朝一番「わたしに何か言うことない?」は最恐の誘導尋問
少し前の出来事なのだけど、飲み会の翌朝、寝不足の目をしばしばさせながらキッチンのカウンターで朝食を食べていると、奥さんが向かいに立って一言こう言った。
「わたしに何か言うことない?」
無表情で、感情はわからないが、FBIの捜査官に尋問をされているような緊張感(経験はないけど)。まだ覚めていない頭の中が真っ白になる。
「え、何かありました??」
恐る恐る聞き返すぼく。
「いや、わたしに何か言うことない?」
これ以上のヒントは与えてもらえない。振り返ってみよう。昨日の朝は平和に「いってきます」と言って出かけて、仕事をした。そして夜は飲み会があったので、奥さんが寝た後に帰宅している。何か言うことがあるとすれば、昨日の行動しかない。脳のエンジンを何とか起動させながら、奥さんが怒っていそうなことを探してみる。
「そういえば、昨日の飲み会は女性だらけでした」
「あっそう。それじゃない」
「しかも若い女性が多かったです」
「へー、よかったやん。でも、そんなんいいねん」
「ついつい、ニンニク料理を食べてしまいました」
「それはあかんな。でもそれじゃない」
「袖についたワインの汚れ取れてなかった?」
「あーあれ、残ってたけど別にいい」
飲み会で思い当たる粗相はそのぐらいしかない。飲み会以外か。
「仕事中にコンビニで買ったお菓子食べました」
「また太るやん。でも、それじゃない」
「昨日、電子書籍でこっそりマンガ買いました」
「別にいいよ」
「帰り、タクシー使ってしまいました」
「自分で払いや。それでもない」
まずい、隠していた秘密が漏れていく。もう観念するしかない。。
「えーーっとすみません。わかりません」
「いや、あのさ。傘、どうしたん」
「え、傘。。。」
「昨日持っていった傘、どうしたん」
「あーー、あーー傘ね。傘はえーっと、職場に置いてる。帰る時雨降ってなかったから」
「そうなん。ならええわ」
そう言いながら、洗面所のほうに去っていく奥さん。
「わたしに言うことって、それだけ?」
放心状態の中、絞り出すように、質問してみた。
「そうやで。でも普段の行動がよくわかったわ(笑)」
間違いなく、朝一番の「わたしに何か言うことない?」は最恐の誘導尋問だ。頭が動いていない中、ぺらぺらといろいろ喋ってしまう。実際、警察官が容疑者を拘束しにいくのは早朝が多いらしい。納得である。
でも、悪用はしないで欲しい。この世界の平和のために。
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