タワー様と一緒⑤その後の…モグラさん
(「僕とモグラさん」のその後)
「タワー様、明日のお茶のお茶請け、これなんかどうでしょう」
戦闘が終わって、落ち着いた頃を見計らって、タワー様と明日のお茶の打ち合わせをする。
僕は今はもうタワー様の付き人をしていないので、このようなことをしないのだが、明日はちょっと特別だった。
モグラさんのイカが亡くなったそうだ。
海の中という環境が合わなかったらしいというのと、イクラの摂取し過ぎで、中毒やら病気になっていたらしいのだ。
元々イカは僕たちよりも体が弱く、寿命も短い。
静かに冷たくなっていくイカの傍にモグラさんはずっとつきそい離れなかったそうだ。
そしてモグラさんはイカを飲み込んでしまったそうだ。
浮き輪になって戻ってくることを信じて。
その後はモグラさんは何も言わない。次々とくる出動要請に淡々と応じている。
そんなモグラさんに僕も何も声を掛けられない。
タワー様と一緒にお茶に誘ってみた。
タワー様にモグラさんは絡む。それは日常茶飯事の光景で、それだけタワー様の事を好きで気を引きたかったのかもしれない。好きの反対は無関心というから。
タワー様はモグラさんの絡みを一向に気にされてなかった。甘えたいという、モグラさんの本心を見抜かれていたのかもしれない。
モグラさんはお鍋だらけのタワー様の部屋で嘘のようにしおらしい。以前だったら皮肉の一つでも言っていただろう。
お茶請けにイカが好きだったというパンケーキを用意していた。
フルーツと生クリーム、アイスクリームをふんだんに載せたやつだ。
モグラさんはパンケーキを見ると言葉を詰まらせていた。
「…ありがとぅ」
普段お礼も言いそうにないモグラさんが絞り出すように言った。
僕はモグラさんとイカが一緒に戦闘がない日のドンブラコにいる姿を見たことがあった。二人とも一緒にいて嬉しそうにみえた。
このパンケーキを彼が見たら、食べるならどんな表情をして食べるのだろうか。それを見るモグラさんはどんな顔をするんだろう。
お礼を言うモグラさんに、ここにいない人を見る。それを思うとなんだか切なくて胸がきりきりと締め付けられた。
この日のパンケーキは、ほんの少しだけ、隠し味の塩味が、効きすぎた気がした。