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【すっぽんノベル】「桃太郎」第八話
writen:AD.TAKEDA
「早速だが、君の兄弟を紹介しよう」
父と思わしき人物が部屋の明かりをつけると、そこには僕と同じ顔をした人間が無数に浮いている、とてつもなく巨大な水槽が現れた。父としての愛情を示そうとしているのか、これからわかる事実についての衝撃を和らげようとしているのか、父と思しき人物・古いおじいさんは、にこやかな表情を見せた。
「どうだ。びっくりしただろう。これが組織の全てと言ってもいい」
今まで、どうやって声を出していたのか忘れてしまったかのように、まったく声が出ない。頭が真っ白になるというのはこういうことなのか。目の前が真っ黒になるというのはこういうことなのか。父と思しき人物を前に、理由もなく涙が止まらなくなった。
「桃太郎...。わかっておるとは思うが、お前は、ワシの息子じゃ。今まで放っておいてすまなかったな」
まったく耳に入ってこない。目の前にいる老人のことはどうでもいい。この水槽はなんだ?なぜに僕と同じ顔をした人間がこんなにもたくさん…結構イケメンじゃん。あ、僕の顔か。
古いおじいさんは続けた。
「驚くのも無理はない。なにせワシのこともよくわからんだろう。組織がこの世界を新しいものに変えようとしていることも、何も知らずに飛び出していったからのう、、息子がいなくなってもワシが焦らなかったのは、こいつらがおったからじゃ」
まったく耳に入ってこない。目の前にいるジジイのことはどうでもいい。
少しずつ冷静さを取り戻しているが、状況を理解するにはまだ時間が足りなかった。水槽の中なのに、なぜこいつらは服を着ているんだ。そういや、着衣水泳って小学校でやったっけな...。あれ、なんのため?
「こいつらは、お前の遺伝子型をそのまま利用したクローン。お前の頭脳がどうしても欲しくてな。こんなもんいくつあってもいいですからねぇ。...さて、組織から持ち去った文献を返してもらおうか。黄金の文献をな...」
まったく耳に入ってこない。着衣水泳のことばかり考えていた。僕は昔から泳ぐのが苦手だった。その上、服に水を含んで、体がどんどん動かなくなる。この授業、なんのため?ずっと思っていた。
頼りになるのはビート板だけだった。ただ、学校のビート板を見るたびに思うことはある。
何の反応もない桃太郎に少々苛立ち、古いおじいさんは声を荒らげ、さけんだ。
「おい…なんとか言ったらどうだ…おい!桃太郎!」
その声におどろいた桃太郎は思わず口を開いた。
「ビート板、噛むなよ!!」
我にかえる桃太郎。冷静になれ。何を言っているんだ。頭の中と現実が入り混じる。たしかに学校のビート板には歯形が残っていた。
誰が噛んでいるんだ。噛むと、味でも出てくるのか?あれ、なんのため?
いや、今はそんなことどうでもいい。これほどまでに混乱したことがあっただろうか。
「な、、な、、なぜその言葉を…?」
おかしい、、古いおじいさんの方が明らかに動揺していた。
すると、桃太郎の声に反応した大型水槽は、「了解しました」という電子音を発し、水槽の水を排出しだしたのだった。
「お、お前…。なぜその言葉を知っている?ワシしか知らんはずだ」
どうやら何かの合言葉を設定していたらしい。
「え?何?なにこれ?なにが?マジ知らんっすよ」
桃太郎もなにが起きたのかわからない。
とにかくあっという間に水槽の水は無くなり、クローンと言っていた無数の僕が、ぐったりと床に倒れ込んでいた。
いくつかの僕は、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
「い、いかん!まだいかんのじゃ...」
焦る老人を尻目に、僕は、起き上がろうとしている僕に腰のポケットに入っていた大好きな「おいしい枝豆」を一粒ずつ与えた。
このクローンの僕は、敵か味方かそれすらわからなかった。
クローンとはいえ僕だ。見捨てることなどできなかった。
↓以下、世界線の選択になります↓
1、おいしい枝豆を食べたクローンの一体が立ち上がり、桃太郎に襲いかかった。敵だったのか。その瞬間、レーザービームのように後ろから飛んで来た水を顔に受けたクローンが、仰向けに倒れた。ふりかえると、水鉄砲を持ったバックスがそこには立っていた。
2、「正(ただし)さん!!何しよるとね!」
甲高い声がひびく。足元に倒れる桃太郎を抱きしめ、
「はっ、桃太郎!桃太郎だね!母さんだよ」
すべてを思い出したふさえは、愛する息子を抱きしめ、黄金のオーラを身にまとっていた。
3、クローンは、枝豆を飲み込むと、もう1つくれという表情を見せながらこう叫んだ!
「ワン!わん!」
その姿がどんどんと犬へと変わっていた。
番組内ではリスナーさんの投票で「1番」の世界線が選ばれました。第九話は「1番」の世界線で物語が続きます。
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