〈古塔の魔術師〉
──薪の弾ける音が暗闇の中に響く。
俺は愛用の長剣に薄く油を塗り、二、三度軽く振ってから鞘に戻す。
続けて背負い袋の中身を確認する。
ランタン。火口箱。油瓶。金てこ。木槌。楔。ロープふた巻き。乾燥肉。水袋。
全てをまとめて背負い袋に放り込み、手斧を右腰に吊るす。
あちこちを薄い鉄板で補強した鎖帷子が音を立てる。
「たかが田舎道士1人相手に大層なこった」
相棒の声に振り返る。
軽い革鎧に身を包んだ男がニヤニヤ笑いながら投げナイフを弄んでいた。
小剣を左右の腰に吊るし、弦を外した短弓を背負っている。
俺には意味がわからない呪物をあちこちに忍ばせているようだ。
「お前こそ」
「“グリフィンも群れからはぐれた羊を狩る”とも言うからな」
奴は放ったナイフをそのまま鞘に納め肩をすくめる。
「さて、どちらが羊になるのか…」
俺は月明かりに照らされた塔を睨みながら薪を焚き火に放り込んだ。
【続く】