生活転生
僕の部屋は物で溢れかえっていた。僕は物が捨てられないのだ。
例えば、高校の修学旅行でベトナムに行った時に、その場のノリだけで買った猫か熊か分からない置物。その場に誰が居て、どんなノリで買う事になったかは覚えていない。この置物は、もしかすると猫でも熊でもない現地における神の使いのようなキャラクターなのかもしれない。そうだとすると、捨てると縁起が悪いので捨てられない。
他にも、勝てなくなって辞めた将棋のセット。就活を始める頃には自然消滅したバンドで使っていたギター、友達から貰った動物図鑑、いつかの何かのトロフィー。
社会人になってから片付けようとも思わなくなっていった。
ある朝、宅配ボックスに「要らなくなった物を高額買取!!」と書いてあるチラシが入ってあった。僕はせっかくだからと申し込んだ。「生活に関わる物以外ならなんでも大丈夫です。」と言うと、業者は目を輝かせて、家にあるほとんどを買い取っていった。
僕が意識していない物もあっただろう。
過去の産物は削られ、まるで最初から何も無かったかのように部屋は空っぽになった。空っぽになった部屋は物で溢れていた時よりも、窮屈に思えた。
僕が止めてしまった時間は別の場所で動き出し、僕は過去の無い未来に閉じ込められた。
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