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【すっぽんノベル】「桃太郎」第十一話
writen:立花裕介
『びーびーびーびー』
耳を刺すような電車音が響いた。この音は、久しぶりだ。元いた星「地球」からの連絡だった。
「...左之助、左之助、聞こえておるか。我々はようやくそちらの星への到着できそうだ。聞こえておるか。準備はよいか」
古い爺さんは、静かにこう答えた。
「準備は...、できております」
襲いかかってくるクローン達を目の前にしながら、左之助と呼ばれた古いお爺さんは静かに笑みを浮かべている。なんというタイミングだ。全くもって手立てがなくなったと思った矢先だった。まさか今連絡が入ってくるとは。完全に黄金のオーラが覚醒していないこのクローン達になら、地球軍の力でも太刀打ちできるはずだ。きっとどちらもただでは済まないだろう。どちらか残った方も戦力を激減させているはずだ。そこを叩けば、なんとかなる。ついでにエドワーズをそのイザコザに巻き込んでしまえばいい。
古いお爺さんは、言葉を続けた。
「今から指定する座標に荷電粒子砲を打ち込んでください。そうすれば、ツクウの勢力を一気に減らすことができます!座標は108.92.505.32。」
「わかった。到着と同時にフルパワーで打ち込む。巻き込まれぬようにな。」
通信は一方的に途絶えた。どうやら地球の方も焦っているようだ。
「まずはふさえじゃ…。」
死期が迫っているとはいえ、ふさえを巻き込むなんてできるはずがない。どうにかふさえを近くに連れておきたいところだが、桃太郎がベッタリだ。まとめて二人を連れて動こうにも、老いた自分一人では難しい。かといって黒服達も応戦中で動くことはできないだろう。こうなったら、アレを使うしかない。未だ実験段階だが、そんなことは言ってられない
「プール入る前のめっちゃ冷たい水って、やっぱり入らないとダメかな!?」
古いお爺さんが叫ぶと、どこからともなく轟音が鳴り響き、次の瞬間3つの黒い影が古いお爺さんを取り囲んだ。それは犬、猿、キジの姿をしているが全身はメタリックな外角に覆われている。しかし無機質な機械に見えるが、各々は呼吸をしているような動きを見せている。
「行けぃ!」
合図と共に、猿を背中に乗せた犬が、一瞬でふさえ達に近寄ったかと思うと、猿が二人を両手で掴み、軽々と空中へ放り投げる。それを見ていたキジが見事にキャッチ。一瞬で二人を古いお爺さんの元へ連れて行ってしまった。
「よし、なんとか思うように動いておる。」
ふさえも桃太郎も何が起こったのか理解できず呆然としている。
3体も既にこちらに帰ってきている。この調子でこの場所から離脱しようと思ったその時、頭上から甲高い電子音のようなものが聞こえた。
「もう着いたのか!」
轟音と共に建物に衝撃が走り、地響きと共に天井が溶けていく。
「なんとか持ち堪えてくれ!」
地球にいた頃より、はるかに威力があがっていると予想していた荷電粒子砲に備えて開発させた装甲は、ギリギリ天井のみを溶かす程度にとどまり、その大きく開いた穴の向こうには、無数の空飛ぶ戦艦が浮かんでいる。
「さあクローン達よ、お前達の敵はあいつらだ!」
経験したことのない高温と衝撃の中、命の危険を感じた桃太郎のクローン達は、古いお爺さんの思惑どおり攻撃目標を地球軍に変え、黄金のオーラを身に纏いながら、空を浮かび、戦艦に向かっていく。
空を飛びこちらに向かってくる同じ顔をした無数の人間達に、ただならぬ気配を感じた地球軍は、当然クローン達を攻撃。
その攻撃で息たえるもの。
その攻撃をかいくぐり戦艦に攻撃するもの。
黄金のオーラの攻撃に耐えきれず落ちていく戦艦。
その戦艦に巻き込まれ、死んでいくクローン達。
幸い、荷電粒子砲はエネルギーが溜まるまで撃てない。
クローンと地球軍は一進一退の攻防を繰り広げるのだった。
「謀ったな!左之助!」
舞台は一気に地獄絵図となった。
「そうだ、戦え!もっと!もっとだ!」
思い描いたシナリオ通りに事が運ぶ様を見の前にして、古いお爺さんは興奮を隠せなかった。思えば、何もかも思い通りにはならなかった。地球での実験は失敗し、何もかもを失った。必死の思いで作り上げた地位を捨てでも幸せにしたいと思っていたふさえには、見向きもされなくなってしまった。クローン達も制御できないまま野に放たれ、全てを好転させてくれるはずだった息子桃太郎も今や当てにならない。
今、目の前で起こっている事は現実なんだろうか。それとも夢を見ているのだろうか。私は何のために生き、今なぜここに立っているのだろうか。
思い通りに事が運ぶ戦場を目の前にしながら、心を空虚に飲まれそうになった、その時だった。
プスン。
身体にかすかな感覚が走った。何かが通り抜けたような、いや、なにかの錯覚かもしれない。そんな薄っすらとした捉え難い感覚だ。
足元を見ると、地面は真っ赤に染まっている。そのまま視線を体の方へやると、左胸から赤い液体が止めどなく溢れていた。何が起こったんだ?
顔を上げると、エドワーズが倒れ込んだままの体勢で、水鉄砲だけをこちらに向けていたまま、何かを言おうとしている。
「すいません、あんたじゃふさえは幸せにはできません。ああ…桃太郎に、ちゃんと、受け身を教えておけば、よかったなぁ…」
あまりにも小さな声で、何を言ったのかは聞き取れなかった。
銃口はこちらを向いたまま、力なく地面に落ちた。
「もっと早く、こうなっておけばよかったのかもしれないな…」
薄れゆく意識の中、古いお爺さんの身体は力なく後ろへと倒れてゆく。
…ゴン!
「イッタぁ!」
後頭部を強打した。
「ボス!生きてるんですか?」
声を聞きつけ、阿鼻叫喚と化した戦場の中からバックスが近づいてくるのが見えた。
クローンが攻撃目標を変えたことで、なんとか生き残ったのだ。しかしバックスも相当のダメージを負っている。足を引き摺りながら、やっとのことで古いおじいさんの元にたどり着いた。
「ボス…」
「ふさえを、ふさえの残された時間を、どうか、静かに…」
古いお爺さんはそう言うと静かに目を閉じた。
「静かに…、静かになんだってんだ?!ボス!ボス!わかんないっすよ!静かにだけじゃ、わかんないっすよ!」
バックスは、本当にわからなかった。ちゃんと言ってもらわないとわからないタチなのだ。どうしたいいんだ?静かに…なんだ?何をすればいいんだ。静かに見ていればいいのか?それとも眠ってればいいのか?まさか、ご飯を食べるわけじゃないだろう?ああ!わからない!
バックスがパニックになっていると、戦いも終盤に差し掛かっている空から声が聞こえてきた。
「左之助!今から二発目の荷電粒子砲を撃つ。貴様の思うようにはさせん!」
左之助?左之助って誰だ?そんなやつ組織にいたか?てか家電なんちゃらってなんだ?ヤバイやつ?さっきのやつ?ちょっとダメだって!わからんけど、多分ダメたって!とりあえず、ふさえさんだ!ふさえさんを守らないと!そうか!静かにってのは、静かに守れってことか!!
気づいた時には遅かった。轟音と共に放たれた荷電粒子砲は、一気に辺り一帯を焼き尽くた。わずかに残っていたクローン達もその餌食となり、一人も残っていない。戦場には、地球軍の主力である一隻を残し、全てを無に返したかのように見えた。
しかし、そこに一人、立っているものがいた。
涙を流し、拳を震わせ、両足でしっかりと大地を踏んでいる。
その拳の隙間からは、わずかに黄金のオーラが目覚め始めている。
桃太郎だ。
足元には、最後の力を使い果たし横たわるお婆さんの姿が。
「母さん…」
そう、彼は荷電粒子砲の炎の中、母の黄金の温もりに包まれ、一命を取り留めた。
今目覚めたばかりの黄金のオーラは、一瞬で全身を包み、彼に底知れぬ力を与えた。
「まだ生き残っているやつがいる!射て!集中砲火だ!」
次の瞬間、桃太郎の身体は飛び上がり、戦艦のエンジンを貫いていた。
エネルギーが暴走し、一気に爆発する地球軍の主力艦。
桃太郎はゆっくり大地に降り立つと、母の亡骸を静かに抱きしめるのであった。
↓以下、世界線の選択になります↓
1、あれから3年…
2、あれから50年…
3、あれから一万年と二千年…
最終話は「1番」の世界線をTAKEDAが、「3番」の世界線を立花が書きます!
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