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【すっぽんノベル】 「純喫茶チルドレン」 第4話 〜炎と家族とテレホンカード〜

第4話 〜炎と家族とテレホンカード〜

writen by 勝山修平

「あ〜〜!!なんで繋がらないんだよ!」

 大きな叫び声に思わず目をやると、そこには「弾丸」と大きく書かれた皮ジャンを着ている痩せこけたチャラ男が立っていた。
 義男は驚いた。驚く事が3つあり、その何に驚いているのかわからなくなりさらに驚いた。

 まずひとつめの驚き。それは勿論、「弾丸」と大きく書かれた皮ジャンを着ている痩せこけたチャラ男が目の前に居るからだ。都市伝説にうたわれた、純喫茶チルドレンへと続く可能性のひとつがそこに居る。
 ここで義男がチャラ男にテレホンカードを渡すと、きっと携帯電話に折り返しの電話が来て、純喫茶チルドレンへの行き方を教えてくれるのだろう。しかしそれどころではない。

 ふたつめの驚き。それは勿論、「弾丸」と大きく書かれた皮ジャンを着ている痩せこけたチャラ男はどう見ても、成人式の前日に、「俺は大人になりたくねぇんだよ」と、ルシファーズハンマーと名付けていた原付で家を飛び出しそれっきりになっている義男の兄貴だったからだ。しかしそれどころではない。

 みっつめの驚き。それは勿論、「人妻ファッションヘルス・絆ドッキュン」が炎上しているからだ。SNS的によく使われる比喩的な意味ではない。物理的に、風俗店が入っているテナントビルの、窓という窓から黒い煙が吹き出ているのだ。
 つまり、「弾丸」と大きく書かれた皮ジャンを着ている痩せこけたチャラ男は、義男の兄は、「人妻ファッションヘルス・絆ドッキュン」が入っているテナントビルの火事を消防に知らせるために携帯電話を出していたのだ。

 十数年ぶりの兄は、変わらず正義感の塊だった。
 自慢のにいちゃんだ。
 炎上するビルを背に、携帯に向かって叫び続ける姿なんて完全にGRAYのPVだ。そんなPVがあるのかなんて知らないけれど。
 心の中で義男は歌う。♪ふいに心奪った瞬間のそのときめきよりも眩しいほどに…

「いつか出逢う! 夢の中! Oh! 心のままに! 待ちこがれていた、あなたをこうしてuh…」

 もう口に出して歌う義男。炎上するビル。携帯に向かって叫び続ける痩せこけたチャラ男。
 それらを携帯のカメラで撮影する群衆。
 通り過ぎる人々。
 消防にではなく、知人に連絡をする若者。
 SNSに投稿をはじめる携帯中毒者。
 このままではいけない。炎上しているビルもそうだが、社会そのものがいけない。義男は目覚めた。
 夢から目が覚めたのだ。夢から目がさめる時というのは、夢を叶える時とならなければいけない。そして夢はひとつだけじゃなくていい。すべての夢を叶えるのだ。義男は天啓を得た気分だった。テナントビルは炎上を続けている。
 まずは兄にテレホンカードを渡す。これで義男は純喫茶チルドレンへと行く事ができる。夢が叶うのだ。
 そして炎上しているテナントビルを助けた義男の兄の名バイプレイヤーとして英雄となる。もしかしたら表彰されるかもしれない。警察長官とか、消防長官とか、市長とか、そういう人に。
 家族も喜んでくれるだろう。兄だって見つけたのだ。お手柄なんてものじゃない。大手柄だ。勿論、テナントビルを救ったことで「人妻ファッションヘルス・絆ドッキュン」で働いているはしたない女たちは義男に感謝するだろう。兄と一緒に酒池肉林だ。お金はきっと女たちのボスが出してくれるだろうけれど、店が焼けちまってるしな。百万円持っているしな。俺が出してやってもいいかな。エッチしながらフレッシュネスバーガーを頬張ってやる。義男はフレッシュネスバーガーをハンバーガーの最上位と思い込んでいる。
 義男は素早く財布からテレホンカードを取り出し、痩せこけたチャラ男である兄に向かって走り寄り、「兄ちゃんこれを使って!」とテレホンカードを手に押し付けた。

「義男!?」

 驚く兄。力強く頷く義男。押し付けれたカードを凝視し、兄は激高した。

「お前これ、クオカードじゃねぇか!」
「お前これ、クオカードじゃねぇか!」

 兄は義男を殴りつけた。倒れ込んだ勢いでそのまま丸まる義男。の、背中を殴り続けながら、兄は叫んだ。

「お前! これ! クオカードじゃねぇか! 普通は! テレホンカードだろ! ていうか! どこにあんだよ公衆電話! 携帯電話を貸せよ! ていうか! お前が電話をかけろよ! 何でお前はそうなんだよ! 何で! 何で…」

 泣き崩れる兄。兄の人生に何があったのかはわからない。けれどアラフォーでこんなに痩せている上に皮ジャンを着て「弾丸」と書かれたTシャツを着ているのだ、きっと壮絶な人生を送ってきたにちがいない…。痛みと虚しさで、義男の胸はキュッと締め付けられた。

 サイレンの音が聞こえて来る。消防車が来たのだ。誰かが通報したのだろうか。だとすれば、汚れた日本もまだまだ捨てたもんじゃねぇな、そうだろ? 神様。義男は心の中でそう神様に語りかけた。義男は時々神様に語りかける。

 兄はいつの間にか義男から離れ、女性の肩を強くつかんで何やら話し込んでいる。女性の肩をあんなに強く掴むなんて。
 義男は義憤に駆られるも、殴られる恐怖が勝っているので兄と女性の会話に耳を傾けることにした。そこから聞こえてきた内容は、

世界線の選択

① 「アイコ! 何で火をつけたんだよ!」兄の問いかけに、アイコは答える。「純喫茶チルドレンへの道が開くって聞いたから」

② 「アイコ! 大丈夫か? 犯人は見たか?」兄の問いかけに、「その人が…」アイコは義男を指差し答えた。

③ 「いいか、誰にも言うなよ」兄はチチカカの服を着た、初老の女性に2000円札を渡した。初老の女性はニヤリと笑い、兄に地図を渡した。

番組内ではリスナーさんの投票で「③」の世界線が選ばれました。第3話は「③」の世界線で物語が続きます。

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放送業界を夢見る相方「AD.TAKEDA」と、劇団「彗星マジック」の作家、演出家である「勝山修平」が時折やってくる楽しいおしゃべり配信「夜のすっぽナイト」は毎週金曜日22時からツイキャスにて生配信中!!


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立花裕介
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