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「音楽」を軸にしたまちづくりは可能か、福岡から考えてみる~「福岡の音楽都市の可能性」トークイベント まとめ~

文:今中啓太(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)


これまで「福岡の音楽都市の可能性」と題し、2023年2月に福岡で行ったトークイベントの様子を3回にわたって紹介してきました。
締めくくりとなる本記事では、トークイベントの参加者から頂いた貴重なコメントをヒントに、「まちに根付いた音楽」=「人・まちにとって大切な文化」がどのように街づくりに影響しうるかを考えると共に、我々がこの先も追い続けるべき「音楽都市」とは何か? を改めて考えてみようと思います。

福岡で、音楽とまちを考えるトークイベントを開催したきっかけ


私たちNTTアーバンソリューションズ総合研究所は、「街づくり」の本質は「そのまちならではの魅力づくり」であると考え、全国のさまざまなまちの人たちと共に街づくりを行っています。
街づくりを考える上では、地域固有の歴史・風土からまちに根付いた文化が重要な要素になります。なぜなら、それらの文化はまちならではの魅力に違いないからです。

今回のイベントの会場となったlyf(ライフ)天神福岡が建つ場所は、かつてNTT都市開発の社宅と九州支店のオフィスがあった場所でした。ホテルへの建て替えが決まる前、この場所を活用してどんな事業が可能だろうか? と奔走していた時期がありました。その時に出会ったのが「音楽」です。

なぜ音楽だったのか? 少々古いデータで、現在は異なるかもしれませんが、福岡には小規模なライブハウスが多く存在しているというデータが提示されていました。また思い返してみると、かねてよりフォーク、ロック、歌謡と幅広いジャンルのミュージシャンを輩出している都市としても知られており、現在も、数多くの福岡出身のミュージシャンが日本の音楽シーンを彩っているという印象があったからです。

現在の福岡はアジアの主要都市からのアクセスも良く、空港から主要部へも短時間で移動可能なコンパクトシティとして、インバウンド需要も高く、政令指定都市の中で最多の人口増加を誇り、規制緩和によるまちの開発も進んでいる都市として知られています。

交通の利便性や経済性の観点から見ても興味深いまちですが、一方で、日本有数の動員数を誇る「博多どんたく」をはじめとする祭・伝統文化のまちであり、また福岡と言えばまず想起されるであろう屋台街に代表される豊かな食文化もあります。
私たちはまちの利便性というよりは、こうした「文化とまち」にフォーカスを当てて、まちのことを考えていきたいと思っていました。普段、新しく建物を建てたりすることで課題を解決していく……という事業に取り組んでいますが、「まちの魅力を発掘する」というところまでは取り組めていない。ましてや音楽のような「かたちのないもの」に対してアプローチすることは今までなかったからです。

その時に、確かに福岡は「音楽」に深く関わる土壌があるとはいえ、福岡以外に住んでいる人たちにとってはメジャーなイメージになっていないのではないかと思っていました。

市内中心部を流れる那珂川からの眺め

そこで、まずは「音楽都市とは何か?」から思考を始めることにして、日本各地にある音楽と関わりの深いまちについて調べてみました。
自治体ごとの音楽スタジオ、ライブハウス、ホール、公演の数を調査したところ「音楽都市」「音楽のまち」として知られるまちがいくつも存在していることが分りました。

この中でも特に目立ったのが以下のまちでした。

●静岡県浜松市
・世界的な楽器メーカー(ヤマハや河合楽器製作所)の本社があり、浜松国際ピアノコンクールが開催されている。

●仙台市
・仙台国際音楽コンクールが開催されている。公益財団法人 仙台フィルハーモニー管弦楽団もある。

●川崎市
・世界水準の音響を誇るミューザ川崎シンフォニーホールがある。 

●調布市仙川
・有名音楽家、小澤征爾(指揮者)、中村紘子(ピアニスト)、高嶋ちさ子(ヴァイオリニスト)などを輩出してきた桐朋学園がある。

これらのまちは、音楽関連の企業、著名な施設、コンクールがあることで知られており、それらを活用した発信を自治体が行っているようです。

しかし、こうした情報だけでは「音楽文化」がどれだけまちに根付いているか、つまり住民がどのように感じているかを知ることができませんでした。
であれば、生の声を聞くしかない。そこで、福岡と音楽の関係について、色々お伺いすると共に「福岡の『音楽都市』としての可能性を再確認するため」に福岡の音楽事情に詳しい方、ナイトタイムエコノミーに詳しい方、福岡の街づくりに関わって来られた方など、さまざま場面で活躍されているな方々をお招きしてトークイベントを開催することにしました。

このイベントを通して、私たちはもちろん、色々な人が福岡と音楽の関係に思いを馳せ、そこから福岡の魅力について改めて認識する機会になればと考えていました。

福岡の音楽に対する「熱」を肌で感じられたトークイベント


実は、私自身は音楽を聴くことはあっても演奏したり、熱心にイベントに行くわけでもありませんでした。なので、実感を持って取り組むことができていなかったのですが、今回のイベントに出演いただいた方全員が熱を持ってお話しているのを見て、「音楽にはそれだけの力があるんだ」と感じることができたのが一番の収穫でした。

第1部では、「福岡の特性を活かした音楽都市の可能性」について、福岡の音楽文化をさまざまな形で牽引されている深町氏、髙山氏、ナイトタイムエコノミー推進協議会の齋藤氏、伊藤氏から「音楽が都市にもたらす影響力」「全国、世界から見た福岡の街の特徴」「福岡の音楽の歴史的背景を踏まえた特徴」について多方面の議論が交わされました。

第2部では、福岡で街づくりを行うディベロッパーやホテル運営者の花村氏、井上氏、岡本氏を交え、彼らが取り組む音楽をテーマにした街づくりの具体とその課題について議論が交わされました。

第3部では、1〜2部までの議論を踏まえ、行政、大学、広告代理店、街づくり協議会、音楽プロデューサーなどの来場者の方々とディスカッションを行いました。
各々の専門的な見地から、福岡のまちと音楽の関係を考えるさまざまなヒントが飛び出しました。

明確な結論にたどり着いたわけではありませんが、音楽都市としての福岡の特徴をよく表しているコメントととして……

祭りと音楽は切り離すことはできない。福岡は「のぼせもん」という音楽と相性のいい気質を持った人が多い

音楽スタジオの利用者から見ても、アマチュアミュージシャンの裾野が広い

夏には、官民連携による音楽フェスや民間事業者の音楽関連活動が毎週末開かれ、多くの人たちが楽しめる街である

といった話を聞くことができました。

先に音楽都市について調査した時には、あくまで音楽スタジオ、ライブハウスなどの「数」しか知ることはできず、そこでどのような人が活動しているかまでは分かりませんでした。
なので、やはり福岡の音楽文化に対して、これだけの熱量と知見を持ったさまざまなプレイヤーがこのイベントに集ったこと自体が「福岡は音楽都市である」とおおいに思わせてくれる要因のひとつと言えるのだと思います。

「文化」を知るためには「関わり続けること」が重要だと改めて感じた


今回のトークイベントでは、主に音楽イベントの主催者など「作り手」をお招きしました。ですが、音楽が成立するためには作り手だけではなく、聴く側、つまり「受け手」の存在も重要になるでしょう。音楽とまちの関係について、より深く考えていくためには、そうした多様な人たちにお話を伺いたいと思っています。

また、音楽がまちに浸透し活性化に繋げていくためには、常に触れられる環境があって、下図のような人たちがしっかり繋がっていて、関係を持つことが重要になっていくのではないかと思います。
「作り手」「受け手」と繋げてきた音楽という熱を今度はイベント主催者でも聴衆でもない「拡げ手」にまで浸透させていくと、音楽が真に文化としてまちに根付いた状態に近づくだろうと期待しています。私たちがそうした方たちの橋渡しのような存在になるために、今後も継続的に関わっていくことが必要だと考えています。

その継続的な取組みのひとつとして、2023年「福岡ミュージックマンス」[*1]のイベントのうち2日間にわたって行われた中洲ジャズ、九州ゴスペルフェスティバルについて、実行委員会の皆さまのご協力を得て調査を行うことができました。同イベントの参加者属性、人流、アンケートによる当日の支出額などのデータを収集し、分析を行っています。

上:中洲ジャズ。下:九州ゴスペルフェスティバル。イベント当日、現地に調査員を配置してアンケート調査を行った。

一方、こうした調査による研究分析も重要ですが、その中で福岡の音楽に関わる様々な方との出会いと、そこに掛ける想いを聴くことができるのが非常に興味深い経験になっています。最初に言ったように「文化」というかたちのないものを探求するからこそ、こうして継続的に関わりコミュニケーションしていくことが重要なのだと改めて感じ、今後も積極的に関わっていきたいと考えています。

*1. 「福岡ミュージックマンス」は深町健二郎氏プロデュースのもと、2014年に始まった取り組み。中洲ジャズ、九州ゴスペルフェスティバルを含む9月に福岡で開催される5つのイベントが連携し合い「音楽都市・福岡」を国内外へPRすることや、街の賑わい創出、音楽産業の振興が目指されている。