見出し画像

#17【映画】哀愁?狂気!?【哀愁しんでれら】レビュー&考察!!

今回は、主演の土屋太鳳さんが3度も出演を断ったという壮絶サスペンス【哀愁しんでれら】を映画素人大学生の僕がレビューしていこうと思います!!

あらすじ

児童相談所で働く主人公”小春”は祖父と父と妹と4人で暮らしている。平凡な日常を過ごしているある夜、一夜にして小春に怒涛の不幸が襲い掛かる。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

心も体も疲弊しきったその時、ある男”大悟”に出会う。彼は開業医として働き、男手ひとつで8歳の娘”ヒカリ”を育てていた。すべてを失った”小春”の前に現れた裕福で優しい白馬の王子様”大悟”。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

まさにシンデレラストーリーかに思えた小春の人生だったが、しかし、その先には想像もつかない展開が待ち受ける、、、

ネタバレなし感想

率直な感想として、とても面白かったです!!そして、この映画は世に出していいのだろうか(理由は一番最後に)と思いました!

血も出ない!グロい描写も一切ない!なのにえげつない!!そんな映画でした!この作品は俳優陣、特に子役陣の演技がとてもよかったですね。特に話題にもなったcocoちゃん!かわいらしいのに本当に嫌な女の子で本当に嫌いになりました(いい意味で(笑))

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

家族4人で可もなく不可もないような生活をしていた小春が突然「もうやめてあげて(笑)」と思うぐらいの不幸に会い、またまた突然、白馬に乗った王子様のようなイケメン大悟と出会い、プロポーズされ、という怒涛の展開は最高でした!さらに、そんな展開からは信じられないような結末に繋がる、小春の心の変化や見えていなかった大悟の秘密など約2時間ずっと面白かったです!

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

すべての人間が奥底に持つ恐ろしい部分とか夢中になるうちに歪んでいく精神とか、そういった潜在的な恐怖もあり、どこか儚いような、そういった世界を感じ取ることができました!久しぶりに人間こえー(笑)みたいな映画を見たので上映中に「これこれ!」とにやけながら観ていました!

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

初めはシンデレラストーリーに思えた人生が、後半どのようになってしまうのか、、まだ観ていない方はぜひ劇場でご覧ください!!

ネタバレ有り考察

今回は話したいことが多いので要点をまとめて話していこうと思います!

主に僕が自分なりに考えた考察を話していきます!!

前半の"つくりもの"感

出典:moviecollectionjp:土屋太鳳が一夜にして怒涛の不幸6連発の冒頭シーン/映画『哀愁しんでれら』本編冒頭映像

このタイトルそのままです!最初は役者の演技が下手で浮いていたり、表情で分かるような感情も小春が全て口に出したり、ひかりの演技が大袈裟で低予算映画のそれに見えるなどなど、"あれ?失敗か?"と思うような作り物感というか、つまらない映画に見えてしまいました!

しかし、結婚届を提出し海の近くで踊るシーン。

出典:Klockworx VOD:『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)全国公開【ダンスシーン映像解禁】

このシーンが流れた時に「そういうことか!」と思いました。

これまではつくりものに感じたのは、演出だったのかと!「わざとやってる!」と気づいた時は思わず笑ってしまいました!

しかし、ここから小春のしんでれらタイムは終わり家庭が崩壊していき始める。お伽話的なものを見せた後だからこそ歪んでいく姿が余計際立つ!この前半の"つくりもの"シーンはとても面白かったです!

ナポレオンの言葉と幼児退行

小春と大悟は2人とも幼児退行しているのではないか
この映画では幼児退行という言葉が出てきます。
赤ちゃん返りとも呼ばれる幼児退行は、年齢に合わない幼稚な行動をとってしまう症状でヒカリの幼児退行に大悟と小春は悩んでいました。
しかし、この幼児退行は大悟と小春にも見えるのです!特に小春は顕著に出ています!

【幼児退行ポイント】

①児童相談所で見たニュースに思ったことを全部言ってしまう。

出典:moviecollectionjp:土屋太鳳が一夜にして怒涛の不幸6連発の冒頭シーン/映画『哀愁しんでれら』本編冒頭映像

②正義感からか証拠も無いのに悪い親だと決めつけクレームが来ることも考えずに押し入る。

出典:moviecollectionjp:土屋太鳳が一夜にして怒涛の不幸6連発の冒頭シーン/映画『哀愁しんでれら』本編冒頭映像

③お父さんからおつまみをあーんしてもらう。
④ファミレスでの飲み物を抱え、ズルズル音を立てながら飲む。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

⑤大悟に怒られているときに焼肉を触る。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

ざっとあげてもこれだけあると思います!
まさにナポレオンの『子供の将来は、その母親の努力によって定まる』という言葉のように母親が大きく影響しているのかもしれません。

ひかりの母親は大悟から小春へ

先程も話したナポレオンの言葉『子供の将来は、その母親の努力によって定まる』が重要なキーワードになっていますが、これは母親が子供に与える影響が大きいということでしょう。しかし、小春に出会う前までシングルファーザーで育てていた大悟の場合、ここでいう母親とは、性別は関係なく大悟だったのではないでしょうか。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

そう考えるとヒカリの性格の一部は大悟から生まれていると思います。ワタルがクルミと仲良くしていることが気に食わず、様々な行動をする背景にあるのは大悟の「自分の価値観に素直な部分」が受け継がれているのではないでしょうか。つまりヒカリのあの異常性のようなものは、大悟から生まれ小春によって育てられたものであると思うのです。

大悟はヒカリに手をあげていた?

大悟は以前、ヒカリに手をあげていたのではないか?そして小春と初めて出会う時にしていた眼帯、それは大悟が負わせた怪我によるものなのではないか?と考えていました。
しかし劇中では、ワタルの投げたボールが当たり腫れたと言っていました。これは嘘じゃないでしょう。しかし、小春がヒカリの目のガーゼに絵を描く時、大悟はそれをとても気にして見ているようでした。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

当然、「何してんだこいつ」と思って見るのは分かります。小春も治ってるとは言っても怪我をしたところに躊躇なく絵を描くのは少し異常な行動に思えますし、それを気にする大悟は不自然ではないでしょう!他にも大悟のプロポーズに小春が答え、それをヒカリに伝えるシーン。大悟が「ヒカリ!」と呼ぶとヒカリは少し怯えたとも捉えられるように驚きます。突然呼ばれたら誰でもビックリしますし、ここまで複雑な演技をcocoちゃんするのも難しいと思うので"ただ驚いた"ということだと思いますが、こういった少しの違和感にも意味があるように感じてしまいますね!

大悟は"普通"でないだけ。

ふつうというのを多くの人が当てはまることとして定義すると大悟は普通ではないでしょう。学歴差別や裸の自画像、ペットを剥製にするなど、多くの人がしない行動をとっています。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

しかし彼の中では理屈が通っていて何も間違いではないのです!彼の価値観ではそれは何もおかしいものではなく、普通のことなのです。ただ俗に言う"普通"の価値観を持つ、自分の価値観に似た価値観を持つ他人を多く抱える我々としての価値観では、大悟がしている行動は引いてしまうような異常な行動に見えるというわけです。

【哀愁しんでれら】は恋愛映画?

この物語における小春と大悟の関係を俯瞰して見てみるとあることに気づきます。
【小春と大悟の関係の移り変わり】
幼児退行している点や、高い理想を想い描いているという点で似た価値観を持つ二人が出会う。しかし、実はそこにはズレがあり、小春はそのズレた価値観に歩み寄ろうとする。それによって小春の価値観が崩れていき、大悟の価値観に似た考えを持ち行動を起こす。
整理して見ると普通の恋愛映画に思えますね!
ここで話題の恋愛映画[花束みたいな恋をした]を出して話そうと思います。

出典:映画.com:花束みたいな恋をした

【花束みたいな恋をしたでの移り変わり】
同じ芸人や作家の作品が好きで、似た価値観を持った2人、しかし就職という転機を迎え、お互いのすれ違いに気づき始める。麦は元々違う価値観だったと気づき合わせようとするが、絹は同じだった価値観が変わってしまったと思い離れようとする。

結末や中身は違いますが、恋愛の移り変わり方という点では似た映画のように思えますね!笑
そういう意味では【哀愁しんでれら】は恋愛映画といっても過言ではないですね(あくまで要素があるという意味)。

小春は終始何も変わっていない!

-小春の目標は理想の家庭を気づくこと-

この映画を見た人で小春がどんどん堕天していくように感じた人も多いでしょう!

小さい頃のトラウマから”自分はダメな親にはなりたくない”という気持ちが強い小春は、良い母親になって2人を幸せにすることが目標になりました。 

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

その思いから、ヒカリが一番だと思い込もうとしたり、家庭内で波が立たないようにヒカリの問題を隠蔽したりしていきます!
しかし本編終盤、ワタルが「ヒカリクルミを殺した」と告白した後、車で大悟に「ヒカリに確認しなくていいかな」と伝えています。このシーンになぜそんなことを聞くのかと違和感を持った人も多いでしょう。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

もう一度確認したいのは、これらの行動が小春の性格から来るものではなく、目標から来ているということです。なので、大悟に似た価値観を手に入れた後でもヒカリを疑う感情をいまだに持っていました。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

”いよいよ堕ちたな”と感じたシーンでしたがこの一言によって小春の内面が感じられる、この違和感の入れ方も秀逸でしたね!

大悟目線で見ると面白い!

哀愁しんでれらは、小春のシンデレラストーリーと思えた人生からの家庭の崩壊、小春と大悟の価値観のズレに小春が価値観を寄せていき、"異常"に移り行く様を移した作品だと思いますが、実は大悟目線で見てみると面白いのではないでしょうか?そもそも大悟は小春を愛していません。結婚したのもヒカリに母親という存在が必要だからなだけでした!彼の人生はヒカリが一番です。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

しかし以前は自分が一番だったのではないでしょうか?医者になるために必死に勉強し、できない奴は見下して生きてきた、自分は完璧だと思いながら生きてきた。それがヒカリという娘を持ったとき、その"一番"という対象がヒカリに移り、"ヒカリは完璧"という思想にシフトして行ったと思います!だからこそ、ヒカリに手を挙げた小春を一度は追い出すも、泣いているヒカリの姿を見て、また追いかけていました。彼の行動の裏にある気持ちや考え方を想像すると別の楽しみ方ができますね。次、観るときは大悟目線で物語を追って見ると面白いかもしれません! 

ヒカリが涙した理由

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

あれだけ嫌がらせをしていたヒカリも小春が家を出ていくときには、足に捕まって泣いていましたね!
ということは、あの嫌がらせは愛情表現だったように思えます。ヒカリからするとそういった行動はただの遊びで、学校で発散できていないストレスを小春にぶつけているのではないでしょうか!ヒカリは理解して欲しかったのかもしれません。なぜ、筆箱を捨ててまでワタルに構って欲しかったのか、来未ちゃんという存在へ抱いている感情を。

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

ただ小春はそれを恐怖し異常だと考え、波風が立たないように隠蔽してしまいます。理想の家族像を優先し、現実から逃避したのだと思います。

小春がヒカリとの約束を破ったからこのような方法でしか発散できなくなったというのに、それにも気づかないというのはとても切ない話でしたね。

この映画1番の謎、、

子供達をインスリンで大量虐殺した後、小春と大悟とひかりは教室で授業ごっこをしています。
このシーンは先生が1人も登場しない点や小春が助手として学校に入るなど、現実ではなく想像の話なのでは?など色々考える部分があります。
しかしこのシーンの1番の謎はひかりが算数の問題に答えるシーン。横2列に書かれた問題。上段には掛け算、下段には足し算、ひかりは下段の3問目を答えようとしますが難しく答えることができません。

出典:トーキョー女子映画部:哀愁しんでれら.2021.02.01

いや、なんで掛け算わかるのに足し算わかんねーんだよ!!!!!!
上段の掛け算は答えが書いてあり解けています。なのに足し算がわからない。これはなぜ?
掛け算は大悟が答えた??ひかりが見たこともない問題を出すはずがありません。もともと書いてあった授業の黒板だった?あのレベルの掛け算と足し算を同時に出す学年はないでしょう。じゃあこの掛け算は??1番の謎でした(笑)

まとめ

土屋太鳳さんが3度出演を断った理由は「人がどんどん不幸になっていくようなことを面白がっている作品には出たくない」というものだそうです。しかし脚本を読み進めていくにつれて、小春が不幸になっていく物語ではなく、小春の中にあった小さいもの、誰しもが持っている感情が、増殖ではなく膨れ上がっていく姿を現した作品だと感じ、引き受けることを決めたそう。

出典:シネマトゥデイ:土屋太鳳、3度断った難役 それでも挑んだ理由 映画『哀愁しんでれら』インタビュー

僕がこの映画を見て"世に出ていいのか"と感じたのはそこにあります。いままでもこういった誰もが持つ人間の内側にある負の感情や"異常"に染まっていく様子を描く映画はたくさんありました。しかし、日本の映画でトップを走る俳優を使って普段映画を見ないような人にも分かりやすいように表現するという、これまでアングラで沸いていたものに陽の光を浴びせたようなこの作品は監督の挑戦なのか、新たな一歩なのか。そういった意味でもとても面白い作品でした!

今作で一番好きなシーンは小春が「うちの子がやるわけないでしょう!」と叫ぶシーンです!

出典:Klockworx VOD:映画『哀愁しんでれら』予告編

予告でも出ていたこのシーンですが、大悟に関わる伏線だと思っていたものが、こっちが本筋だったとは!と驚きました!

久しぶりに考察しがいのある作品でボリュームがすごいことになってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
みんなも指切りしたら約束は守ろうね!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集