは、実はこの星の人間ではない。いや、正確にはこの世界の人間ではない。ワシはこの「ツクウ」とよく似た星「地球」からやってきた、別の次元の人間なんじゃ。」

私の一大決心の一言を、ふさえも桃太郎も何も聞いていない。いや、聞こえていない。なんなら仲良くひしゃげた枝豆を食べようとしている。どうしよう、続けようか…、それともこのまま親子水入らずで枝豆を一緒に仲良く食べようか…。いやそんな事はできない。何人か、部下達も見ている。常日頃、それなりに威厳を醸し出し、「組織内上司にしたい男ランキング第二位」であるこの私が、部下の前で、そんなアットホームな姿を晒すことなんてできない。
…お、枝豆を食べて少し落ち着いたようだ。こちらに興味を持ち始めている。よしこのまま続けよう。

「ごほん。ワシは、とある実験の失敗により、次元の間に迷い込み、この「ツクウ」にたどり着いた。計算上、他の次元が存在する事は立証されていた。しかし、本当に別次元に迷い込んでしまうとは夢にも思わなかった。ワシはこの世界で一人ぼっちだった…しかしそのまま死ぬわけにはいかん。元の世界に戻るためには、新たに研究、開発するための資金がいる。まずはこの世界で…あー、もうめんどくさい。もう時間ないし、やだ!一から話すのヤダ!長くなるし!しかもやっぱ全然聞いてないじゃん。桃太郎聞いてないじゃん!寝てるじゃん!何疲れた?そうだよねぇ。疲れるよねぇ。なんかいきなり自分のクローンいっぱい見ちゃって、心が疲れちゃうよねぇ。起きろー!起きろー!こっから大変だぞ!今、話聞いとかないと大変なことになるぞ!!!」

真剣に話をしようとする私を尻目に、桃太郎はふさえに甘え、母のぬくもりの中で眠ろうとしていた。

「起きてぇ、ねぇお願いだから起きてぇ。ふさえ、もう直ぐ死んじゃうから。時間がないのよ。その前にちゃんと話しとかないと、いろいろ大変だからぁ。ね?はい。起きた?ん?起きた。よしよし、ね。眠いけどね。どうにか聞いててね〜。
はい!まずは黄金のオーラについてですが、桃太郎、君も使えます!正確には使えるようになります!ね〜ビックリしたね〜。普通に遺伝で引き継がれます!でも黄金のオーラ使いすぎると記憶もなくなっちゃうし、死んじゃいます!大変!
はい!そこで問題なのが、なぜ黄金のオーラが必要なのかということです。記憶とか死んじゃうとか、別に黄金のオーラ使わなかったらいいだけじゃないの〜?っていう方いると思います。でもね、必要なんです。なぜかと言うと、今、この世界は、私が元いた星「地球」に狙われているからです!…はい、ついてきてついてきて。ピンとこない人たくさんいると思いますが、ついてきてね〜。
私がいた地球、組織の方に3年前、次元を超えてアクセスしてきました!地球は今、環境問題とか人口増加とかまあいろんな問題が起こっていて、最悪の状態です。戦争も起こってます!もうニッチもサッチもいきません!カオス!
なので、地球で選んだ優秀な人たちだけで、この「ツクウ」に移動して乗っ取ろうとしているそうです!大変です!「ツクウ」ピンチ!
でもね、私この星大好きなんですよ。ふさえがいるし、みんなチヤホヤしてくれるし、ふさえがいるし。今のこの「ツクウ」を壊したくないんです!で、どうしよかな〜って考えたんですけど、ふさえの実家にね、ある日帰っているときに、たまたま、本当にたまたま、桃太郎くん、君が持ち出した黄金の文献を見つけてしまったんですね〜。
いやあビックリしました。そういうファンタジー的な要素がこっちの世界にはあるんだなと、本当に驚きました。じゃあ、この黄金のオーラがあればなんとかなるんじゃないかと私、考えたんですね〜。でもね。ふさえ死んじゃうかもでしょ。だからです。桃太郎くん、君になんとかしてもらおうと思ったんです。ねぇ。君にこの世界を救ってもらおうと、僕とふさえの幸せを守ってもらおうと、私、考えたわけです。しかもですよ、君のクローンを作って黄金のオーラを使える人を増やせば、もう確実でしょ!もうね、ホント、保険に保険を重ねるために、頑張って、クローン技術も作りました!そうです!3年間ふさえの元を離れていたのにはこういうわけがあります!
ちなみに桃太郎くん、君の名前は、私の元いた星「地球」の英雄から取っています!やったね!
でもね、まあまだ色々問題があるわけですよ、ねぇ。クローンの制御もうまくいかないし、そもそも桃太郎の黄金のオーラは目覚めてないし…全然僕の話聞いてくれてないし…。という事で問題山積みなんですが、まだまだこれから頑張るぞー!という感じなのでした!」

思いの丈を話した。思ったより話した。勢い余って結構話してしまった。
ふさえが死ぬとか言ってしまった。大丈夫だろうか。
私は恐る恐る、ふさえの方に目を向けた。

↓以下、世界線の選択になります↓

1.すると、ふさえは自分の死を受け入れたかのような、まるで女神のような笑顔で私にこう告げた。
「そうか、私死ぬんか…。じゃったら、ええやないの。私が戦ったらええやないの。桃太郎に戦わせる事ない。ワタシ、戦うわ。」
その透き通った眼差しは、その笑顔には丸で似つかわしくない涙で濡れていた。

2.その時だった。強烈な爆風に飲まれたかと思うと、大量の桃太郎のクローンが壁を壊して押し寄せてきていた。
「バックスめ、しくじったか」
瞬間、一人の桃太郎が、まだウトウトしているこっちの桃太郎に襲いかかる!
ドグシュゥ!!鈍い肉の音がする。呆然と見ていた目の前には、エドワーズが、まるで弁慶のように微動だにせず立ちはだかっていた。

3.「ぐーぐーぐー」
寝ている!何も聞いてない!よ、よかった。一先ずふさえには聞かれていなかった!桃太郎と一緒に仲睦まじく、すやすや寝ている。そっと胸を撫で下ろしたその時
「その話は本当か?」
目を向けると、エドワーズがこちらに水鉄砲を構え、怒りに満ちた眼差しをこちらに向けていた。

番組内ではリスナーさんの投票で「2番」の世界線が選ばれました。第十話は「2番」の世界線で物語が続きます。

放送業界を夢見る相方「AD.TAKEDA」と楽しくおしゃべりの時間「夜のすっぽナイト」は毎週木曜日22時からツイキャスにて生配信中!!


いいなと思ったら応援しよう!

立花裕介
ほんの少しでもお力をいただけると、嬉しいです。 より明日に、未来に向かって歩を進めることができます スキ、サポート、心が動いた分だけ、どうぞよろしくお願いいたします。