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よく効く薬は苦くないかもしれない

「良薬は口に苦し」という言葉がある。

「よく効く薬は苦い」とか、「良い忠告は素直に受け入れにくい」というような言葉だ。

この言葉の困ったところは、「こんなに苦いのだから、きっと効くだろう」という期待を誘発させてしまうところだ。

誰だって、苦いのに効かない薬は、飲みたくないわけだ。

そして、それは薬に限ったことではない。

食べ物にしても、値段が高いものに対してはそれだけ美味しいことを期待するし、トレーニングにしても、負荷が強ければそれだけ強くなれることを期待するものである。

でも、実際にはそうじゃない。

例えば、料理に使うオリーブオイル。
オリーブオイルというのは、結構価格にバラつきがある。

安価なものもあれば、とても高価なものもある。

普通に考えれば、「値段が高ければ高いほど美味しい」と期待するわけだが、実際に舐めてみると一番美味しく感じるのは、最高級のものとは限らず、一般的な価格帯よりちょっと高いくらいのオリーブオイルだったりするわけだ。

これは、あくまでも私の主観によるものなので、味覚による要因もあるかもしれない。

もしかしたら、オリーブオイルに詳しい専門家なら、最高級のオリーブオイルの方が美味しいと判断するのかもしれない。

ただ、5,000円のオリーブオイルが、1,000円のオリーブオイルの5倍美味しいかと言われると、そういうわけではないと思っている。

なぜなら、値段と味は比例するわけではないからだ。値段が10倍になっても、10倍は美味しくはならないのである。

これは、コーヒーでも同じで、1杯100円のコーヒーと、1杯500円のコーヒーを飲み比べたときにも、5倍の美味しさを感じるわけではない。

ワインも同じで、1本1,000円くらいのワインと、1本10,000円のワインを飲み比べたときも、10倍の美味しさを感じるわけではない。

逆に、値段を伏せた2つのワインを飲み比べて、どちらが高いワインなのか識別できるかと聞かれると、私にはできる自信がない。

1本1,000円のワインと、1本10,000円のワインでは10倍の価格差があるのに、それでも飲み比べて識別することが本当にできないのだとしたら、その価格には何の意味があるのだろうか。

2つのワインを飲み比べてみて、美味しくないと思った方が、もし1本10,000円のワインだったとき、私たちはどう考えるだろうか。

「価格だけ高いばかりで、たいして美味しくない」

そんな考えには、ならないだろう。

ほとんどの人が、

「こういうのが、美味しいということなのだろう」

そうやって考えると思う。

結局、「高いものは美味しい」という概念に囚われてしまうと、自分の感覚なんて何の役にも立たなくなってしまうのだ。

「カッコイイからモテるでしょう」というのと、何ら変わりない。

そして、一度思い込んでしまったら、何がいいのかということをもう一度考え直そうとは思わないものだ。

「より苦しいこと、辛いトレーニングをすれば、道は開ける」という発想は、何も考えてないのと同じような状態なのかもしれない。

しかし、そうなると、高いワインの本質はどこにあるのか。

苦しいトレーニングの本質はどこにあるのか。

よくよく考えてみると、「高いワイン=美味しい」というのは、信念の一形態であり、ただの希望的観測に過ぎない。

世界最高峰の赤ワインとして有名なロマネ・コンティも、美味しいかと言えば、ほとんどの人が「まずい」と感じるのだという。

そうなると、私たちがお金を払っている対象は、「美味しいこと」に対してではなく「高価という情報」に対してということになる。

つまり、「高価という情報」を飲んでいるに過ぎない。

トレーニングも同じようなところがある。

月間1,000km走ることにどのような効果があるのかということよりも、月間1,000kmを走ったという情報に効果を感じるようになっている。

そう考えると、もう少しその中身を追求してもいいのではないかと思う。

安くても美味しいものがあるように、よく効く薬にも苦くないものがあるかもしれないし、同様に、楽しみながら強くなれるトレーニングだってあると思う。

そんな方法を見つけて、スマートに強くなる者こそ賢者だろう。

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牛山純一
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