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【小説】(10)ニンジャさんについて【ゾンビナイト】

前回→9)ビッグボス-1

「とんでもない奴がいるものなのよ」

ビッグボスがスマートフォンをコトリと机の上に置き呟いた。ガラスの画面の端に亀裂が入っている。そのうち買い替えなければと思ってから、随分と時間が経ってしまったように感じる。数秒沈黙が続いたのち、これは独り言じゃなくてあなたに話しかけてるのよ、とでもいうように隣に腰掛けている若い女に目線をクイっとやる。若い女もそれに気づき、慌てて姿勢を少し起こして声をかける。

「ど、どうしたんですか?」

「前にオールナイトパーティってイベントがあったでしょう?あかねちゃんもシフトに入ってもらったでしょう?」

あかねちゃんと呼ばれた若い女性が、キャッキャッと笑いながら話し始める。

「あぁ、はい!あのパークが夜明けまでずっとオープンしてて、アトラクションに乗り放題の?あれは盛り上がりましたねー!」

「盛り上がったのはいいことなんだけど、その時に少しトラブルがあったのよ。知らない?」

「えっ、知らないです。なんですか?」

「あかねちゃん、ニンジャってアカウント知ってる?」

「はい、たまに見てますよー!UPJオタクのずっと通ってる方ですよね?パーク内でお見かけしたこともあります。」

「そう。そのニンジャ。あの人がオールナイトの日に忍び込んでたらしいのよ。」

「忍び込んでたって…?そんなこと可能なんですか?」

「残ってるゲストの追い出しをしてから、オールナイトのゲストを入場させてるから不可能なんだけど、どうやら隠れてて難を逃れたって話が…このネットの掲示板に書かれてて。」

そう言ってビッグボスはあかねちゃんにスマートフォンの画面を見せる。そこにはパークの愚痴や不満などが書かれているようだった。ビッグボスはこんなものも見ているのかと思いつつ、ここよここと言って指さされた箇所を読んでみる。

『ニンジャの奴、オールナイトの招待落ちたって言ってたのに当日見かけて幻かと思ったw』

『ニンジャは忍び込めた武勇伝を語ってたなー。裏ワザがあるのよーって、パークは取り締まれよ。』

ほらね?と言いながら、スマートフォンをしまうビッグボス。あかねちゃんは考えながら、疑問を口にだした。

「でもこんなネットの掲示板の情報なんて、信憑性なくないですか?実際に証拠があるわけでもないんだし。」

「私もそう思ったんだけど、何だか気になって。オールナイトの始まる前後のパーク内の監視カメラを見てたのよ。そしたら、これ。」

と言いながら、タブレットの画面を見せてくるビッグボス。画面には、暗いながらもぼんやりととあるストリートの様子が映し出されていた。

「今のところ特に変わった様子はないですけど…」

「もうすぐ!!!ここよ!!」

いきなり大声を上げたビッグボスにびっくりしつつ、画面の奥の方を見てみると、突如として壁がめくれ、人のようなものがスッと現れて画面右の道へと消えていくのが見えた。

「えっ?これって?」

「間違いないわ。ニンジャだけに隠れ見の術ってわけよ。ちょうどこの位置が窪みになってて、気づかれにくいのよ。監視カメラでも暗がりになってて顔や姿は判別しにくいけど、おそらくニンジャで間違いないわ。」

「こんな、大胆な犯行すぎますよ!気づかれる確率だって低くないし、それにはっきりとニンジャさんかどうかわからないじゃないですか?」

「私もそう思って調べたんだけど、確かに招待ゲストのリストにニンジャらしき人はいなさそうだったのよね。でも、SNSには行ったような投稿をしてるのよ。」

ビッグボスがここまで調べ上げていることに驚愕しつつ、パーク内に一体何台の監視カメラがあってどれだけの映像を見たのだろうと疑問を抱いていた。ビッグボスは流石に全部見たわけじゃないわよ、とは付け加えていたが、すごい労力である。

「でも、これでどうするんですか?連絡して注意とか出禁処分とかにできるんですか?」

「流石にそれはできないわね。証拠も曖昧だし、そこまで大ごとになってるわけじゃないし。でもスタッフの警備や追い出しを注意深くする必要はあるわね。」

隠れられそうな場所をリストアップして、スタッフで共有しましょう、と言ってスラスラと喋るビッグボスを眺めながら、この人が今のパークを支えているんだなぁとあかねちゃんが思っているとビッグボスが続けて話し始めた。

「ここからが本題なんだけどね。」

次→キャラ紹介(3

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