多元宇宙論

僕が住んでいる場所には真っ青な空と、澄んだ空気と、なんとなくな憂鬱がある。

テレビを付けて情報番組にチャンネルを合わす。そこには、通り魔殺人事件が起こり犯人が未だ逃走中だというニュースが流れていた。最近は暗いニュースが多い。貧困により不健康な生活を強いられているだとか、厄介な病が流行してるだとか。

遠い場所の話。

テレビを消す。黒くなった画面に暮らしが映る。

カレンダーを見ると家賃の支払いが今日である事を思い出し、コーヒーを飲む。

会社に着いて、紙まみれの机に座りパソコンを開く。明日中に提出しないといけない書類がまだ3割に満たないほどしか出来ていない。
取り掛かろうとした時、ふと取引先との飲み会が明後日にあることを思い返す。
ため息を吐き、取り戻すように息を吸う。

目に見える範囲で目紛しく時間が進んでいく。
家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、
歯車が狂わないように一つひとつ済ましていく。

帰りにコンビニにより、コンビニ支払いにしていた美術館のチケットを買う。印象派の展示が開催されており、ずっと楽しみにしている。美術館に行く来週には、家賃の支払いも書類の提出も飲み会も済んでいる。

家に帰る途中、黒い服装の男とすれ違う。その瞬間、脇腹がとてつもなく熱くなる。気付けば地面にうずくまっている。熱い脇腹から温かい液体が流れてくる。

意識が薄れていく中で今朝のニュースを思い出す。
遠い場所の話。
目に見えない範囲。
殺人、貧困、流行病、

目に見える範囲に済まさなくてはならないものが山ほどある。
家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、

歯車が狂わないように一つひとつ済まさなくては。
家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、家賃、書類、飲み会、

意識が完全に消える。


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