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【小説】(12)アンダースタンド【ゾンビナイト】

前回→11)ビッグボス-2

ゾンビナイト初日からしばらく経ち、新人の僕もほんの少しだけゾンビナイトのことがわかってきた。

まず一つ。一緒に踊ってくれる子どもがとにかく可愛い。囚人ゾンビAという結構ゾンビゾンビした怖い見た目なのにも関わらず、近くに来てトタトタと踊ってくれる子どもを見るとほっこりする。親御さんであろう人がその様子を撮影している。僕からはお子さんの背中しか見えないがさぞかし、可愛い顔して踊ってるんだろうなと思いながらその姿を眺めている。

そして、その姿というのは意外にも僕にも確認する方法がある。その方法というのが、

「カッピー!これ見て!カッピーのダンスが投稿されてたよー。」

「ハナさん!本当ですか!リンク後で送ってくださいよ!」

そう。SNSに割とすぐ投稿されるため、自分のダンス姿と可愛い子どものダンスを親御さん目線で見ることができるのだ。それにしても、いつも見ていた動画にゾンビの格好をして踊っている自分がいるというのはなんだか感慨深い。

「カッピー、このダンスミスってるね。ほら。子どもの方がちゃんと踊れてるよ。」

ミスもちゃんと残ってしまうのが玉に瑕である。

そして二つ。常連さんは全く驚かない。ゾンビという役割をしているからには、道を歩いているお客さんをお化け屋敷の要領で驚かすのだが、バカなカップルなどは
「ゔぉあァアアァ!!」と驚かすと、

「きゃー!」
「おいおい、カオル驚きすぎだよ。俺が守ってやるから、安心しな。キラーン」
「ケンくん。素敵ー!ポッ」

などとリアクションをして、イチャイチャを見せつけてくる。正にお化け屋敷の要領である。これは正直微笑ましい。いつもなら、なんだこいつら。人前でイチャつきやがって。羞恥心とかないのか。とイラつきを募らせると思うのだが、これが案外驚かす側に回ってみると、教科書通りのイチャリアクションでも、こちらが仕事をした気分になり、満たされるのだ。これからも、どんどんこのリアクションをして彼女を守っていってほしい。ぜひ幸せになってほしい。

しかし問題は高そうなカメラを構える常連のオタクたちである。彼ら、彼女らはもうすっかりゾンビに慣れきっている。ゾンビのいる世界の熟練者達だ。こちら側のゾンビが決して一線を越えないことを理解し、自身の距離感を保ちつつ写真をパシャパシャと撮るのだ。僕も最初の頃は何とか驚かして仕事をしようとしていたのだが、全く動じない。一度渾身の叫びで「ゔぉあァアアァ!!」と驚かした時には、

「おーすごいすごい。どうしたー?」

と往なされてしまった。何だか少し恥ずかしかったのを覚えている。どうすれば良かったのかと反省している僕の姿を見てハナさんは、

「あんなに無理に驚かす必要はないよー!あの人達はああやって写真を撮ることが楽しみで来てるんだから。執拗に驚かしたりはせずに、軽くヴァア!位で行くのがいいよ。」

と言い慰めてくれた。そうなんですか、ハナさん。あの人達は僕を子どもが仮装してるみたいに穏やかな目で見てくるんですよ。僕はゾンビなのに。ハナさんは続けて、

「それにほら、常連さん達は私たちを綺麗に格好良く撮ってくれてありがたいんだよ。見てごらん。」

と言いながら、差し出されたスマホの画面を見るとものすごい高画質で映された僕の姿が映っていた。えっ、これが僕?今流行りの俳優でもアイドルでもなくて?こんなに格好良く写してくれるなんて。嬉しい。

「まぁカッピーはそこまで格好良くはないけど、すごい良く写してくれてるよね。本当に上手な人が多いねー。」

え?僕ってそこまで格好良くはないの?とショックを受けつつ、その日から毎日囚人ゾンビやゾンビナイトでエゴサーチをして自分の画像を保存する毎日であった。ありがとう常連さん達。もっと様になるようにカッピーがんばります。

そして常連さんにもまだまだ沢山のそれぞれの楽しみ方をする人がいる。ダンサー顔負けくらいキレキレでダンスを踊ろうとするおじさんや、推しのゾンビと同じ格好をしてアピールする人などこちらも見ていて面白い。各々が自分らしくゾンビナイトを楽しんでいる姿を見ると、いろんな人に愛されている素晴らしいイベントなのだなと思った。そんな中でハナさんがお勧めするのが、

「今日ラブさんいたね!今日はいい日だ、ラッキーだよー!」

そう、ラブさんと呼ばれる人である。ラブさんが何故ラブさんと言われるかというと、ゾンビに向かって手でハートマークを作り求愛するからである。いったい何故そんなことをしているのかは分からないが、毎年の恒例となっているらしい。大体いつもラブさんがハートマークでゾンビに求愛し、ゾンビに叫ばれ告白失敗というノリをやり続けている。ハナさんはラブさんとのこのノリを好んでおり、OKのそぶりを見せつついかに振るかという事に楽しみを見出している。ていうかラブさん。それをするために足繁くパークに通っているのか。一体何者なんだ。また、勿論ラブさんが求愛するのは女性ゾンビだけである。ちなみに僕が近づいて驚かすと、大袈裟にわぁ!と驚いてくれるので多分良い人なのだろうと思っている。

案の定ハナさんは、今日もラブさんを見つけるとラブさんの元へ向かい告白を振り続けていた。ハナさんもハナさんでそれの何が楽しいんだ。ちなみに1人のお客さんに過剰に絡んでいるとお客さんに優劣をつけるようで良くないとされるため、ビッグボスに怒られる。今もビッグボスがハナさんを睨んでいるため、今日もハナさんは怒られ確定である。ハナさん僕は辞めなさいと言いましたよ。

話は戻って、ゾンビナイトで検索していて気づいたことがある。このアカウントの人明らかに毎日来てないか?という人がいる。まさかと思って投稿を遡ってみると、ゾンビナイト開催前からもずっと毎日来ているようであった。

「あぁ、デイちゃんね。パークオタクなら知ってる有名人よ。」

「この人本当に毎日パークに来てるんですか?」

「私が働き出した10年前頃くらいからは間違いなく毎日来てるわ。パークのスタッフの誰よりも来てるわね、間違いなく。」

ビッグボスが言うのだから本当なんだろう。こういう冗談を言う人ではない。それにしても毎日?そんなことが可能なのか?一体仕事は何をしているんだ?そんなにパークが好きなのか?

「噂によるとどこかのお金持ちのお嬢様と言われているわ。ちびまる子ちゃんの花輪くんの家くらい広い家に住んでるという噂もあるのよ。」

「えぇ、何かパークの関係者とかってわけでもないんですか?」

「そういうことじゃないらしいわ。ただ好きで楽しんで来ているらしいわよ。ずっと来ているから、スタッフの誰よりもオタクの誰よりもこのパークの事に詳しいと言われているわ。ここだけの話、私も時々情報を教えてもらってるのよ。」

内緒よ内緒と言いながら、片目を瞑り人差し指を口に当てるビッグボスを見ながら、意外と愛嬌のあるポーズをする人なんだなと思っていた。それにしてもデイちゃんか。パークでよく見かけるなという人は沢山いるけど、一体どんな人なんだろう。すごく気になるなぁ。

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