【小説】（3）オラフさんと-2【ゾンビナイト】

「喋ってたら喉乾いちゃった」と言い残し、オラフさんはドタドタと自販機の方へ向かっていった。オラフさんが動いてるのを見るだけで、癒される。あぁオラフさんどうかそのままでいてほしい。一念発起してオラフさんがダイエット等してしまい、シュッとした見た目になってしまったらどうしよう。その場合あだ名もオラフさんじゃなくなるのか？痩せたら痩せたとして、雪だるまの方のオラフさんで突き通せるのだろうか。それはそれで見てみたい。オラフさんは痩せても太ってもみんなを癒してくれる稀有な存在なのかもしれない。

そして言われた通り、りゅうじん君について調べてみた。何万再生されている動画や何万いいねされた投稿が調べれば調べるほど沢山出てきた。その中のいくつかは僕も何の気無しに見たことのある動画だった。動画で見てみれば「あぁ、この人か。」と思った。リハーサル等の時に何回か見かけたことはあるが、その時はとても緊張していて、話すどころではなかった。

そしてオラフさんが戻ってくるなり、コーヒーの缶を僕に渡してくれた。
「良かったらあげるよ〜。甘い方が良かったら、僕のと交換してもいいよ〜。」
「いえ、そんな！申し訳ないです。これで大丈夫です。ありがとうございます！ご馳走様です！」

オラフさん。優しすぎる。優しすぎるけど、ちゃっかり甘い方を自分の方にするのは可愛い。甘いもの好きですもんね。オラフさん。

「りゅうじん君は人気で、彼が出る日はゾンビの出待ちも数がすごいんだよ〜。みんなりゅうじん君を追いかけていくから、他のゾンビが暇になるくらいだよ。」
確かに時々そう言う状況がある。人気な人がいれば、みんなそっちばかり見ていて僕の方を見ていないように感じる。
「それのもっと人気がとてつもないのが、りゅうじん君ってわけさ！」
なぜか自分のことのように誇らしげに話すオラフさん。ふふんっと鼻を鳴らしてにっこりとしている。

「でも何でそれで僕がりゅうじんさんのことで悩んでいると思ったんですか？」
オラフさんは「それはだねー。」と頬っぺたをかきながら、急に言葉に迷っているような表情になった。

さっきまでと違う空気に戸惑いながら、オラフさんの返答を待っていると背後から思わぬ声がした。

「ハズレって呼ばれちゃうのよ。」
驚いて後ろを振り返るとそこにはパークのスタッフの前田さんがいた。前田さんはゾンビを統括する係を行なっており、トラブルやゾンビの休憩時間の管理・人が混みすぎた場合の対処等をする役目を担っている。
前田さんが担当するエリアは、トラブルが少なくスタッフへの指示も行き届いている。後輩へ厳しく指導する姿から、ハナさんにビッグボスと呼ばれ慕われている。いやイジっているのか？

「前田さん、そこまで直接的に言わなくても〜。」
「遅かれ早かれ、カッピー君は目にしちゃうことだと思って。」
オラフさんと前田さんの会話を聞きながら、前田さんからカッピーと呼ばれたことに驚愕していた。え？この前まで本名で呼んでくれてたのに？何で急にカッピー呼びしてきたんだろう。いつのまにか距離が縮まったんだ？距離が縮まったことに喜ぶべきなのか、カッピー呼びがついにスタッフのビッグボスである前田さんにまで伝染したことを悲しむべきなのか。いや、そんなことより気になる話があった。ハズレとはどう言うことなんだろう？会話を続けている2人に割り込むように質問をしてみた。すると、ビッグボスが人差し指を立てて教師のように話し始めた。

「毎年のことなんだけどね。りゅうじん君じゃない日のゾンビをハズレって言ってるの。今年で言うとカッピーとりゅうじん君が同じゾンビ役で交互にシフトに入ってるから、カッピーがハズレシフト扱いになってるってわけ。」
要するにネットのよくないノリね。と言いながらビッグボスは頭を抱えていた。その目元には隈が見え、疲れている様子が窺えた。

なるほどつまり、僕の出勤じゃない日のシフト表に書かれていたのはりゅうじんさんだったのか。苗字で書かれていたのでわからなかった。道理で全く会わないわけだ。つまり、りゅうじんさんも囚人ゾンビをやっているということか。

実はゾンビと一口に言ってもたくさんの種類がいる。昔は一種類しか居なかったらしいが、今ではパークにいる数十種類全てのゾンビに違う役割と設定がある。僕とりゅうじんさんも正確には囚人ゾンビAという役名である。
ちなみにハナさんは囚人ゾンビB、オラフさんは殺人鬼ゾンビである。物騒な役名だ。

「そういう風にいう人もいるってことだから、あんまり気にしないでね。そこも含めてゾンビナイトの風物詩みたいなものだから。」
「そ、それにりゅうじん君と同じ囚人ゾンビAってことは、カッピーは期待されてるってことなんだ！AはエースのA。花形ってことなんだよ！」

と、オラフさんに褒められ悪い気がしなかった。AがエースのAということはないだろうが、そんなにすごい人と同じ役をしているというのは少し嬉しい。
「そんなこと、僕はあんまり気にしないから大丈夫ですよ。」
と言い残し、ゾンビのメイクをしに前室へと向かった。

気にしないと言いつつも、その日ゾンビの出待ちをしていた女性に「今日ハズレじゃん」と吐き捨てられた時は少し悲しかった。が、オラフさんが僕の仇を打ってくれるかのように、その女性をチェーンソーを持って追い回して驚かせまくっていた。ありがとう。殺人鬼ゾンビ。ありがとう。オラフさん。