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私と彼女 -裏- #6


その日はいつもと違う場所で待ち合わせした。
彼女が珍しく買い物に付き合って欲しいと言うので、普段より少しオシャレをして待ち合わせ場所へ向かった。

少し早かったかなと約束の時間15分前の時計を見ながら待ち合わせ場所へ行くと、彼女はもう既に到着しており、ベンチに座って本を読んでいた。

私の存在に気づかなかったので、「わっ!」と脅かしてみる。
声を上げる事もなく、びっくりして動かなくなったハムスターの様になった彼女に私はゲラゲラ笑った。
一瞬誰かわからなかったようで、「あっ」と気づいた途端こちらをめちゃくちゃ見つめてきた。
なんだこの視線は…流石にまずかったか…。
怒られるのを覚悟していた私だが、その口からは
「なんか今日、すごくいいね!!」
とお褒めの言葉をいただき、今度は私が驚いて言葉を失ってしまった。

すぐさま「行こっ!」と手を引っ張られダッシュされたので照れてる場合ではなかった。

自作の鼻歌を歌いながら歩く彼女に付いていくと、でっかい書店へ辿り着いた。
本といえば、紙媒体から電子へと移り変わりつつあるイメージだが、今だにこんなに大きな店舗があるなんて思わなかった。
「すご…」
私が呆気に取られていると、

「はやくはやく!こっちこっち!!!」

いつもよりテンションの高い彼女が珍しく急かしてきた。
エレベーターで三階へ上がる。
扉が開くとそこには何か長い行列ができていた。
奥を見てみると、その要因となる人物が笑顔で話しては、何かを書いてというのを繰り返していた。

あぁ、これが噂のサイン会・お渡し会と呼ばれるものか。初めて見たな。

気づくと彼女はあまり見たことないスピードで本を手に取り先に列へと並んでいた。
好きなものを目の前にすると人間は自ずと、ものすごい早さで行動できるらしいと学んだ。

私も隣に並び、彼女から本を貸してもらった。
それは思ったよりも重く、開くと印刷された紙の独特な香りがした。それらに懐かしさを感じ、
「この重みと匂い、なんだかいいな。」
と当たり前の事を言ってしまったが、彼女はそれに目をキラリと光らせて
「でしょ?!紙媒体はこれがいいのだよ〜!電子には無い重みを感じれる!そして読めば読むほど私だけの本になってゆくの。」
…並んでる間紙媒体の魅力を存分に語ってくれた。

いつだったか、彼女が「私は平凡な人生しか歩んでないし、これと言って特化した部分も無い、平坦な人生を送ってきた。」と言っていたが、そんなの嘘だ。
こんなに本が好きじゃないか、キラキラとしてるじゃないか。
私は彼女のそんな所が昔から羨ましかった。

いつの間にか順番は私たちになり、彼女は緊張した面持ちで作者に精一杯の愛を伝えた。

「あああ、あの、私!先生の本です!!!」

どうやら彼女はその作者の本になってしまったらしい。
顔を真っ赤にする彼女を見て作者はクスッと笑った後、にっこり微笑んで「ありがとうございます、嬉しいです。きっと沢山読んでくれてるんですね。」と応えた。
まさかの神対応に二人でズキュンとハートを射抜かれた。

彼女は赤面したまま「これからも楽しみにしてます!」と伝え、私たちは近くにあるカフェに寄った。

彼女は先ほどの事件を引きずっており、ずっと手で顔を隠していた。
「もう終わりだ…この地球の果てまで飛んでいきたい!!」
と言っていたが、それって結局ブーメランのようにここへ戻ってくるのでは…と口から出そうになったのを引っ込めた。

コーヒーの香りが溢れる中、彼女はホットココアを飲んでいた。
猫舌なのか、永遠にフーフーしている。
対してブラックコーヒーを飲んでいる私のカップに彼女の顔がゆらりと映った。
ん?と顔をあげると、彼女が尋ねてきた。

「コーヒーって美味しい?」
「まぁ、お子ちゃまにはわからない味だろうねー。」

意地悪を言ってみた。
負けず嫌いの彼女は
「なんじゃそりゃ!私だって大人の女ですのよ〜!」
と言い小指を立て私のコーヒーを勢いよく口に含んだ。
とても苦そうだが彼女は意地を張った。
私はそんな彼女を見てゲラゲラ笑った。

辺りが夕方から夜へバトンタッチする時間、私は彼女を駅へと送り届けるため歩いていた。
駅の前へ着いたころで、私は彼女へ

「この写真と、これを預かってて欲しいんだ。」

写真とお守りのおもちゃを渡した。
彼女は写真に写っているのが誰か分かったようで、
「…なんで私に?」
と問いかけてきた。
答えは決まっていた。

「大事な人だから!」

驚いた表情の彼女を視界が捉える前に私は
「じゃあ、用事があって忙しいからまたな!」
と足早にその場を去った。

このとき、私はしばらく彼女と会わないと決めていた。
兄貴の自殺の真相を突き止めるまでは。
あのお守り達は彼女にまた会えるようにするための口実だった――。

私は次に職場へ向かった。
店に着き、中に入ろうとしたとき店長が出てきてタバコに火を着け、フゥーと煙を吐いた。

「お前、一週間休め。足りなければもっと休め。」
「え、なん…」

何でと言いかけたところで

「いいから、とにかくここは大丈夫だから。いつでも戻ってこい。」

店長は私の状況を分かっていたのかいないのか知らないが、何かを察したように言ってきた。

タバコの火を消した後頭をワシャワシャされ、やめろ、いやだねを繰り返した後、店長は「またな。」と言い店へ戻って行った。

くしゃくしゃにされた髪を直しながら、私は何故か悔しい気持ちが込み上げてきた。
「店長すっげぇな…。」

店長と出会ったとき、あんな人になりたいなと心の底から思ったのを思い出した。


#6 -終わり-

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