噺の話〜心眼〜
以前買った落語のムック本がですね、なかなかレアな噺も載っていて重宝してたんですが。
ただこの本、「昔はこんなに素晴らしかった、それに引き換え現代はダメ!」な論調で書かれてるのがとても残念。安っぽい現代批判の叩き棒にして欲しくないんだけどなぁ…。
その中で引っ掛かった噺が今回のお題、「心眼」
かなりセンシティブな題材なので、今では放送に乗る事はまず無い噺です。
ある日、按摩の梅喜がただ事ではない様子で帰宅する。
心配した女房が事情を聞くと、治療の帰りに弟の家へ寄ったが目が見えない事に対して散々悪態をつかれたらしい。
「こんなに悔しかった事はねぇ…せめて片目でも開くように信心したい」と言う梅喜に女房は茅場町の薬師様を勧めてくれる。
翌日からさっそく日参し満願の21日目、願いが届いたのか梅喜の目が開く。
初めて見る風景に戸惑っている梅喜を見つけたのが治療で出入りしている大店の旦那。
信心の甲斐あって目が開いたとわかると、旦那はお祝いにご馳走しようと料亭に連れて行ってくれる。
その座敷に上がったのがその界隈では評判の美人芸者の小春。
酒が進むと小春は「昔から梅喜さんの事は気になっていた…目が開いていたら放っておかなかった」と、梅喜にしなだれかかる。
実はこの梅喜、役者と見まごうばかりの良い男。一方女房は人三化七(人が3割、化物7割)どころか人無化十のルックスだと聞かされた梅喜、すっかりその気になってしまう。
「あんな化物は叩き出して一緒になろう」と小春の手を取った瞬間、座敷に飛び込んできたのが梅喜の女房。
「目が見えなきゃ女房で、見えたら化物かい⁉︎」
旦那から梅喜の目が開いた事を聞かされ、駆け付けていたのだ。
怒り狂う女房に梅喜は「いや、違うんだ、これは…━━
━━……ってところで目が覚めた。
全ては夢の中での出来事…もちろん目は見えぬまま。
「…おっかあ、俺、日参も信心もやめるわ」
不安そうに声をかける女房に梅喜がポツリともらす。
「不思議なもんだなぁ…寝ている時の方が、よく見える」
…まぁこんな重い噺なんですが、この噺に対してのコメントが
“人には隠れた超能力があります。
そして誰もが持っていて、
伸ばせるのが想像力なんですね”
…え?待って、この噺って「目が見えなくても想像力があれば大丈夫」みたいな噺なの?
梅喜が日参をやめたのは「寝ていれば夢で見る事ができるから」なの?
梅喜が“よく見え”たのは人の本性だったんじゃないの?
蔑まれた事に憤っていた自分が、いざ立場が変わると「外見で女房を蔑んだ自分の浅ましさ」が見えたんじゃないの?
上っ面だけ見て綺麗事でまとめるくらいなら、取り上げなきゃよかったのに…