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私と彼女 -裏- #5


彼女はオムライスが好きだと言った。
じゃあ作ってあげるよと言って休みの日に彼女の家で作ってあげた。
洋食店で働いてて良かったなとこのとき初めて思った。

「はいどうぞ!」
とろふわオムライスがあまり好きじゃない彼女の為に少し多く火を通したのを作った。

「わぁ!美味しそう!」
すんごく嬉しそうで作ってよかったと思った。

「ん!うまい!!」

彼女が、口一杯に食べ物を入れてうまい!って言うタイプの子で良かったなと思った。
「ん〜!おいひ〜!(美味しい)」と口元を押さえて言う女が私はとても苦手だ。
そもそも「女子」と呼ばれるものがあまり好きではない。
自分があまりにかけ離れているせいかもしれないが。

その後も彼女はどこかのアニメのキャラクターのように「うまい!うまい!!」と言ってもぐもぐ食べてくれた。

そういえば、お客以外で誰かの為に作ったのって初めてかもしれない。
こんなに喜んでもらえるなら毎日だって作るな。

私も負けじと口いっぱいに頬張って「うまい!」と真似をして二人で笑った。


のほほんとして帰り道を歩いていると、目の前から車椅子の男性がやってきた。
その人は片手を上げて私にこう言った。
「久しぶり。」

一一兄貴だった。

私は逃げようとしたが「まって!」と言われ足が止まった。
「なんだよ、私なんかにかまけてる暇ないだろ?」

兄貴には兄貴の人生があるじゃんか。
私とは違う、兄貴の周りにはたくさんの人が居るじゃんか…。
私とは全く違う良い暮らしが…。

「お前のことずっと探してた…迎えに行くって言っただろ?」

「ば、馬鹿じゃねぇの?!そんな約束、私が待つわけねぇじゃん!」

振り向けない私の腕を兄貴が掴んできたが、私はそれを振り解いてしまった。
そうするべきじゃなかった。
ちゃんと前を向いて笑顔で「ずっと待ってたよ」と真実を言うべきだった。

「…だよな、ごめん。」と言い兄貴は来た道を戻って行った。

「…っ!」
追いかけろ!追いかけろ私…!

でも足は動かなかったーー。

すると、後方からすごい音がした。
クラクションと、急ブレーキの音と、なんとも言えない衝突音だった。

振り返ってみると、結構な人だかりができていた。

「まさか…!」

人だかりを掻き分けて目の前が開けたとき、トラックから少し離れた場所で車椅子と人が血まみれで倒れているのが見えた。

近寄ってみるとそれはやっぱり兄貴だった。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんしっかりして!!」
どうしよう、どうしようどうしよう…。
頭にはそればっかりで何も思い浮かばなかった。
…っせっかく会えたのに!
死ぬな、まだ死なないでくれ、頼む…。

「お兄ちゃん!!!」

まだ笑顔で話してないのに!
まだ待ってたんだよって言えてないのに!
私が、私があんな態度取ったから?

救急車で運ばれている時も私は兄貴を呼び続けた。

病院へ到着後、ストレッチャーはすぐに救急処置室に入っていった。

こんなのフィクションの世界だけだと思ってた。
きっと、嘘だ。これは悪い夢なんだ、だとしたら早く覚めてくれ…!

兄貴が処置室に入ってから数時間が経った。
1分がとても長く感じていたため、何日もここで座って待っている感覚だった。

看護師が何回か外へ出てきたため、その度に容態を確認しようとしたが「ここでしばらくお待ちください」としか言われずバタバタしている様子だった。


何時間経ったか分からない頃、医師が出てきて私にこう言った。
「とりあえず一命は取り留めましたが、予断を許さない状況です。何時でもご覚悟ください。」
私は深々とお辞儀し「ありがとうございます」と言った。


病室で兄貴の目が覚めるのを待ったが気づいたら寝てしまったようで、目を開けると朝だった。

「っ!!!兄貴!」

兄貴は目を覚ましていて、か弱い声で
「おはよう。」
と言った。

「あ、お、お兄ちゃん、何があったか覚えてるか?!」

「兄貴でいいよ、ちゃんと覚えてるよ。自分でした事なんだ。」
天井を見ながら少し微笑んでいた。
驚いて「死にてぇのか、バカなのか」と問い詰めると、
「両方だよ。」と自分でも呆れた様子だった。

少し沈黙が続いた後、
気づくと兄貴がこちらを見つめていたので、なんだよと聞くと、今度は涙を流し、私の手を握って
「大きくなったな、最後に会えてよかった。」
と言った。
「最後?意味わかんねぇよ。これからも会えるだろ?私、会いに来るから!」

意味不明な事を言う兄貴に戸惑っていると、急に心拍計がゼロになった。

「…?!兄貴?!兄貴!!しっかりしろよ!!」
急いでナースコールを押した。
すぐに看護師が来て状況説明すると慌てて出て行き医師を呼んできた。

蘇生措置が取られたが兄貴は目覚めなかった。

信じられなかった、怖かった、頭の処理が追いつかなかった。
人ってこんなあっさり死ぬのか?と思った。
兄貴の顔を見ると、そこには何も無いのがわかった。何かは分からなかったが、兄貴の身体の中にあった何かが確かにそこには無くなっていた。

不思議と涙は出なかった。
まだ受け入れるのに時間がかかった。


私は急に彼女に会いたくなって、連絡した。
兄貴と私の写真と、お守りを持って。

#5 -終わり-

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