噺の話〜死ぬなら今〜

落語のタイトルってのは案外いい加減で、最初からネタが割れてたりあらすじを縮めただけだったり雑なモノも多いです。
ガラクタだと思っていたが実は値打ちものだったと言う「火焔太鼓」「井戸の茶碗」
慌て者(粗忽者)の侍が他家に遣いに行って騒動になる「粗忽の使者」
夜這いをしようとした男が吊り棚を壊して担ぐ羽目になり言い訳をする「引っ越しの夢」など。
以前に紹介した「天狗裁き」なんて最後に天狗は出てくるけど、実際に天狗が裁く訳じゃないし…
これは落語のタイトルってのは元々楽屋内での区分の為に付けられたもので、客に向けてのものではないから…だとか。
まぁ実際テレビで見る分にはテロップが出るけど寄席ではそんなものはないし、事前に演目を決めておく会ってのは特別で、噺やテーマの被りを防ぐ為に普段はその場で決めるからなんだそうな。

そんな中でも今回の噺は雑だけど、ちょっとシャレてる感じ。

──大富豪の吝兵衞さん、その名の通りに大変なケチで一代にして莫大な富を築いたのはいいが、病に臥せってしまい枕元に息子を呼んで遺言を残す。
「私はもはやこれまでのようだ…思えば今まで大変あこぎな事をやってきて随分と他人を泣かせてきた。このままでは地獄へ行くのは確実だろう。そこで私を埋葬する時、三途の川の渡し賃6文とは別に300両を一緒に埋めてはくれないか… “地獄の沙汰も金次第”と聞く。その金で極楽へ行きたいんだ…」
金は唸るほどある家ですから、息子も快く了解すると安心したのかポックリと逝ってしまった。

葬いも済ませて、いざ埋葬する段になって息子が約束の300両を棺桶に入れようとすると目ざとい親戚に見つかってしまい一悶着起きる。
親父の遺言ですからと息子が必死に説得するも、「天下の通用金を土の下に埋めてしまうなんてとんでもない!」と親戚が猛反発。
しまいには「お前の親父は”本物の小判”と言ったか?」などと言い出し、芝居で使う小道具の小判を埋める事で押し切ってしまった。

さて、当の吝兵衞さんは閻魔大王の宮殿へ。生前のあこぎな商売を片っ端から調べられて案の定、地獄行きの判決……が出る直前に閻魔大王の懐に100両の塊を滑り込ませた。懐の100両をチラリと見た閻魔大王。
「吝兵衞、そなたは大変あこぎな商売をして多くの人々を泣かせてきた。けしからん!…けしからん、が。一代でそれほどの財を成した事は褒めてつかわす」と、極楽行きを決めてしまった。
これに驚いたのが周りの鬼や獄卒たち。一斉に詰め寄るが吝兵衞さんが残りの金を配るとみんな黙ってしまった。

かくして吝兵衞さんは無事、極楽へ。

一方、急に大金を手にした閻魔大王や地獄の住人たち。仕事なんかしてられるか!とばかりに、あちこちで大豪遊。
その中の小判の1枚が回りに回って極楽へ流れ、極楽の役人の目に留まる。
「この小判の出所はどこだ?」
「はい、地獄でございます。なんでも急な好景気なんだそうで…」
「馬鹿者、コレは贋金だ!贋金を使うことは重罪であるぞ。そのような罪を罰する事が地獄の役目であろうに…けしからん、奴等を引っ立てい!」
…、ってんで地獄へ極楽の役人が押しかけ閻魔大王以下、地獄の住人をみんな極楽の牢獄へブチ込んでしまったので地獄はもぬけの殻。

なので、死ぬなら今。

#喜多濱亭

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