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【小説】(13)ダンサーインザメイクルーム【ゾンビナイト】

この仕事を始めてから、意外だったことがある。ダンサーというからには、陽キャの巣窟で同じパークでダンサーやってるからには仲間っしょ!終わったら飲み行こうや!と初対面からグイグイと肩を組んでくるような人ばかりのイメージだったのだが、

「そんな人ばかりなわけないでしょ!」

「あ、オラフさんお疲れ様です!」

「そんな人達ばかりだったら、僕もやっていけないよ。“一部”を除いて意外にダンサー達の交流はなくて、サバサバしたものだよ!」

「意外にそうなんですね。意外に普通のバイトみたいな感じなんだなぁ。」

「特にゾンビナイトはそうなのかも。普通の学生でやってみたくてやってる人もいるし。普段の人気のショーとかは、プロ意識のある人だったりも多いから、横の繋がりもすごくあるみたい。」

「それがさっき言ってた“一部”ってやつですか?」

「そうだね。事務所に所属したり、ダンススタジオやってたり、所謂プロって人達はみんなでイベントやったりもしてるみたい。僕らみたいなエンジョイ勢には関係のない話さー。」

「プロかぁ〜。そんな人達もいるのに僕なんかがどうして合格出来たんだろう。今年は定員割れとかだったのかなぁ〜。」

「カッピーはダンスも上手だし、真面目そうだから良さそうってパークの人も思ったんじゃないかな!顔もかっこいいし!」

「え?そうですか?かっこいいかなぁ〜、いや〜照れるなぁ〜。」

「よっ!イケメン!かっこいい!ダンスが様になるねー!ひゅっひゅー!」

オラフさんが手をひらひらとさせて、僕を囃し立ててくる。お世辞もあるだろうが、オラフさんに褒められて正直悪い気はしなかった。とても嬉しい。こんなに楽しい経験出来るのだから、オーディションに合格できてよかった。オラフさんとも出会えなかったわけだし。オラフさんに囃し立てられながら、手を振り上げよいよいとお祭りのように踊っていると、後ろから声が聞こえてきた。

「カッピーが合格したのは、たまたま今年のゾンビのイメージと合っただけって設もあるけどねー。」

そう言いながらハナさんが話しかけてきた。

「カッピー、そんなにイケメンって感じじゃないし。ダンスもよくミスするしね。それに緊張しぃで、本番に弱いし。」

ショック。さっきまでのオラフさんからの褒められが嘘のような辛辣な言葉を受けた僕はしゅんとしてしまった。お祭りのようによいよいと振り上げた手をパタンと下におろして、ただ立ち尽くすしかなかった。やっぱりそんなにイケメンじゃないんだ…。

「カッピー!落ち込みすぎ!じょ、冗談だって!カッピーはゾンビダンサーに向いてると思うよ!真面目だし。ほんとほんと!」

「ハナさん!カッピーが落ち込んじゃったじゃない!言い過ぎだよ!」

「…」

「カッピー!かっこいい!so cool!この前、カッピーを推すって言ってた投稿見たよ!」

え?聞き捨てのならない言葉が聞こえた。

「あ、あの…僕の推しがいるって本当ですか?」

「あ、え、あのー見た気がするというか、そのー、ね?見た!見たんだって!じゃあ!」

明らかに焦ってますといった様子でハナさんはツッタカターと逃げていってしまった。

「オラフさん…。僕メイクに行ってきます…。」

「あ、カッピー。僕も行くよ。そろそろ時間だし。」

〜〜〜

メイクルームへとやってきた僕ら。ゾンビのメイクへと変貌しながら、ふと考えていた。

この仕事を始めてから、意外だったことがある。ダンサーというからには、陽キャの巣窟で同じパークでダンサーやってるからには仲間っしょ!終わったら飲み行こうや!と初対面からグイグイと肩を組んでくるような人ばかりのイメージだったのだが、

「よぅ!カッピー、元気にやってるぅ?」

あれ?気のせいか?

「おいおい!カッピー!無視すんなって!カッピーだろ?おい!」

声の主の方へと目を向ける。そこには、金髪の男がいた。とても自然な口角の上がり方は、まるでティーン雑誌に載っている「異性にモテる口角のあげ方講座」を見て勉強しましたと言った感じであり、人生において挫折も屈折もしてきませんでしたと言ったようなギラリとした目をしていた。

まさかこいつ…陽キャ系ダンサーか??

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