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【すっぽんノベル】 「桃太郎」第六話

writen:AD.TAKEDA

「目覚められましたか。ご苦労様でした、エドワーズさん」

そうか、ワシは回収されたんか。ヤツらから守るはずじゃったふさえに命を助けられ、しかも力を目覚めさせてしまうとは、ワシも焼きが回ったもんじゃのう…。

「そうじゃ、、ふさ…ふさえは、無事なんか?」

「大丈夫ですよ。隣の部屋でゆっくりおやすみになっています」

女性のその言葉を聞くと、エドワーズは、少し安心したように、ゆっくりと目をつぶり、ふと、ふさえと出会った冬のことを思い出していた。

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その日は、深い雪が積もっていた。この街では30年ぶりだそうだ。慣れない雪に戸惑いながらも、転ばぬように慎重に歩をすすめていると、小さな公園にたどり着いた。

「くそっ、手がかりひとつ見つからんのぉ…」

エドワーズは、焦っていた。この国の危機を救う可能性があるとすれば、ただ一つ。古くから伝わる“伝記”に記されている森羅万象(しんらばんしょう)に宿るエネルギーを操ることができる人物を探すことだけ。それが、組織から、エドワーズに課された任務だった。

「そんな人間が本当にいるのか...」

正直なところ、エドワーズは信じていなかった。いつ書かれたかわからない書物のまさに“伝説上“の話、そんなパワーを持った人間がいるはずがない。探すといっても頼りとなるのは、組織から渡されたこの親指サイズの小さな精密機器。不思議なエネルギーに近付くと反応し、赤いランプが点滅するという仕組みだ。その人物に2メートル以内に近づかないと反応しないため、その精密機器には、身を守るための「緊急スイッチ」がついている。押せば、その不思議な力を半減させることができるという。

「はぁ…」

白い息を吐きながら、雪を払って公園のベンチに腰掛けたそのとき、突如として、手に持っていた機器の赤いランプが点滅したのだった。

「うそじゃろ…」

一気に脈があがるエドワーズ。周りを見渡す。公園には、雪だるまを作って遊んでいる子どもが2人。ハトに餌をやっている初老の女性。さらに、タンクトップ姿の筋肉質の男が懸垂をしながら、「ウッ、ウッ」と声を出している。この男だ!こういったときの直感は、頼りになる。エドワーズはその男に駆け寄った。

「おい…、お前。やっと見つけたぞ、お前こっちに来い」

「ん?」

タンクトップの男は、急に声をかけられて、イラっとしている。エドワーズは、ここぞとばかりに畳み掛けようとする。伝説のパワーがどれほどのものなのか、怖さはあるが、オレは高校時代は、柔道部だ。少しはタチウチできるもはずだ。万が一に備え、「緊急スイッチ」にも手をかけた。

「あ、あれ…?」

さきほどエネルギーに反応したはずの赤いランプが点滅していない…。なぜ。うそだろ、じゃあ、こいつじゃない。どうしよう、筋肉自慢の変な男に喧嘩を売った形になっている。柔道部だったが、ほとんど稽古はサボっていたんだった。まずい。勝てるわけがない。お前って言っちゃった。

「お前、、オーまい(お前)…フレンド、、そうそう、Oh My Friend!それ、さ、さむくないんすか?」

とかなんとか言って、その場を離れた。危なかった。しかし、なぜ点滅しなくなったんだろうか。故障だろうか…そう思ったその時、また赤いランプが点滅しているのに気がつく。

「雪で、うまくあるけんのぉ...」

後ろには、腰が少し曲がったおばあさんがいた。

「まさか、このばあさんが…」

生唾を飲み込み、声をかけようとしたエドワーズだが、なかなか言葉が出てこない。正直に言おう。エドワーズは、女性恐怖症だった。高校も男子校だ。男子校の柔道部だ。女性という女性とゆっくり喋ったことがなかった。
ただ努力はした。これまで、女性恐怖症を克服するためにあらゆる本を読破していた。その中でもバイブルとしてあがめている『ナオンの口説き方』という本の文面を頭の中で思い出していた。優しい男がモテる。方言がモテる。外人がモテる。歳上の男がモテる。たしかそんなことが書いてあった。いろんなことを考えた上で、ようやく声を絞り出した。

「ゆ、雪は、慣れてねぇと、危ないけぇのぉ。…わしゃ、エドワーズじゃ。少し歳上じゃ」

これが2人の出会いだった。

「まぁ、素敵!」

そこから2人が恋に落ちるのに時間はかからなかった。組織のこと、不思議なパワーのこと、エドワーズとして生きること、すべてこの女性にはだまっておき、エドワーズは初めての恋を楽しもうと決めたのだった。
と、思い出に浸っていたエドワーズは、ある一言によって強引に現実に戻されたのだった。

↓以下、世界線の選択になります↓

1、「そうじゃったのかーー...」ふさえの声だった。隣の部屋から声がもれてきている。「わしゃ、どうかしとった...、全部思い出したわ...。あたしにゃ、息子がおるんよ。名前は、、桃太郎じゃ。」

2、「ふさえからは身を引いてもらう」いつのまにか部屋にいた新しいおじいさんは、明らかに敵対するトーンで続けた。「おぬしに、ふさえは扱えんよ、ワシに任せなさい」と言いながら、部屋を出ていくと、金具で拘束されたエドワーズから“黄金のオーラ”が漂いはじめた。

3、「もうこんなに元気になってますよ」そばにいた女性の声でスイッチが入ったエドワーズは、急にトーンを変えて「...最近は薬の力などいらんけんのぉ」と言い放つと、女性を強引に抱き寄せた。

番組内ではリスナーさんの投票で「1番」の世界線が選ばれました。第七話は「1番」の世界線で物語が続きます。

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立花裕介
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