彼のおさいふ

彼のお財布の中をのぞき見するのがやめられないです。
時々不用心にキャビネットの上なんかにポーンと置かれているのを見ると、つい手にとって札入れのところを探ってしまうのです。

だいたい中にはつまらないコンビニのレシートやなんかが束になってるだけなのですが、たまに宝物が入っているのです。
宝物って、証拠のことです。
彼がうそをついた証拠が、時々つまらないレシートの束にそっと紛れ込んでいるのです。

小洒落たロゴの入ったレシートが出てきたら、それはかなりの確率で宝物です。
小洒落た、センスのいいロゴタイプを使うお店は、たいがい女の子が大好きな甘いものを売っているお店だったり、隠れ家みたいにひっそりしてるカフェだったり、男性がひとりで行くわけがない雑貨のお店だったりします。
そういうレシートは宝物です。

レシートの発行された日付と日時を記憶します。
その時、その日、私は何をしていたのか、彼はどこに行っていたと言っていたのか、ゆっくり思い出すのは後にします。
なんと言ってわたしをだましたのか。
おさいふを探っているところを見られないように、とにかく急いで記憶します。

レシートの順番を変えないように、お財布の置かれていた場所を違えないように、そっと、戻します。
お店の名前、レシートの発行された時間。
覚えておきます。
あとで、それらを思い出し、想像します。誰とそこに行きどんな買い物を彼がしたのか、その時の顔は服装は声色は。
髪は天気は靴はバッグは。
食べたものは飲んだものは探したものは。
そして、その笑顔を向けている先には。

胃の裏あたりがひりひりして、血の音が耳のなかでうるさくなるし、手足の先から力が抜けてきます。
でも、彼のお財布の中の宝物をさがすのはやめられないのです。
彼のうその証拠を、見つけるのはやめられないのです。
彼はわたしに上手にうそをついて、だましたつもりでいるのですが、わたしがこの宝物を覚えているかぎり、彼はわたしのものなのです。

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うそじぞう
ありがとうございますはげみになります 生活の足しに・・