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変えられるのは自分だけ

「こちらがどんなに頑張ったって、ひとは変わらないんだから。変えようと思わないこと。そして変わらないことで自分を責めないこと」と、私より50も歳上の先輩が言った。

そして、もうひとりの先輩は「私たちにひとの人生を変えるほどの力はないわよ」と。

ここ数年間、私はひとを変えようと頑張ってしまっていた。それは彼に対して。

彼はコロナ禍に転職活動を本格化させた。元々倍率の高い職種な上に、コロナが拍車をかけ、なかなか内定が出ず、1年、2年と時間だけが過ぎた。日を追うごとに、不採用の通知が来るたびに、彼は自信を無くしていった。「自分が悪い」や「もっと頑張らないと」が口癖になった。

当初は「私がついてるからきっと大丈夫」という謎の自信とともに、「あなたは悪くないよ。いつも頑張ってるよ」「夜はネガティブになるから、朝起きてから考えたらどうかな?」「家にずっといると落ち込んじゃうから、散歩でもしてみたら?」と、彼から相談されるたびに助言をした。私が言えば何かが変わると思ったからだ。でも、それは逆効果だった。言えば言うほど、彼は心を閉ざしていった。

私はどうしたら良いか分からなくなった。私が何かを言っても、それは全然響いていない。むしろ状況を悪くしている。その事実だけはたしかだった。

思い切って彼に聞いた。「私はどうやったらあなたを助けられる?」と。すると「いつも通りでいて」「何も言わず、ただ話を聞いてほしい」と言った。

そこでようやくハッとした。私だって落ち込んでいる時の過度な心配や助言は嫌だなと。むしろ放っておいて欲しいし、あなたに私の何が分かるんだと反発したくなるだろう。

私は助言をやめた。彼が話したい時にただただ話を聞いた。私にできることは何もない、彼を変えることはできない、この時に初めてそう思った。ずっとずっと「私は彼を変えられる。助けてあげられる」と思ってきたが、甚だ無理であった。ひとは変えられないを痛感した。

このできごとがあったから、先輩たちの言葉が胸にスッと入ってきたのだと思う。ひとは変えられない、変えられるのは自分だけなのだ。

彼が変わらないこと、状況が変わらないことにひどく落ち込んで、私は私を責めてしまったけど、その必要はなかったんだ。

彼との、この数年間は正直しんどかった。でも、私は無力であることを知った。ひとは変えられないことを知った。それは大きかった。このできごとがなければ、「変えよう変えよう」と助言を繰り返し、思い通りにならないことに落ち込み、自分を責めた挙句、彼のことが嫌いになっていたに違いない。「私の言うことを聞いてくれない彼氏」を作り上げていたかもしれないと考えるとゾッとする。そうなる前に気づけた自分にはなまるをあげたい。

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