石の壁の向こうから

私は部屋に転がる「それ」を呆然と見つめた。
まだ乾ききっていない血溜まりの中に横たわる「それ」は明らかに死体だ。
しかし、この部屋は密室だった。

少なくとも5000年間は。

その間、出入りした者は誰もいない。
地下20mにあるここを掘り当てたのは私だ。
巨大な一枚岩を組み合わせた石室で、他に出入り口はない。

うつ伏せに倒れている彼は現地の粗末な服を着ている。
盗掘者だろうか…?
私の歴史的な発見に水を差した不届きものの顔を見てやろうと、彼の体を起こした。
次の瞬間、私は悲鳴をあげて飛び退いた。

彼には顔が無かった。

顔面の皮膚を全て剥がされ、むき出しの眼球が虚空を見つめている。
私は軽い吐き気をこらえて彼の体を探ると、小さな像が転がり落ちた。
翡翠だろうか?
彼の身なりに似合わない高価な像を手に取るとライトにかざす。
呼吸が荒くなってきた。
吐き気がどんどん酷くなっていく。
頭が、イタイ…

視界ガ ユガんデ イク…

【続く】

#逆噴射プラクティス

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