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競技場はまちのハブ施設になり得るか──鎌倉インテルFC代表・四方健太郎に聞く、〈スタジアム〉と〈まち〉

「街づくり」はとても複雑なものです。
そこに住む住民はもちろん、商いを営んでいる人、デベロッパー、行政……などさまざまな主体による活動の上に成り立っています。各々の活動はお互いに何らかの影響を与え、結果的にまちという姿で現れます。そう考えると、それらの主体が街づくりを意識することから、本当の街づくりがはじまるのではないでしょうか。

近年、日本全国でスタジアム(観客席のある競技場)の建設が進められています。スポーツ庁によると、2024年1月時点で計96件のスタジアム・アリーナの新設・建替構想が進行しているようです[*1]。これらの多くは、経済産業省・スポーツ庁が掲げる「スタジアム・アリーナ改革」に象徴されるように、集客施設として収益性の向上を目指しながら、地域の活性化と持続的成長をもたらすインフラとして、街づくりの中核的な役割も期待されている側面があります[*2]。

*1 スタジアム・アリーナの新設・建替構想の現状 - スポーツ庁
*2 スタジアム・アリーナ改革 - スポーツ庁

「スタジアム・アリーナ改革」が「観るスポーツのためのスタジアム・アリーナの整備」を推進していることからもわかるように、政府はスタジアムを利用する人びとによる経済効果を高めることで地域の活性化を目指しています。言い換えると、地域住民や来場者とまちをつなぐものは「お金」である、と読み取ることもできるかもしれません。

でも、私たちとまちはもっと多様なものごとでつながっているはずです。そうであるなら、スタジアムをどのように運営すれば、私たちとまちを継続的につなぐ施設にすることができるのでしょうか。

神奈川県鎌倉市の「みんなの鳩サブレースタジアム」(以下、鳩スタ)は、サッカーチーム「鎌倉インターナショナルFC」(以下、鎌倉インテル)の本拠地であると同時に、高齢者や子どもたちが日常的に訪れ、5,000名を超える人びとが集まるお祭りが開催されるなど、地域の人びとのさまざまな活動の場として活用されてきました。鳩スタは鎌倉という地に根を張り、人びととまちをつなぐ場所として機能してきたと言えるでしょう。そんな鳩スタは、土地の利用期限の都合上、2024年11月に解体されます。現在、鎌倉インテルは次なる「みんなのスタジアム構想」の実現に向け、移転先となる新たなスタジアムづくりに奔走しています。

みんなの鳩サブレースタジアム
「鳩スタ祭」の様子

今回のインタビューでは、鎌倉インテルの代表を務める四方健太郎さんにお話をうかがい、地域住民をスタジアムに呼び込んできたこれまでの歩みを振り返りつつ、今後の運営のビジョンを語っていただきました。四方さんのお話からは、まったく異なるものに思われる「スタジアムづくり」と「街づくり」が、ほとんど同じものとして聞こえてきます。社会貢献とビジネス的な視点のバランス感覚、スタジアムにおける地域住民との関わりしろのつくり方など、スタジアムに限らない施設の開発・運営にも転用できるヒントが得られたインタビューになりました。

四方健太郎(よも・けんたろう)
鎌倉インターナショナルFCオーナー。人材育成会社「株式会社スパイスアップ・ジャパン」シンガポール法人代表。2002年アクセンチュア株式会社に入社後、通信・ハイテク産業の業務改革・ITシステム構築等に従事。2009年に独立し、南アW杯出場32カ国を1年かけて巡る「世界一蹴の旅」を敢行した。現在はシンガポール在住。東南アジア諸国と日本を行き来しながら、グローバル人材育成のための海外研修事業に取り組んでいる。


国際都市・鎌倉にサッカークラブをつくる


──まずは、鳩スタ完成までの経緯を、着想の段階から教えてください。そもそも、なぜ鎌倉だったのでしょうか。

鎌倉インテルというサッカークラブの発足からお話しますね。もともとサッカーが好きで、いつかサッカーに関することをしたい、というピュアな気持ちからはじまりました。私は世界一周旅行もしたことがあるのですが、そのときの経験も原動力になっています。どの国に行っても、サッカーを通じてコミュニケーションを取れたんです。日本ではまだ運動・スポーツの域でしか語られないことの多いサッカーですが、それだけでないすさまじい力を持っている。日本でもそのポテンシャルをもっと生かせるのではないか、と感じていました。

なぜ鎌倉か、についてですが、実家が横浜の私にとっても、鎌倉はほとんど縁のない土地でした。サッカーチームをつくることも含めて、友人との他愛もない雑談、いわば飲み屋トークのなかでの思いつきなんです(笑)。まだJリーグクラブがない地域で、スタジアムをつくれそうな土地があって、潜在的な可能性もありそうな地域……とマップを見ながら妄想をふくらませたところがスタートでした。

そんなとき見つけたのが、鎌倉というまちでした。私が海外を見てきたこともあり「インターナショナルFC」という名前を付けたかったのですが、「鎌倉インターナショナル」と口に出したときに、これだ! と妙にしっくりきたんです。しかし鎌倉にはスタジアムがない。ないのなら、どうするか? と考えるところからのスタートでした。

──社会人サッカークラブを発足するにあたって、本拠地となるスタジアムをつくろうという発想からスタートしたのですね。参考にしたスタジアムはありますか。

2017年にシンガポールで「タンピネス・ハブ」という施設が完成したんです[*3]。芝生のスタジアムを含む複合施設で、図書館や行政施設、ショッピングモールなどの機能があります。日本と比べて国内サッカーリーグの人気が低いという事情もあるかもしれませんが、スタジアム機能だけに特化せずにいろんな機能が複合されていることもあって、人びととスポーツとの距離が近いんですよ。芝生があるスタジアムやグラウンドって、ともすれば日本ではぜいたくと思われがちですが、海外ではそんなことなくて。日本でもそんな景色をつくりたいという思いをずっと持っています。

*3 Our Tampines Hub https://www.pa.gov.sg/our-network/our-tampines-hub/hub-info/

鎌倉でスタジアムをつくれそうな土地を探していると、市が管理していて開発がはじまるまで暫定利用することのできる土地が見つかりました。ただし、使用料は条例で決まっていて、毎月莫大な固定費がかかることになる。諦めかけていたのですが、そのエリアの土地の大部分は民間企業が所有していることが分かったんです。民間対民間なら可能性があるかもしれない、と交渉を続けた結果、契約にこぎつけました。

「みんな」の一員だと実感できるスタジアムのつくり方・使い方


──資金集めにはクラウドファンディングを活用されたそうですね。そのようなプロセスも、市民が「みんなのスタジアム」と感じるきっかけとして構想されたのでしょうか。

じつは、多くの人を巻き込んで、みんなに親しまれるスタジアムをつくろう、とスタート時から強く考えていたわけではありませんでした。自己資金もなければ、大型スポンサーになってくれるような大資本も鎌倉にはない。とにかく仲間とお金が必要だったので「みんなのスタジアム」という構想にならざるを得なかった一面もあります。結果的にいいコンセプトになっていると思いますし、クラウドファンディングではたくさんのご支援をいただくことができました。

資金集めもクラブ運営も信じられないくらい大変ですが、お金がないからみんなが助けてくれるんです。「本当にお金がない」ことが、私たちのクラブ運営のミソかもしれません(笑)。

──だとしても、実際に行動に移されていることが重要なんだと思います。だからこそ鳩スタに関わっている人たちが「みんな」を実感できているのだと感じました。

そうですね。お金を集めることは大事なんですが、そうやって支援いただいたお金をどうやって使うかを考えれば、正しく行動するしかないんですよね。

鳩スタを支援した人びと。スタジアムの営業期間中、芝生1平米のオーナーになれることが、クラウドファンディングのリターンとして用意された。

──「鳩スタ祭」が象徴的ですが、鳩スタはサッカーだけでなく、地域のさまざまなイベントにも利用されてきました。活用の幅が広がった明確なきっかけはあったのでしょうか。

きっかけとしてパッと思い出すできごとがふたつあります。ひとつ目は偶然なのですが、平日の昼間に、近所の保育園のお散歩を見かけて「よかったら、スタジアムのなかを歩きませんか」とお声がけしたんです。車が入ってくることもなく、転んでも安心ということで、すごく喜ばれて。そこから交流が始まりました。平日の昼間ならサッカーをしていることも少なく必然的に空いてしまうので、せっかくならうまく活用できないかと思っていたんですよね。

鎌倉インテルの運営メンバーに理学療法士がいて、鳩スタで高齢者向けの体操教室も開いていました。そこに、園児も入ってくるようになった。体操やストレッチもいいのですが、子どもといる方が、お年寄りはよっぽど自然に歩き回れるみたいで。

そうやってスタジアム内に憩いの場としての画が生まれると、今度は地元の会社が地域貢献の費用を捻出してくれるようになったんです。とてもうれしかったですね。

鳩スタで地域の子どもと高齢者が交流している様子。
そのほか、子ども源平合戦やヨガなど、地域に開かれたさまざまなイベントがおこなわれている。

──そのような地域の人たちを巻き込んだ動きは、サッカーをしているだけでは生まれないと思います。鳩スタがサッカーだけでない利用ができる場所なんだと地域の人たちに認知してもらえるきっかけがたくさんあったんですね。

そうなのかもしれません。もうひとつは、地域に対するクラブ側のスタンスの変化ですね。「チームを応援してほしいと発信を続けてきたが、自分たち自身がまわりの人を応援しないと、応援してもらえないのでは?」という若手スタッフからの意見がきっかけになって、私たちから地域のためになにができるかを考えるようになりました。

たとえば、当時はコロナ禍の最中だったのですが、地元のみなさんが集まれるイベントやお祭りを主催しました。学校や自治体では動きにくいことに、民間の立場だからこそできることがあるんじゃないかと思ったんです。

当日はほんとうに人が集まるのかと心配でしたが、小さなお子さんからおじいちゃんおばあちゃん、さらに中学生くらいの子どもたちも集まってくれて、人工芝のうえにたくさんの笑顔があふれていました。そんな光景は「みんなが主役」なんだと感じてもらえる導線になったかもしれませんね。

「鳩スタ祭 2024 夏」の様子

──地域が潜在的に求めていたような場所を、半分たまたまかもしれないけれど提供することができたわけですね。

実際に体験していないものをイメージすることってむずかしいんですよ。だから自分たちでつくってしまって、体験してもらうしかない。体験してもらえたなら私たちの世界観に共鳴してくれる人がたくさんいることは、活動をとおしてわかりました。そうした思いをもって場所を用意できたことが半分、もう半分はおっしゃっていただいたように、地域のみなさんがはじめから持っていたポテンシャルがあって、実現できたことだと思います。

プロセスをとおして市民を巻き込むスタジアム


──活動を通して地域住民に変化が生まれたと感じたことはありましたか?

ポジティブな面ですと、クラブにも鳩スタにも関わってくれる人は思っていた以上に増えました。一方で、外部からのアイデアの持ち込みや、自律分散的なスタジアム活用は、当初期待していたほど進んでいないのが現状です。運営者である我々がある程度リーダーシップを発揮して、「みんな」を巻き込んでいく必要があるのだなと感じています。

とはいえ、1試合に300〜400人のサポーターが集まる社会人サッカーチームはかなり珍しいんですよ。本拠地を持つことで「鳩スタに行けばサッカーの試合をやっている」という状況をつくれました。鎌倉インテルは、現在は神奈川県社会人リーグ1部所属で、Jリーグの一番上から数えると7番目のリーグ。ホームグラウンドがあり、試合日程が決まれば人が集まる、というのは社会人チームではなかなか実現できないことだと思います。それでもみなさんが集まってくれるのは、やはり場所がある強みですね。

鳩スタで鎌倉インテルを応援するサポーターの姿

──行政にも変化はありましたか? 民間企業による活動によって公共空間が生まれる、というかたちを実現されているので、そこにさらに行政が関わるようになれば、よりおもしろくなりそうだなと感じます。

民費であり、民設・民営ですので、いまのところ、ほぼ100%民間で運営しています。なので、今後は行政の方々と手を取り合って、より良い場づくりを一緒にやっていけると最高だな、と思っています。

そうやって行政と民間の交流をとおして、両者がよりおもしろい存在になったらいいなと思っています。地域のビジネスの基盤や、あらゆる住民サービスを担っている彼らと、地域の人たちや会社が相互理解できたら、住民たちが得られる利益も大きくなるのではないでしょうか。

──鳩スタも行政が関わる土地を開発までの暫定利用として活用していたわけで、スタジアムのような大きな施設は行政の協力なくして実現できませんし、さらに市民を巻き込んだ「みんな」のスタジアムを実現するために、行政職員もまた「みんな」の一員であると感じてもらうことが必要なのかもしれませんね。

回答になっていないかもしれませんが、鎌倉インテルは夢や未来を見せられるクラブでありたいとは思っています。スタジアムをつくりますとか、Jリーグに向かってステップアップしますといった可能性を見せることがすごく大事なんです。みんなで一丸となって目標に向かっている瞬間が、大げさかもしれませんが、人にとっての幸せだと思うので。

まちに強いクラブがいて、大きなスタジアムがあるという「完成品」の方がクオリティは高いかもしれない。でも私たちはプロセスで魅せています。お金を出してくれた人が「俺たちの3万円でここまで整備して、これからこういう風になってくんだよ」と語れるのも幸せだと思うんです[*4]。

最初から完成されたまちをつくって、はじめて「まちびらき」ではなく、地域の人たちや企業などの民間とともに、行政が一緒になって、まちをつくるプロセスを共にする、そのなかで付加価値をつくれる地域人材も育っていくのではないかと想像しています。

試行錯誤しながら完成を目指すんだけれど、1%でも改善できることを見いだして、それをボトムアップでよりよくしていく。そのプロセスの繰り返しが「みんな」を意識させることにつながるんじゃないかと思っています。

*4 クラウドファンディングでの1平米スタジアムオーナーの料金が3万円。

熱量を受け入れながら交流を生む「地域のハブ」としてのスタジアム


──そんななかで、鳩スタは解体が決定しました。当初から暫定利用の予定で、それも折り込み済みの計画だったようですね。そしていま、移転先として計画されているスタジアムも期限付きだと聞いています。どういった経緯で移転先が決まり、そして今後はどのような展開を想定しているのか教えてください。

新スタジアム「ゴールドクレストスタジアム鎌倉」(以下、クレスタ)の計画地は、教習所の跡地で将来的にはマンションが建つ予定です。条例の都合ですぐにマンション建設ができない敷地に、暫定的にスタジアムをつくる計画です。その土地でできる最大限の規模感で、鳩スタとほぼ同じスペックになる予定です。

鳩スタはつくるので精一杯で、運営が軌道に乗ってきたところで使用期限が迫ってきました。そんなとき、幸運にも新しい土地が見つかったんです。また期間限定か、と言われるとその通りなのですが、広い敷地がないという鎌倉・深沢特有の事情もありました。自転車やモノレールで通っているサッカースクール生もいるので、なるべく同じエリアでやりたかったんです。

私たちはスタジアム計画を1.0、2.0とバージョンアップするものととらえています。鳩スタが1.0で、クレスタが2.0。現在はその先の3.0、さらに4.0も見据えながら活動していて、次こそは恒久的に使える場所をと思っています。ひとまず同じスペックで横移動をしながら、それこそ夢を見てもらうことが大切です。仮に1万人収容規模のスタジアムとなると、必要な設備も費用も桁違いになるので、そのときはさまざまな事情が関わってくるとは思いますが……。

──今回も「みんなのスタジアム」というコンセプトを打ち出していますよね。まちの人びとはどのように関わることができるのでしょうか。

クラファンを実施しているのも鳩スタと同じですし、お祭りやイベントもできる施設にする予定です。ただ少しエリアが変わるので、近隣住民への説明はあらためて丁寧におこなっていますし、そうでなければいけないと考えています。その上で、防災拠点にもなるなどメリットもお伝えしていくつもりです。何か困ったことがあったら、僕らと一緒にやりませんか? というメッセージを届けたいですね。

一般論ですが、行政と市民・企業の関係も見直す機会になればと思います。私たちは税金を渡して、自治にまつわるいろんなことを行政にやってもらっているわけです。対立するなんて、そもそもおかしいですよね。「場」の価値を上げるために一緒にアイデアを生みだす、運命共同体になってほしいんです。そんな場所が活用されて地域が盛り上がれば、関わるみんなにインセンティブも生まれるわけですから。

「鎌倉みんなのスタジアム構想」が掲げるビジョンの一部

──スタジアムとまちづくりを一体のものとして語る四方さんの存在は、ふだんスタジアム運営に関わっていない立場からは目新しく映りますが、本質的には、地方自治のあるべき姿や原理を、スタジアムをとおして再確認しているのだなと思いました。

言い換えれば、四方さんは、住民がまちに関わる媒体としてのスタジアムの可能性を探っているように見えます。スタジアムやサッカーチームがまちにあることで、どのような効能があると考えていますか?

先ほど話したタンピネス・ハブのように、スタジアムがスーパーマーケットなどの機能も持っていれば、自然と市民が集まる場になりますよね。ハブになっている施設にスポーツがあって、結果的に心身ともに健康になる仕組みができればいいなと思います。

一方で、スポーツならではのおもしろさは、やはり勝負がつくところにもあるとも思っています。勝ち負けがすべてではないのですが、それでも「私たちのチーム」が勝つことを目指して、みんなが同じ方向を向くことができるなんて、すごいことです。年齢や性別を超えて、地元チームが勝ったら喜び、負けたらみんなでがっかりする。その状況を醸成するのは簡単ではありませんが、それだけに価値はあると思います。

──その話を聞いて、ヨーロッパのサッカーリーグを思い出しました。勝ち負けに全力で一喜一憂しているサポーターを見ていると、チームとスタジアムと、そのまちの住民の一体感を強く感じます。

日本には、そのように熱狂的に観戦する文化はなかったといわれていますが、Jリーグは30年でそれを少しずつかたちにしてきています。プロ野球はさらに長い歴史があり、なかでも阪神タイガースや広島カープは熱心なファンが多いですよね。

娯楽が多様化した現在は、昔の巨人や阪神のように国民的スターが生まれる時代ではないかもしれません。しかし一方で、推し文化のように、自分が決めたものを応援するかたちが定着してきていて、地方クラブが盛り上がるポテンシャルは十分にあります。そんな熱量やさまざまな目的を受け入れながら交流を生むのが、新しいスタジアムの役割ではないでしょうか。人が集まって混ざり合って、その場所に価値が生まれる。ハブにはそんな魅力があります。

ただ、既存のスタジアムは、この役割を成し遂げてこなかった。それだけにスポーツのためだけの「スタジアム建設」にアレルギーがある人がいるのも理解できます。

──鳩スタから継続して「みんなのスタジアム構想」で特徴的なのは、サッカーの存在の有無に関わらず、地域住民がスタジアムに関わる・参加するきっかけにあふれていることだと思います。私たちがふだん生活をしていて「まちに関わっている」と感じる機会はとても少ないですが、四方さんがおっしゃるような「地域のハブとしてのスタジアム」が実現すれば、これまでの活動の成果以上に、スタジアムを介して鎌倉に関わり、なにかその人にとってのプラスになる機会がより増えるだろうなとワクワクします。

だから、もしかすると今後は「スタジアム」と呼ぶこと自体がミスリードを起こしてしまうかもしれませんね。鳩スタも新スタジアムも、本来なら「グラウンド」と呼ばれる見た目の施設ですが、目指しているものを明確にするためにあえてスタジアムと呼んでいました。もし今後スタジアムと呼ぶに足るスペックのスタジアムをつくることができたら、スタジアムに代わる名称を考えたほうがいいかもしれないと思いました。それが「ハブ」なのかはまだわかりませんが、呼び方を変えることも、さきほどお話したように夢や未来を見せるものとして、みんなをワクワクさせるためのゲームチェンジになり得るのではないでしょうか。

スタジアムの未来、まちの未来


──鎌倉インテルの本拠地である深沢エリアは、鎌倉駅周辺から少し離れていて、住宅地や工業地域の文脈を持ちます。一般にイメージされる鎌倉とは、少しまちの雰囲気が違いますよね。「新しいコミュニティのつくり方を示すならここ」という考えが四方さんのなかにあるのでしょうか。

鎌倉の中心市街は観光でにぎわっていますし、市全体として見ても生活への満足度は高いと感じます。しかしそれが足かせとなって、イノベーションが生まれにくくなっているととらえることもできる。そのなかにおいて深沢は、新しいことに挑戦できるエリアだと感じています。非連続的で革新的なことができるとすれば、鎌倉市内では深沢しかない。

これは以前、市議会議員の方から聞いた話なのですが、外から見るといわゆる「鎌倉」のイメージがありますが、市民からすればエリアごとに結構バラバラな印象なんだそうです。そこに鎌倉インテルができることで、鎌倉対東京、横浜、大阪……といった構図ができる。そういう意味で、クラブは鎌倉をひとつにする役割も持つのかもしれませんね。

──ただ、市がつくった深沢の都市計画は旧態依然としています。市の都市計画資料を見ると、市街地の中心に「シンボル道路」を通し、その沿線に商業地域、行政施設などをエリア分けして配置しています[*5]。四方さんのお話を聞いていると、中央にハブとなるスタジアムがあった方が魅力的ですね。

*5 深沢地域整備事業の土地利用計画(案)について - 鎌倉市

とてもよくわかります。道路がシンボルだなんて、そんなシビックプライドがあるのでしょうか。正直、あまり地域の方がまちの誇りに思うイメージが湧きません。せめて、このなかの「公園・行政施設」を真ん中に置いてほしい。そしてそのなかに、行政と民間をはじめ、地域内外のさまざまな人たちが交わることができる余白もあれば最高だな、と思っています。

みんなの鳩サブレースタジアムと深沢のまち

──今回は四方さんにどんなスタジアムを構想しているのかをうかがってきましたが、スタジアムがこうなったらいいなというお話と、鎌倉というまちがこうなったらいいなというお話が、同じことのように語られるのが印象的でした。「鎌倉みんなのスタジアム構想」が実現するとき、鎌倉はどんなまちになっていると思いますか?

Jリーグは、地域密着を掲げて発足してから30年あまりが経ちました。企業色の強かったプロ野球とは異なる戦略によって、鹿島アントラーズや川崎フロンターレのような地方クラブが生まれ、地域の産業にも大きく貢献してきました。一方で、現在はその流れもすこしずつ変わってきていて、ただでさえ人口が約17万人の鎌倉で地域密着していてもマーケット的に無理がありますし、ネット配信の普及で世界と戦う必要もあるかもしれません。

だから、地域のことを思えば思うほど、地域外の人びとを入れて、混ざりあうほうがいいと思っています。地域をないがしろにしているととらえられると困るのですが……。多様性という言葉も安っぽく聞こえるようになってしまいましたが、バランスをとりながら、鎌倉だけでなくいろんな地域や外国の人たちも混ざりあったまちになっているといいですね。そうなれば、さらに「地域のハブ」としてのスタジアムの機能が求められるんじゃないかと思います。

──だからこそ「鎌倉インターナショナルFC」なんですね。

おっしゃるとおりです。

私は、サッカーチームをつくれたら楽しそう、というところからスタートしたのですが、実際にやってみると行政やまちづくりの課題がたくさん見えてきました。まちのコンセプトや課題があって、それらを解決するためのツールとしてスポーツを使う。そんな立ち位置のクラブやスタジアムがあってもいいのではないでしょうか。あるいは、宮中政治に対するアンチテーゼとして鎌倉幕府ができたように、行政では解決困難な課題に取り組むことができる、流動性のあるサポート組織がそろそろ必要なのかもしれませんね。

──四方さんや鎌倉インテルの歩みを通して、住民や行政側の積極性など課題がよりリアルに感じられました。シビックプライドは、どのようにまちに植え付けていくか、というように後付けしていくかたちで議論されがちです。しかし今日のお話は、シビックプライドや夢を先につくり、そこからどう街づくりに落とし込んでいくか、という視点があり、とても建設的だと感じました。四方さんが理想とする、みんなが関われる場所としてのスタジアムが実現すれば、地域スポーツの発展以上に可能性が広がる気がしました。そんな施設がスタジアムに限らず増えれば、街づくりの方法や目指す姿も変わるかもしれませんね。今日はありがとうございました。

(2024年9月18日収録)

「みんなの鳩サブレースタジアム」は3年間の歴史に幕を閉じ、次なる「みんなのスタジアム」への移転に向け「1平米スタジアムオーナー」の募集をはじめとするクラウドファンディングを実施中です。締め切りは10月7日(月)まで。
https://hatostadium.com/new


編集後記
街づくりには、確固たるビジョンをもって推進していく人、それを支えてくれる人、自治体関係者など多くの人の関わりが大事だが、もっとも重要なのはそこに暮らしている住民がまちに対して自分ごととして関心をもつことだと思っている。道に落ちているごみを拾うだけでもその道に愛着が湧いてくる。こういった行動をどのようにして促していくか。四方さんの活躍はこの問いに対するひとつの答えだと思う。しかもその根源は「せっかくだからみんなで楽しくやろうぜ」というところが素晴らしい。今後ますますの活躍を願っております。(齊藤)
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「みんなの鳩サブレースタジアム」は、鎌倉インターナショナルFCの公式戦と「1平米スタジアムオーナー」さんなどへの開放を経て、2024年11月24日をもって、3年間の歴史に幕を閉じる予定だそうです。10月6日にトップチームの最終戦がおこなわれるので、四方さんの熱い想いの詰まったチャレンジの1STステージを現場で体感しに行く予定です。集まったファンの雰囲気や四方さん、FCスタッフ皆さんの様子など報告できればと思います。(今中)

聞き手:春口滉平、今中啓太・齊藤達郎(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)
構成・編集:春口滉平、山瀬龍一
編集補助:小野寺諒朔、福田晃司
デザイン:綱島卓也


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