![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172348697/rectangle_large_type_2_88590d6b2836e65a36f4f5fd15fe327c.jpg?width=1200)
【小説】(11)ビッグボス-2【ゾンビナイト】
「はぁ〜。」
ビッグボスは休憩室で頭を抱えていた。まさかこんなに真っ直ぐにため息をついてしまうとは。UPJで働くスタッフが一年で最も忙しく大変になる季節、秋。秋にはゾンビナイトという、ハロウィンにちなんだ夜にゾンビが出てくるイベントが開催される。何故だかこのイベントは超人気なのだ。正直、私は何でこんなに人気なのか分からない。ゾンビをなんでそんなに見たいのか。しかもゾンビが1時間に一回音楽に合わせて踊るのだ。なんで?なんでゾンビが踊るの?それを見て何が楽しいの?謎が多いが、とにかくこのイベントが超人気なのだ。
去年の様子が今でも脳裏に浮かぶ。パークの中の道という道が人で埋め尽くされ、おしくらまんじゅうの様になっているゾーンもある。何度も人が将棋倒しになってしまうのではないかと肝を冷やした。それを防ぐためにパーク内を駆けずり回って、人の動線を確保したり、注意して回ったり。年を重ねる毎に人の数が増えていき、正直参っている。対策してもしても人が増えていくのだ。お手上げである。
そんな中、先日上司から「今年はゾンビナイトをオールナイトでやるぞー!」と意気揚々と宣言された。馬鹿な!あの大変なイベントをオールナイトで?スタッフは確保できるの?人の規制はちゃんとできるのか?ニマニマしながら、これは盛り上がるぞーと能天気な笑みを浮かべる上司を見ながら、もう既に私は卒倒しそうであった。
「しかもそのオールナイトの真ん中に特別イベントをやるぞー!」
は?特別イベントぉ〜?やるな!そんなもん!オールナイト営業という、ただでさえいつもと違う大変な事態の上に特別イベントを行うぅ〜?そんなのスタッフの手間が爆増間違いなしである。
「あの、正気ですか?ゾンビナイトってだけで、大変なのに。それにオールナイト、更に特別イベントって!無茶です!無茶苦茶です!」
「まぁでも、お客さんたちが喜ぶことしてあげたいじゃない。それに、この前のオールナイト営業。めちゃくちゃ好評で、またやってください、ゾンビナイトでもやってほしいですって声があったから、GOのサインが出たんだよ。」
GOて。勝手にGOだすなー!GOは現場のスタッフの意見聞いてから出せよ!どんだけ大変かわかってるんですか!と思わず声が出てしまった。すいません、取り乱してしまいました。と謝ると、上司もまぁ気持ちは本当にわかるんだけど。と言いながら、背中をトントンっと叩いてきた。それをスッと払いのけるとシュンとした顔になり、更に付け加えるように言った。
「特別イベントも盛り上がること間違いなしだからさ、なんと言っても今年のゾンビナイトのテーマソングを歌うノベルナイトさんが生演奏で披露してくれるんだよ。あのノベルナイトだよ!」
えっ、あのノベルナイトが?ノベルナイトってあの?ノベルナイトというのは、去年『ゾンビになっても君を愛すカラ』という純愛×ゾンビのドラマで、主題歌を歌い大流行したバンドである。私も毎週そのドラマをみて泣いていたファンの1人である。最終回にゾンビになったヒロインを主人公が抱きしめてキスし、共にゾンビ化するシーンは日本中を感動の渦に包んだ。そのシーンのバックでも主題歌である『死んでも本気愛』が壮大なオーケストラアレンジで流れ、感動したのを覚えている。
「今年のテーマソング、ノベルナイトさんなんですね。そ、それは確かに盛り上がるかも。」
「だろう?だからさ、そのイベントも成功させて、パークを盛り上げていきたいわけよ。動員数も過去最高を目指そうって上層部も盛り上がってるからさ!色々頑張っていこうよ。」
「ちなみに、そのイベントってちょっと見れたりしますか?ノベルナイトのファンなんで、生演奏してるところみたいなーなんて。」
「もちろんだよー、ショーが始まってしまえば大きなトラブルでもない限り大丈夫だよ。見回りしてるふりして眺めるくらいなら!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
じゃあよろしく頼むねーと言いながら、上司は去っていった。さて、どうしよう。とりあえず頑張るしかないか。なんてったってパークを楽しむお客さんの為、だからな。頑張らないと。その後すぐに私はゾンビナイトのオールナイトのために、やるべきことをリストアップする作業を行なっていた。よし、頑張るぞ。