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【すっぽんノベル】 「純喫茶チルドレン」 第5話 〜手描き地図の正体〜

第5話 〜手描き地図の正体

writen by AD.TAKEDA

「いいか、誰にも言うなよ」

 兄はチチカカの服を着た、初老の女性に2000円札を渡した。初老の女性はニヤリと笑い、兄に地図を渡した。

「これで、本当にあそこに行けるんだろうな?!」

 そういうと、兄は、初老の女性の手から地図を奪うと、その場を離れながらこう言った。

「義男、お前もついて来い!!」

 驚いた義男は、「いや、風俗へ行くという一大決心が、、、」と一瞬、戸惑ったが、正義感あふれる兄の勢いに負けた。兄についていけば、どこかで間違ってしまったこの人生の軌道修正をしてくれるんじゃないか。そう確信し、風になびく「弾丸」の背中についていった。

「...れで、...っと...ごにょごにょごにょ」

 初老の女性が何かをつぶやいたが、消防車のサイレンの音にかき消され、兄弟2人には、届かなかった。

 義男の兄・吉正義(よしまさよし)。正義とかいてまさよしと読む。その名の通り、昔から、間違っていると思ったことを許すことができない性格で、そのまま放っておくことなく、自分なりの哲学で全て解決してきた。やたら滑りのいい滑り台は、「滑りの悪い滑り台など、もはや滑り台ではない!」という兄の正義感で、とにかくワックスを塗りたくった結果、そうなった。
 そんな兄は、頼りない弟・義男の手を引いては、常に、人生の道しるべとなってくれていた。
 あの時だってそうだ...。いや、思い出話は、怒られるから、また別の機会にしておこう。

「兄ちゃん、ちょっと待ってくれよ」

 肩で息をしながら走る義男は、前を行く「弾丸」の背中に声をかけた

「お前とこんなところで会うとはな。元気だったか?お前も欲しかったんだろ?この地図」

 そう言いながら、兄は初老のババアから受け取った地図をもう一度、眺めた。ざら半紙のような、いかにも安そうな紙に、鉛筆書きで描かれた地図。

「これが純喫茶チルドレンへとつながる...」

 ようやく手に入れた。左端あたりに赤ペンでマルが書かれていた。この赤マルが純喫茶チルドレンを示す印なのか。2人してのぞき込む。道路の線はまっすぐではなく、まるで子供が裏紙に手描きで書いたような地図だ。

「ここが堤防で、、ここが街につながる道か...」

 義男はそう言うと、自宅周辺の地図であることに気が付いた。ところどころ、「T」のアルファベットとその横にマルとバツが描かれている。

「おい、義男、これ見てみろよ」

 兄に言われ目を凝らしてみると、そこには、特徴のある丸文字で「じたく」と書かれてあった。

「これ、、、僕の字じゃないか」

 義男は、心底驚いた。それはブリットちゃんに対応するため作成したハザードマップだったのだ。ハザードマップは義男が小学生のころから4年に一度ペースで、書き直しているのだが、なぜこれがいまここにあるのか。

「兄ちゃん、、これ僕が描いた地図だ、、随分、昔のだけど、、、」
「お前、あの場所を知っているのか?!」
「知らないよ!僕が描いた地図には、赤いマルなんて描いてなかったはずだ、誰かが付け足したんだよ、一体誰が、、、そんなことありえないよ」

 地図を裏返してみると、それは中学時代の国語のテスト用紙だった。このテストは、よく覚えている。引っ込み思案の義男が自ら、先生に対して物申した時のやつだ。

 「先生!あ、あのぉ、、と、問6が、2個あるんですけど...?」

 我ながら会心の指摘だった。
 問6の次は、問7であるはずなのに、問6が2個あるなんて、、正義感あふれる兄とは、やっぱり兄弟だと思った瞬間だった。

 そんなことを思い出していると、、兄の声がワントーンうわづった声で

「そうか!!やはりじゃあ、これは。義男、早く行くぞ!」

 義男も負けてはいない。

「でも、兄ちゃん。これ、みてくれよ、このTのアルファベットは、トイレの位置。その横のマルとバツは、そのトイレにちり紙があるかどうかまで描いてあるんだ、よくできてるだろ?」

 少年のような義男を尻目に、その横で兄まさよしもまた、少年の目をしていた。

 自宅アパートのある路地から、少し離れた町工場が並ぶ場所に、その赤マルはあった。

「こんなところに、、店があったのか」

 錆びついた鉄の格子と、その奥にみえるオレンジ色の裸電球。まさに純喫茶だ。兄弟はついにその扉に手をかけた。

世界線の選択

① 中に入ろうとしたその時、ある男に呼び止められた。「おい!よくもまぁノコノコ俺の前に現れたな」兄貴の顔が恐怖におののくのがわかった。

② 中には、先ほど地図を渡してくれた初老の女性が待っていた。チチカカの服は、どこか見覚えのあるかっぽう着に変わっていた。

③ その扉は開かなかった。それもそのはず、扉には閉店を知らせる張り紙があり、よく見ると、20年も前の日付だった。

番組内ではリスナーさんの投票で「③」の世界線が選ばれました。第3話は「③」の世界線で物語が続きます。

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放送業界を夢見る相方「AD.TAKEDA」と、劇団「彗星マジック」の作家、演出家である「勝山修平」が時折やってくる楽しいおしゃべり配信「夜のすっぽナイト」は毎週金曜日22時からツイキャスにて生配信中!!


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立花裕介
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