二〇〇五年十二月二十二日の日記から
三、四日前、冷えたピザをぐにゅっと力を入れて噛んだら、下前歯の歯茎が痛むようになった。手で顎を触ると歯の根っこあたりが膨らんでいる。化膿したのだ。ブリッジや差し歯が数年前から外れてしまったが、でも歯医者に行くのは嫌で、新しい保険証が届いたにも関わらずここまで引っ張ってきたのだがもはやこれまでと思い、近所の歯医者に行った。
先生は前歯を裏側からごしごしこすりだした。
「ずきずきしますか?」
「いいえ、しません」。
ごしごしごし……。作業が終わって先生、「腐った神経と膿みをかき出しました。抗生物質と痛み止めを出しますから飲んでおいてください。今後は入れ歯でないと無理でしょう。前歯の治療が終わったらやります。全部で一ヵ月くらいかかります」。
歯医者ってピンからキリで、キリにあたったらどうしようと不安だったのだが、この先生はピンではないが慎重なようでまあまあよかった。しかし「入れ歯」かあ……ブリッジをつくった時も四本分ものブリッジを支えている歯は一本だけで、それこそ「断崖に橋をかけるような何工事」で、ここまでよくぞやったものだと思ったくらいだったからしょうがないかも。
ところでなぜ歯医者が嫌いかというと——好きな人はあまりいないと思うけれど——子供の時に行かされた歯医者さんが柔和で上品な外見とは裏腹に、痛い思いをしたことがあるのだ。
そんな不信の念から抜けきれないでいるところに映画『マラソンマン』を見てしまった。
「無事なのか!」とダスティン・ホフマンに迫る元ナチの極悪歯医者、ゼル博士。
「なんのことだ?」とホフマン。
「無事なのか?」とゼル博士。
「何いってんのかわかんないよ」とアンガールズのごとく、手足をバタバタさせるホフマン(イメージね、実際はイスに縛りつけられている)。
「無事なのか!」とまたまたゼル博士。
「ああ、無事だよ。いや、無事じゃないな〜。あ〜、無事かもォ」とアンガールズのようにヤケを起こすホフマン(だからイメージね)。
「これでも言わないか」と歯医者の七つ道具をかざして迫るゼル博士。ヒー。
今から考えると私が痛い思いをさせられた歯医者のH先生は耐震偽装疑惑の黒幕と言われた総研の内河所長にゼル博士を少し足して二で割ったような感じだった。私の歯医者恐怖症もむべなるかなと納得していただけることを期待する。