マンチェスター・シティ 選手名鑑2425

選手の並びは公式サイト準拠としています。
カタカナ表記は気分です。
主に2324シーズンの総評と、今後の展望中心です。

GK


33 スコット・カーソン Scott Carson
 一人目の選手でする話でもないが、スカッドというのはスタメンを組むためのものではなく、時として経営面の収支が絡んだり、ブランド戦略のためであったり、サポーターやスポンサーを期待させるためであったり、あるいはもっと現場単位で言うと個々の選手を納得させるために組むという側面もある。
 何が言いたいかと言うとカーソンはまさにその現場のための人材であり、ドレッシングルームのリーダーだ。全ポジションの中でももっとも序列の格差が大きいGKというポジションにおいて、三番手というのはもはや数合わせでしかない。そんな待遇であっても単年契約を受け入れ、メンタル面で他の選手を支え、ホームグロウンも満たしてくれる彼のような存在は感謝してもしきれない。昨季の最終盤に負傷してしまったエデルソンのメンタルケアをしたり、オルテガへアドバイスを送って残留に貢献したり、ピッチ外においても彼の功績は大きい。PSMでファンサービスとして少しだけ出場機会を与えるのもペップとの関係が良好な証だろう。昨季の優勝祝賀会で泥酔して暴れたという噂も聞いたが、あるいはそれもジャックやフォーデンの反面教師になるのかもしれない、というのは少々褒め過ぎだろうか。
 おそらく今季も彼の主戦場はドレッシングルームとなるだろうが、サポーターも選手たちもそれを軽視することは決してないはずだ。

31 エデルソン Ederson
 優れた選手であるのは間違いないがCL優勝を争うような局面ではトップオブトップではない、という不本意な評価が常につきまとっていた印象だが、三冠達成でようやく解放されたのか最近はいくらか伸び伸びとプレーしているように見える。そもそもその比較自体も同国代表のアリソンであったり、あるいはビッグマッチの鬼であるクルトゥワだったりと、世界最高峰の選手とシュートストップ性能だけで論じられているような部分があり、その点ではやや不憫なところもあるだろう。確かに本来は止められるはずのないシュートをセーブしてしまう、という点では人々の印象でもスタッツでも手放しにはナンバーワンと言えないかもしれないが、プレッシャーのかかる状態でも冷静に足元でのキープや適切なパスを選択できる能力であったり、ギネス級のパントキックでカウンターを一人で成立させたりという部分は文句なしに抜きん出ている。
 昨季はここにきてオルテガとのポジション争いが起こり、本人のパフォーマンスは落ちていないにも関わらず三冠GKらしからぬ局面になってはいたが、今のところはその状況をうまくバネにできているのではないだろうか。様々な言葉で揶揄されるくらいにはメンタルに定評のある人物なので、多少プレッシャーがかかったほうが調子が出るのかもしれない。
 さて、シーズンオフの間は移籍の噂がいくつか取り沙汰されていたが、個人的な見解を述べるのであれば正直なところ移籍タイミングではあると感じている。これ以上シティで成し遂げるものはないだろうし、シビアに見ればオルテガがいる以上給与の釣り上げも困難だ。ペップの契約終了も近づいていることを考えると、スカッドや戦術にも今後変化が生じるのは必然で、そうなった時に自身のプレースタイルがマイナスに働く未来もあるはずだ。ルベン、ロドリ、ストーンズといったポジショニングと足元に優れた舵取り役が近くにいなければビルドアップと飛び出しの成功率は落ちてくるだろうし、パントキックでのカウンターも相手がハーランド以外ではそう脅威にならないはずだ。そうなると別のクラブに移籍してみる、というのも今後の選手人生や引退後を考えると決してマイナスな選択ではないだろう。そういう意味では今季終了時に彼を取り巻く環境がどうなっているかが、ある意味シティというクラブの変革期を示す指標になるのかもしれない。

18 シュテファン・オルテガ Stefan Ortega
 何かと第二GKの質が問われた昨シーズンだったが、大車輪の大活躍を見せたのがオルテガだった。エデルソンがいなかったら間違いなく正GKになっただろうと断言できるだけのパフォーマンスがあり、足元も上手いビルドアップもできるシュートストップも上手いと文句なしだ。エデルソンとの違いは彼のような戦術レベルのパントキックがないことだが、その分シュートストップに関してはスタッツ上でもはっきりとオルテガの方が高くなっている。
 思い返すとこの第二GKという序列は明確に控えだったザック・ステッフェンは例外として、その前がクラウディオ・ブラーボ、ウィリー・カバジェロ、ジョー・ハートのドタバタ三国志をエデルソンが統一するといった経緯だった。本来であればビッグクラブのGKの序列争いというのは正GKに安定感があれば給与バランスを考えてもかなり起こりにくいはずなのだが、やはり起こる時は起こるのだなということを思い出させてくれる(もちろん負傷離脱で起こることもあるし、あるいはそれ以外の理由でごたつくこともある)。
 ともあれ昨季の目覚ましいパフォーマンスにより引く手数多であったところをまさかの残留となったので、その点は本当にありがたい話だ。身も蓋もないことを言えばエデルソンはいつか退場か大怪我をするような接触を頻繁にしているので、彼のような実力者がベンチにいるのは非常にありがたい。ただ年齢的にも世代交代を待っている暇はないはずなので、来季もまた争い続けるということは起こらないだろう。なんとかエデルソンもオルテガも納得できる落とし所を見つけたいものだ。

DF


25 マヌエル・アカンジ Manuel Akanji
 穴埋めのお買い得商品というのは芽を出しにくいというのは多くの人が持つイメージであると思うが、アカンジは出場時間が増えるにつれて順調に評価を獲得している例だろう。デュエルに強く、CBとSBを無難にこなし、足元もそこそこあって、フィジカルで守備ができてスタメンも控えも両対応と言ってしまえばとても使い勝手のいい選手だ。ルベンやストーンズと比較すればややスケールが小さいのは周知の事実であると思うが、ポジショニングやビルドアップなども改善されつつあり、現在の4CB体制においては計算しやすい重要な戦力である。
 ペップがやたら偽CBをやらせたがっている点に関してはまだ判断が難しいが、なんとなくもう一皮むけそうな雰囲気もあるので余裕があれば継続して試していきたいところがある。雑なことを言えばシティの伝統的にCBに必要なのは何かあった際の責任を誤魔化す能力なので(ラポルトやデミチェリスやコラロフの系譜だ)、一番学ぶべきはそこなのかもしれない。

6 ナタン・アケ Nathan Aké
 実は2020年から在籍していてルベンと同期、というと熱心なシティのサポーター以外は驚くかもしれない。そのくらい地味に控えの仕事をこなすうちに、気がついたらかなり序列が上がってきて頼れる戦力として計算されるようになってきたのがこのアケだ。対人能力とビルドアップ能力のバランスが良く、SBとCBをこなせるユーティリティ性も高い。さらにフィジカルを活かしてセットプレーでのピースになったり、最近では技アリのチャンスメイクも行うようになったりと進化が目覚ましい。
 無事是名馬や穴がないのが強みというのを体現しているような選手であり、SB事情やCBのコンディション問題等で最近ではかなりファーストチョイスに近い立ち位置にいる。気になる点は年齢くらいのもので、本人が望むのであればこのまま末永くDFラインを支えてくれるのは間違いないだろう。

3 ルベン・ディアス Rúben Dias
 表街道を歩み続けるDFの大黒柱であるルベンだが、かわいげがないほどにパフォーマンスは高水準で安定している。ドラマティックに選手評を作るのであれば多少なりともいじる部分を作ったほうがいいのだが、彼に関しては本当に何も思いつかないというのが欠点らしい欠点だ。
 そもそもこの10年のシティのCBというのはムラッ気の多い選手ばかりで、代表格であるストーンズをはじめ、ラポルトやオタメンディやらマンガラからデミチェリスに至るまで忙しなく序列を上がったり下がったりしていたのだが、ルベンに関しては加入してからずっとファーストチョイスであることに異論を唱える者は誰ひとりいないだろう。そういう意味では未だに新鮮味があるというか、ふとした瞬間にルベンの存在感に驚かされたりもする。
 モダンなCBとして必要な要素を全て持っているのはもちろんだが、強みはやはりサッカー脳と判断能力にあると思われるので、多少コンデイションやアジリティが落ちる時が来てもまだ長くやれそうではある。欲を言えば一回り若い相方をつけて彼のノウハウを今のうちに叩き込みたいのだが、ペップはその最適任であるはずのグヴァルディオルをサイドで使うのにご執心なので、そこはサポーターの理想とは違う現状なのかもしれない。

24 ヨシュコ・グヴァルディオル Joško Gvardiol
 おそらく昨季最も意外性の塊だった男だろう。最高評価額の若手CBとして待望の加入を果たし、誰もがルベンの相方として期待していたところをまさかのSB起用。しかも攻撃的ロールを命じられて果敢に駆け上がる姿はシティサポーターの度肝さえも抜いたはずだ。まだペップのご乱心かと昨季前半は盛んに囁かれたもののポテンシャルと適応力の高さは疑いようがなく、瞬く間に戦力としてフィット。そして昨季後半は攻撃参加を模索した歯車が噛み合ってついに隠された素養が開花し、一時は点取り屋としてFWばりの働きを見せて再度世間を騒がせた。最後はその対策で裏を使われて逆に足をすくわれることもあったが、それもまたサッカーだ。
 かつて一世を風靡したカンセロロールとの違いはあくまでも守備は水準以上にこなせるという前提から逆算された動きになっている点で、これから先も微調整を繰り返しながら攻守の両立を続けるものかと考えられるが、ここで興味深いのが逆サイドでリコ・ルイスもまたラームの偽SBを発展させたような開花を始めている点だ。グバルディオルとリコ・ルイスの強みを両立させる戦術はペップが今季一番尽力する部分だと考えられるので、戦術的革命が再度起こる予感は既にぷんぷんと立ち込めている。

82 リコ・ルイス Rico Lewis
 これはある程度一つのクラブを追い続けてきたサッカーファンなら誰もが共感してくれると思われるのだが、やはり若手が育つのを見ている時ほど楽しいことはない。そしてその若手がアカデミー産であればその喜びはさらに格別なものになる。
 育成ノウハウ及びトレーニング理論の充実と戦術の進化によりますます若手の台頭があちこちで起こる時代になってきたが、シティにおいては今一番ホットなのは間違いなくこの若いSBだ。トップチーム帯同するようになってからは良くも悪くもシティ生え抜きらしい器用さに特化した攻撃的な選手という印象だったのだが、特に24年に入ってからの成長曲線が目覚ましく、出場時間を着実に増やしながらさらに試合の中で目に見えて伸びていく姿は驚異的だ。昨年のPSMと今年のPSMではまるで別人と言ってもいいくらいで、とにかく色々な場所に顔を出してスペース管理や組み立てのアシストやチャンスメイクのピースを担い、守備面でも高い判断能力と読みでフィルターと対人をこなしている。器用な若手というのは往々にして無難で安全なプレーか無謀で派手なプレーを選択しがちなのだが、リコ・ルイスの場合は全てのプレーが戦局に効果的に働くため、若手贔屓を加味しても傑出度はワールドクラスに近づいているのではないかとさえ思える。
 思えば攻守のキーマンとなるSBというのはジンチェンコとカンセロで見た夢でもあるので、彼がベストイレブン級の結果を残した時こそがペップシティの最大の野望の成就であるのかもしれない。

5 ジョン・ストーンズ John Stones
 もう世界中で語り尽くされた話題で申し訳ないのだが、コンデイションが万全であれば稀代の天才選手であるはずなのに、相変わらず連続稼働には耐えられない体を抱えている。隔年といったら聞こえはいいかもしれないが、要するにトップフォームを維持するという点においては資質が欠けていて、それを象徴するような一年をまた過ごしてしまっているのが現状だ。
 2223シーズンはCL決勝等で本当にストーンズ劇場と言えるくらいの圧倒的な存在感を見せていた結果、案の定2324シーズンはスタメン12試合の平均出場時間67分と絵に描いたような反動を披露。そんな彼ももう30歳で、今後も通年稼働は期待できないのは火を見るより明らかだ。前回もそうだったがEUROの年のストーンズは年間のSSP(スーパー・ストーンズ・ポイント)を使い切ってしまっているので、今季もだましだましやっていくしかないだろう。
 繰り返すが才能に関しては疑いようがなく抜きん出ているだけに彼を主軸にできないのは惜しい。ずっと課題になっているロドリの代役問題に関してもなんとかストーンズにならないかと妄想することもあるが、まだデブライネ(以降KDB)がやる方が現実味があるというくらいには、絵に描いた餅なのである。

2 カイル・ウォーカー Kyle Walker
 毎年恒例の偽SBできない論争や、年齢的にもう衰えている論争をひとしきりやった結果、なんだかんだウォーカーがいて本当に良かったとなるのが一連の流れなのは言うまでもないだろう。ここはもう持ちつ持たれつに近い関係性が出来上がってしまっており、イングランド代表でも同様なのでこれはもはや彼の持つ才能の一つだ。
 年々出場可能時間が減ってはいるのだが、それでも未だに早さとサイド封殺能力に関しては衰え知らずで、4CB状態のスカッドでは替えの聞かない存在であるのは間違いない。ここにきてプライベートが大炎上しているものの今季も頼りになるのは当然の流れで、あとはもう戦術面の理想と現実のギャップ埋めという役目を頑張ってもらう他ない。
 さすがにこれだけ鍛えられているとビルドアップやクロスも上手くなってきたなと思わされるシーンも度々あるのだが、そう思ったら突然またとんでもないロストや明後日の方向へのクロスを行うので、これもまた彼の立派な一芸なのである。

MF


52 オスカー・ボブ Oscar Bobb
 前述のリコ・ルイスと同じくアカデミー出身の若手かつ、髪型や立ち姿がどことなく似ている、という程度の印象しかトップチームに帯同を始めた当初はなかった。しかしニューカッスル戦でKDBからの針の穴を通すようなパスを完璧なトラップで受けると、そのままダブルタッチでGKを処理してゴールという離れ業を見せて一気に周囲の見る目が変わる。さらにPSMでは若手や控え中心のスタメンの中でウィングのポジションを攻守ともに卒なく遂行し、要所で見せた光るプレーと判断力は既に頭一つ抜けたパフォーマンスができることを証明した。EDSではマカティーやリアム・デラップ等と並び高い評価を受けていたようだが、今一番トップチームでのスタメンに近いのは間違いなく彼だろう。奇しくも同じポジションにいたパーマーがチェルシー移籍を期に何段階もステップを駆け上がったが、ボブもまたその片鱗を見せつつある。
 残念ながら開幕のタイミングで練習中に骨折。これで出場機会を失ったことによりコンデイションを整えている間に序列が下がり試合勘を取り戻せなくなってそのまま、というのはあらゆるクラブの若手に起きてきた現象だが、過密日程でターンオーバーが必要な終盤にこそもう一度救世主となってほしい。

17 ケヴィン・デブライネ Kevin De Bruyne
 悲願のCL制覇を果たしたもののピッチ上でまたも負傷し、そこからのリハビリ明けに再度手術。バロンドールに最も近いと評されてきたシティの王である彼も年齢的にそろそろ厳しいかと思われていたが、復帰すると何のことはなく抜群のパフォーマンスを披露し周囲の不安を一蹴して見せた。さらに髪型もイメージチェンジして渋みが出ており、これはこれで往年の名選手のようで似合っている。昔から長期離脱をするとそこからのトレーニングで100%に近い状態に仕上げて来ることに定評があったが、この年齢でも同じことができているのは脅威でしかない。
 しかしもう毎試合90分走らせるのは選手寿命を削る行為となるため、いずれにせよアフターKDBの備えは必要不可欠だ。離脱中はアルバレスが気を吐きフォーデンが殻を破るというポジティブな変化をもたらしたが、依然彼に変わる司令塔は出てこないし、それはおそらくシティのみならず全世界を通しても二度と現れない可能性すらある。ペップシティの象徴とも言える選手ではあるが実際にはKDBはかなり独立したタスクを遂行しており、トランジションにめっぽう強いという点ではまさに戦術の要なのだが、一方でたったワンプレーで敵味方の積み上げたものを吹き飛ばしてしまうような個の強引さがあった。チームの戦術に自分を合わせるのではなく、チームの戦術を自分中心に組み換えさせてしまうエネルギーを加入当初からずっと持ち続けており、そういう意味では最後のファンタジスタとも言えるかもしれない。試合中にペップの指示に対して怒鳴り返すようなガッツを持っているのも、今のところは彼くらいのものだ。
 ハーランドとのホットラインも永遠ではない、だからこそきっとこんなにも美しく見えるのだろう。

11 ジェレミー・ドク Jérémy Doku
「ドクの独特のドリブル」で流行語大賞を狙っているらしいと一部界隈で噂になっている、期待のニューフェイス。シティとしてはかなり久しぶりにこの手のやんちゃなウィングを取ったという第一印象で、いずれペップに魔改造されてしまうのではと密かに案じていたが、今のところは持ち味を残しつつ順当な成長ができているように見える。調子がいい時は全く手が付けられない突破能力とボールキープ技術を持っており、さらにカットインして良しスペースに走り込んで良しと見ていて飽きない。中堅下位相手にはドリブルの波状攻撃で圧倒、上位相手でも試合の空気を変えるアクセントとなり、加入間もない若手ながら既に大事なカードに成長しつつある。とはいえ不用意な判断や詰めの甘さで若さを出してしまうところもあり、やけくそ気味のクロスもシティだからこそ合わせられている部分がある。
 かつてマフレズもまた独特のドリブルを武器にしたウィングだったが、気がつけばペップに洗脳されてポジショナルマシーンに変貌したのも記憶に新しい。今後どのような選手に成長していくかはまだ未知数だが、できれば威勢の良いドリブルは残してほしいものだ。余談だが実はかなり顔がかわいいのではないかと加入当初からずっと思っている。

47 フィル・フォーデン Phil Foden
 フィルこそシティ、と長年言われ続けつつも目立ったキャリアハイを迎えてこなかった未完の大器が、ついに大爆発を起こした。しかもその爆発は想像したよりもずっと派手な形となり、最終的にシーズン最優秀選手にまでなったというのはシティサポーターの中でもなかなかの事件だっただろう。ペップを含め誰もが認めるトッププロスペクトであり、センスとテクニックからいずれは往年のシルバかイニエスタになるかという予想が大半だったが、彼らのように試合に魔法をかけるタイプではなく個の力で相手の戦術を破壊する理不尽兵器になってしまったのはもしかするとKDBのせいなのかもしれない。
 ともかく持ち前の技術とアイデアが狭いスペースで前を向いて仕掛ける方面で開花し、全コンペティションで52試合27Gと脅威のシャドーストライカーに成長。膠着状況を打破する凶悪なジョーカーとなったのが2324シーズンだった。前回のCL決勝でもKDBの代わりに中盤に入ると明らかに可能性を感じさせるプレーを見せており開花の兆しがあったのだが、まあそれにしても派手に爆発したものだ。傍から見ているとフォーデンにその時間やスペースを与えてしまってはだめだろうと半ば哀れみの目で見てしまう再現性の高いゴールを連発していたのだが、ピッチ上では絶えず繰り返されるハメ技と後出しジャンケンの中であの動きをされてしまったらわかっていても止められないのだろう。
 メッシとCR7が去ったあとの次世代のスーパーな選手像とは何になるのか、というのは人によって意見が分かれるところだと思うが、こうして中盤で有無を言わさず戦況を変えてしまうプレーをする選手がプレミアリーグの最優秀になるというのは感慨深いところがある。そしてこれだけ結果を残したのにも関わらず代表戦では鳴かず飛ばずで批判されるというのも、またいつもの典型的なイングランド人なのであるというところでオチがついた。

10 ジャック・グリーリッシュ Jack Grealish
 いつまでたっても株の乱高下が止まらないといえばこの男だ。ある時は歴代最悪の高額イングランド人になったり、ある時は現役ナンバーワンのタレントになったりと世界中の手のひらがドリル状に回転する毎日だが、結局のところ彼自身は良くも悪くも移籍してきた時から強みは一切変わっておらず、ただ単に時期と戦術によって重宝したりしなかったりするだけなのである。結果的に2324シーズンは序列が下がりコンデイションも上がらず代表も落選するという苦難になったが、個人的には価値もプレーの質も一切下がっていないように見える。
 キープ力と回収力によってハメ技継続能力が高いのは言わずもがな、守備も良いしエゴもないし現代的なWGとしてはイングランド人らしからぬ器用さと華麗さがあるのだが、いかんせん目に見えるようなゴールとアシストがないので叩かれやすいのは否めない。加えて悪童時代の煌めきがまぶしすぎたのもあって淡々と縁の下の力持ちをこなす今は守りに入っているように見えてしまい、愛すべきハンサムガイも身の振り方を考える時期が来ているようには見える。
 まあここまで来たらいっそいぶし銀になってミルナーのようになるというのも手の一つだが、そのためにはいかんせん移籍金や週休を無視はできないのである。お祭り男としてはぜひこれからもシティの顔を続けて欲しいのだが、不吉なことにこの役割の選手は長居できない歴史があるのだ(デルフとかメンディとか)。

19 イルカイ・ギュンドアン İlkay Gündoğan
 ペップ史上で初めて退団して1年で戻ってきた選手と、報道されていたがそんなのどのクラブどの監督であっても珍しいだろうと思う。悪い意味でフットボールゴシップの中心になっていたバルサでこの一年間何を見たかは考えたくないが、ともかく頼りになる男の帰還は嬉しいことにはかわりない。ギュンドアンの穴はギュンドアンで埋める、というのがシティの歴史上の格言になるのもそう遠くはないだろう。
 さらに言えば正直なところ中盤なら何をやらせてもできるタイプなので、ギュンドアンが復帰したせいで誰かが弾き出されるというのも実はあまり心配はいらない。その都度必要なところをやってもらえばいいというか、なんなら退団したアルバレスの代わりをそのままやってもらってもいいのである。ただロドリの代役は一部のトラウマが呼び起こされる可能性があるので、そこはできれば自重して欲しいという意見もありそうだ。
 とはいえ年齢も年齢なので再びクラブのために粉骨砕身してもらうというよりは、できるだけ本人が幸せになれるよう気持ち良くプレーさせてあげたいというところが本音だ。ペップにコーチとしての将来を相談しているという噂もあり、もしかするとペップの契約満了と共に一緒にそちらの道に進むのかもしれない。それこそ、かつてペップがバルサ退団後に指導者としての見聞を広める道を選んだように。
 しかしペップシティに移籍当初はリハビリの真っ最中で試合に出られず、出たかと思えばこれといったインパクトがないのに起用され続けたせいで愛人枠とまで評され、上手いのはわかるのにすごいのかすごくないのか良くわからない、という状態だった時期を思うと、こうして「帰ってきた最高のキャプテン」「悲劇の英雄」のような扱いを受けている姿はかなりのドラマ性を感じざるを得ない。引退したら自伝とか書いたほうがいいかもしれない。

8 マテオ・コバチッチ Mateo Kovačić
 ビッグクラブを渡り歩く天才肌。気の利いたスーパーサブ。あるいはグヴァルディオル獲得のためのエージェント。そんな様々な評価が飛び交う中で、シティでの最初のシーズンはまずまずの出来だったと言える。彼を活かす使い方がこれであっているのかはわからないが、中盤でせっせと戦況維持に勤しむ姿はなかなかの安心感がある。
 まだロドリの代役とするにはフィルター性能が足りず、ギュンドアンの代役とするには攻撃力が足りない、という意見が多いが、そもそもどちらも彼のタイプではなさそうなのもまた事実だ。ドリブルする自由を与えると水を得た魚のように元気になるところはちょっとストーンズっぽいのでそういう点ではシティらしい選手と言える。
 ともあれこのままだとペップの洗脳によりマシーン化する未来も見えるので、もうちょっと明るい顔でプレーさせてあげたいという気持ちはある。また、0か100かという大味な決定力に定評があったが、今季は開幕してすぐに年に一回レベルのゴールを決めてしまったのも心配だ。
 ギュンドアン復帰の影響を一番大きく受けるのは彼だと思うが、過去の例を見るに気がついたらSBをやらされる可能性も0ではないので、くれぐれもコンバートの誘いには警戒してほしい。ヘスス・ナバスなんてもう10年も前からずっとSBをやっています、みたいな風格を出しているのだから。

87 ジェイムズ・マカティ James McAtee
 ペップがわがままを言ってトップチームに残したがったらしい、が、実はこれも過去に様々な選手で散々やってきたネタなので信用度は低い。そもそもペップが目をかける選手の打率はそれほどでもない、というのが個人的な見解だ。ペップの選手評はロマンがすぎるかシステマティックすぎるきらいがある。
 昨季まで武者修行に明け暮れていたが、PSMで見た限りではちょっとしたシルバやKDB、あるいはフォーデンくらいには見えなくもないくらいになっており、狭いスペースでも気の利いた動きをしていた。とはいえ中央はライバルが多すぎるし、横に逃げても同世代でドクとボブとサビーニョがいるため容易な道ではない。
 例に漏れず今季はベンチウォーマーでたまに時間稼ぎで出場してお茶を濁すくらいになりそうだが、プレースタイル的にはパーマーのように環境を変えると飛躍するようにも見えず難しい。しかしチャンスが来るまで耐えているとその間に価格が落ちてステップアップの機会を逃すというジレンマもあり、ビッグクラブに在籍する難しさを感じてしまう選手だ。

27 マテウス・ヌネス Matheus Nunes
 これもまた恒例行事の、なんとなく素材はすごそうだけど必要性に駆られて取ってきたわけではない、というお買い得若手枠。色々できそうで器用ではあるしペップ好みであるのは間違いないが、今のところ適正がまだわからないのが現状だ。前目で結果を出しているので本質的にはその位置の選手には見えるが、選手層の事情を考えるとできれば後ろの位置ができると嬉しいし、ポリバレントに仕上げてみたいというロマンもあって難しい。
 あとはもう本人が悔いのない選択になるよう祈ることしかできない。モデルケースとしては比較的ギュンドアンが近いのではないかと思うので、まずは彼と一年間一緒にやってもらうところから始めたい。一番学ぶべきは、強靭なメンタルだろうか。断念したパケタの影がちらつく点に関しては触れないであげて欲しい。

32 マキシモ・ペローネ Máximo Perrone
 期待の若手枠であり、今期もローンで貸し出しに。比較的小柄でアルゼンチンで中盤の底の選手ということでなんとなくマスチェラーノ感があるが、まだトップチームではPSMでしかプレーしておらず判断が難しい。
 この枠は個人的にかつてアレイクス・ガルシアに期待していたことがあるが、現時点での印象としてはほとんど変わらず、悪目立ちもしないが目を見張るものもないという印象。何かきっかけがなければトップチームでのレギュラーは難しいだろう。昨季のラス・パルマスはリーガなのでともかく、今季セリエAでプレーすることがどこまで良い経験になるのかが重要だ。
 ともかく顔を売って価値を少しでも高めてさっさとどこかに移籍して定位置を確保する、というのもプレーヤーとしては大事な戦略なので、シティフロントの売却方針的にもそういう日が来たら背中を押して応援してやらなくてはいけない。もちろん彼がロドリの後釜になるのはロマンがあるが、いつまでも若手で未来の皮算用をするのもやめた方がいいのかもしれない。しかしサッカーファンというのはいくつになってもそういう生き物なのである。

4 カルヴィンフィリップス Kalvin Phillips
 初手で批判して大変申し訳無いがかなり厳しいと思う。正直なところ加入してきてから一度も前評判通り輝いて見えたことがない、というのが本音。コンデイション面であったりロドリという高すぎるハードルがあったりと擁護もできるのだが、それにしてもこの二年間で鬼気迫る様子を一度も見つけられなかった。PSMでは苦肉の策でCBで起用されてまあまあいいんじゃないかと言われていたが、若手中心の試合でまあまあという評価は逆に気の毒だと思う。
 サウスゲートもやたら執着していたがカタログスペックで言えば魅力があるのは確かなのだ。ただしいざ出場機会が巡ってきても覇気のないプレーを行い、ロドリ不在というチャンスでもまるで起用もされないということは、つまり日頃のトレーニングからしてもう期待されていないということなのかもしれない。
 今季は昇格組のイプスウィッチ・タウンにピンポイント補強で白羽の矢が立ってレンタル移籍。ここで男を上げることができなければ、もうあとはフェードアウトの道しか残されていない。ビジネスマンに徹するのであれば無理はせず資産運用に手を広げてのらりくらりと渡り鳥になるのも一つの手だろう。

16 ロドリ Rodri
 バベルの塔のような無敗神話を築いてきたが、FA杯決勝でついに終了。しかしプレミアリーグではまだ記録継続中となり、最後の敗戦は2023年2月5日。ほぼ全ての試合でスタメン出場しながらこの数字というのはシティの勝率を加味しても明らかに出来過ぎで、しかしながら本人のパフォーマンスも凄まじいことから本当にロドリが敗北を防いでいると言っても過言でないのがまた興味深い。
 もう彼の凄さに関しては言うまでもないので割愛するが、結局代役がいない問題に関しては解決の糸口すら見つからないまま三年目に突入してしまった。しかしそもそも現在世界最高のDMFとして君臨する彼の代わりを見つけるというミッション自体が既に実現困難な域にあり、超えなくてはいけない壁が高すぎて誰もついていけないというジレンマに発展しつつもある。
 ここまでくるともう代役や後釜の確保を目指すのではなく、ロドリというシティにとって都合の良すぎる男を一旦忘れて、彼に依存しない編成をまた一からやり直すほかないのではという予感さえする。しかしかつてはジーニョからロドリへと移行の時にも似たようなことを感じていたので、また同じようなサプライズが起こらないとも限らない。フィリップス含め次々と代役候補が落選していくのを見るとやはり一度でいいからKDBにもやらせてみてほしいという気持ちになるが、エデルソンをフィールドプレイヤーに使うのと同じくらいには机上の空論であることは言うまでもない。

26 サビーニョ Savinho
 ギュンドアンの復帰を除けば今季唯一の補強選手、ただしCFG内での人事のため全くの新規スカウトではない。2324シーズンのジローナの躍進の一端を担ったということで活躍はもちろん知っていたが、それにしてもシティのユニフォームに袖を通してから順応するまでが恐ろしく早かったことにまずは驚いた。若いブラジル人タレントというと直近ではジェズスを思い出すが、サビーニョはまた違ったタイプの選手であり、具体的にはアジリティ面で欠点を抱えていた前者に対してサビーニョはそこに明確なストロングポイントがある。オフザボールの動きや周囲のレーンとの連携は既に基礎がグループ内で身についており、さらにドリブルにキレとリズムがあって対面に既に脅威を与えることに成功している。こう書くとドクとも似ているように見えるが、ロマン重視がドクで地に足がついているのがサビーニョという印象。
 背番号も含めボールの扱いがマフレズに似ていると言われており、確かにレスターでブイブイ言わせていた頃の彼を思い出す部分があるが、そうなるとペップの魔改造を受ける運命にある。
 ややコンデイション面に不安があるようだがボブが離脱している今がチャンスなので、リコ・ルイスやウォーカーと連携を高めて既成事実を作ってしまうのもいいかもしれない。それにしてもトロワ→ジローナ→シティという本社栄転コースなせいで移籍金が安く、今のところすこぶるコストパフォーマンスの良い補強となっている。あまり活躍するとまたスキームを叩かれそうだが。

20 ベルナルド・シルバ Bernardo Silva
 毎シーズンオフの恒例行事となっている移籍匂わせからの逆転残留をなんと今年は行わなかった。さすがに天丼がすぎるとアドバイスがあったのかは定かではないが、あるいはギュンドアンの悲劇を見て何か思うところがあったのかもしれない。
 この5年くらいは常に彼がペップシティのコアパーツであったのはサポーターであればほぼ異論がないところだと思われるが、そんな指揮官の契約満了が近づいている以上彼もそろそろ身の振り方を考える時期には来ている。ギュンドアンの復帰やリコ・ルイスの台頭、ボブやサビーニョといった気の利いた選手が右に定着しつつあることにより過労死体制も改善の兆しがあるが、戦術や選手層や役割がいくら変化しようとも彼の超人的なハードワークやあらゆる仕事をこなす稀有な才能は常にピッチ上の脅威であることには違いない。似たような運動性能とユーテリティ性を持っていたアルバレスの移籍により、今季も変わらず出番は多そうだ。年齢も30歳ということでなるべく無理はかけないようにサポートしていきたい。

FW


9 アーリング・ハーランド Erling Haaland
 すごすぎて一周回ってすごくなくて、そこからさらに一周回ったターンに来ている。53試合52Gに対して45試合38Gになったから期待外れ、というのはもうCR7クラスでないと言えない言葉であり、だいぶ無茶を押し付けている感があるが結局はビッグマッチでヒーローにならないという印象の問題なのだろう。極論、リーグを勝つには勝てる試合で早めにオーバーキルしてターンオーバーに移行できる選手の方が重宝するので、満を持してやってきた優勝請負人としては実に正しいのである。ビッグマッチで理不尽ガチャを回すのはペップが生んだ他のマシーン達の仕事だ。
 初年度の圧倒的な「本物」感から、KDBの長期離脱や徹底的な対策によりやや苦しんだ昨季を経て、今季はまた相手にとってはノーチャンスな理不尽ゴールが復活しつつある。凶悪なショートカウンター適正やDFとの駆け引きから一瞬でマークを外す動きが武器なのはもちろんだが、ミドルレンジから身体能力でゴールをこじ開ける動きを増やすことで、降りてきた時やポストをした際に相手に迫れる選択を増やすことができ、その結果短い時間でシュートまで持っていけるという彼の強みがさらに活かせるようになる。
 デカい早い強いという印象が先行しがちだが、少ないタッチでボールをシュートしやすい位置へ持っていくテクニック、通常ならば不可能な体制から強引に振り抜く柔軟性とパワー、そして状況に応じてニアもファーもループも股抜きも選べる冷静さが彼の最大のストロングポイントだ。アルバレス移籍により控え不在という絶好の環境となっているが、ここで安住を見出すのか貪欲になるのかは本人次第だ。もちろんその結果が近い将来のさらなる移籍に繋がる可能性はあるが、まだ全容を見せない彼のスケール感を我々の物差しで小さく見積もってしまうのは余計なお節介であるのかもしれない。


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